混浴
「ああ……こういうことですか……」
僕は苦笑いを浮かべながら、岩造りの大きな露天風呂の温かいお湯に首まで浸かっていた。
膝の上には、抱きかかえられたアニー。そして僕のすぐ目の前では、背が低すぎて深い湯船だと溺れてしまうため、洗面桶のような小さな水たまりサイズの湯にちょこんと浸かっている、ピンクの小さなウサギ姿のドレイクがいた。
「ははは……! そうなんですよ、こういうことなんです!」
ドレイクがお湯をパシャパシャとはじきながら豪快に笑う。
僕の周りを見渡せば——悠々と肩まで浸かる大きな熊、気持ちよさそうに目を細める馬、頭にタオル代わりに葉っぱを乗せた猿など、あらゆる種類の『動物たち』が湯気に包まれながらまったりとお湯を楽しんでいた。
「混浴って……こういうことなんですね……」
——遡ること、30分前。
無事に目的の温泉地へと辿り着いた僕たち。
案内役のドレイクは、少し申し訳なさそうに旅の露天風呂の前で説明を始めたのだった。
「ええと、男性の湯はこちらで、女性の湯はこちらなのですが……アニー殿は『混浴』の方になりますな」
「いやぁぁぁぁぁっ!! なんでわけの分からないところに来て、意味の分からない『ブンセン』に入らなきゃいけないのよぉぉおっ!!! いつも勇斗と一緒にお風呂に入ってるのにーっ!!」
案の定、アニーは全身の毛をこれでもかと逆立てて大暴れで抵抗した。
「参りましたな……。では仕方ありません、勇斗殿も混浴の方へ……。本来、人間の男性の入湯はルール上禁止されているのですが、魔力を持たない人間であれば、動物たちも警戒しますまい」
「えっ、僕に魔力があるかどうかって分かるんですか?」
「はい。我が国の者は動物の優れた嗅覚を持ち合わせておりますので、匂いで魔力の強さも一発で分かりますぞ!」
ドレイクが誇らしげに胸を張る。なるほどなぁと納得していると、ふと周りを見渡して違和感を覚えた。
「あれ? そういえばカイトは……?」
「ああ、カイト殿は温泉というか、湯浴み自体がお嫌いなようでしてな。『熱い湯に入るくらいなら散歩でもしてくる』と、先に行かれました」
(……ああ、そうか。『カラスの行水』って言うもんね……)
鳥人のカイトがお風呂嫌いなことに、妙に合点がいってあっさり納得する僕。
「じゃあな勇斗〜! 混浴楽しんでこいよ〜!」
「のぼせるなよ〜!」
温泉へと向かうアーシュとフランが、僕に向かってニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて手を振っていたのだった。
——で、現在に至る。
「……まさか、動物との混浴とはね……」
「我々の国の者は、人間の姿と動物の姿のどちらにもなれますからな。動物の姿でお湯に浸かる場合は、この混浴に入るのがルールなのです」
「はは……そうですか……」
(……ドキドキして損した……! 混浴って聞いて、僕がどんだけ手汗かいたと思ってんだよ!!)
心の中で叫びながらお湯に沈んでいると、膝の上からアニーがチラッと僕を見上げてきた。
「ねえ……なんか勇斗、がっかりしてない? 裸の女の人でも想像してたんじゃないの……?」
怪訝そうな目でじーっと顔を覗き込んでくるアニー。
「ま、まさか!! そんなこと思うわけないだろ、僕がっ!!」
僕は顔を真っ赤にして全力で否定した。
「はいはい、どーだかねぇ。……でも、この『ブンセン』すっごく気持ちいいわ〜……」
アニーはフニャリと表情を緩め、温かいお湯の心地よさにトロンとした目になって僕の腕の中で丸くなった。
「だから……『オンセン』だって言ってるだろ……」
僕は呆れつつも、疲れがじんわりと吹き飛んでいく温かさに身をまかせ、深く息を吐き出したのだった。




