旅の休息
「うわあ……! 見てよ勇斗、この果物! ちゃんと赤くてすっごく美味しそう!」
賑やかな市場に足を踏み入れるなり、フランが目を輝かせて露店へ駆け寄っていった。モノクロだった頃にはグレーの塊にしか見えなかった露店のりんごやぶどうが、瑞々しい色彩を取り戻して綺麗に並べられている。
「本当だ! 街が生き返ったみたいで、歩いてるだけでワクワクするね!」
僕たちは活気あふれる街の中を歩き回り、買い物を楽しんだ。フランは珍しい布地や装飾品を熱心に吟味し、アーシュは「旅の補充をしておかないとな」と干し肉やポーションを買い揃えている。
そして夕方、ドレイクの案内で港の近くにある賑やかな酒場兼宿屋へと入った。
「さあさあ! 青の復活と、俺たちの無事を祝って——乾杯だーっ!!」
ドレイクの豪快な発声とともに、大きな木製ジョッキが打ち合わされる。
テーブルの上に次々と運ばれてくるのは、獲れたての新鮮な魚介を使った温かいスープや、香ばしく焼き上げられた大きな魚のムニエル、焼き立てのパン。
「うまっ……!! 海の幸ってこんなに美味しかったんだ……!」
「ハッハッハ! そうだろう! これがこの街自慢の海鮮料理だ!」
ドレイクは山盛りの料理を凄まじい勢いで平らげていき、カイトも「おいドレイク、俺の分まで食べるなよ!」と笑いながら肉料理をつついている。アニーも僕の膝の上で、魚のソテーを「美味しいわね」と嬉しそうに味わっていた。
過酷な凍てつく世界を生き抜いた後の温かい食事と笑顔。みんなの楽しそうな声を聴いているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。
食事を終え、夜。僕たちは宿屋の一番大きな部屋を一つ借りて、みんなで一緒に過ごすことにした。
「……なんか、こうやってみんなで同じ部屋でゴロゴロするの、修学旅行みたいで楽しいな」
「シュウガクリョコウ? よく分からないけど……勇斗たちの世界には、こんな楽しい時間があるのか?」
フランが枕にアゴを乗せながら、コバルトブルーの瞳をくりくりとさせて尋ねてきた。
「うん。みんなでお泊まりして、夜遅くまで喋るんだ。……今日みたいにね」
「へえ、いいなそれ! 城に戻ったら、トニーさんたちも混ぜてみんなでやろうよ!」
フランが嬉しそうに笑う。横では、お腹いっぱい食べたドレイクが「ムニャ……ウサギじゃないぞ……」と既に気持ちよさそうな寝息を立て始めていて、カイトが呆れ顔で掛け布団を投げてやっていた。
「……そういえばさ、アーシュ」
枕にアゴを乗せてゴロゴロしていたフランが、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべてアーシュを見上げた。
「今日は女の子のいる飲み屋に行かなくていいのか〜〜?」
「おいおい、フラン。人聞きの悪い言い方をするなよ」
からかわれたアーシュは、嫌がる風でもなく「ハハッ」と爽やかに軽く受け流した。
「今回はドレイクの出身国を目指すんだから、どんなところか最初から分かってるし、情報収集のためにそういう店へ行く必要もないだろ? ……それにさ」
アーシュはそこで言葉を区切ると、僕の隣にいたアニーへチラリと意地悪で優しい視線を送った。
「……そんなところに行ったら、アニーちゃんがやきもち妬いちゃうからな!」
「なっ……! 誰がっ!! や、やきもちなんて絶対に妬かないもんっ!!!!」
不意打ちを喰らったアニーは、毛を逆立てて顔を真っ赤にし、前足をバタバタさせて大あわてで否定した。
「ふふ、本当かな〜? 正直になればいいのに」
「フランまでからかわないでよ!! ! アーシュがどこへ行こうと知ったことじゃないわよっ……!!」
支離滅裂になりながら僕の背中に隠れるアニーの姿に、部屋中からどっと温かい笑い声が巻き起こった。横で横たわっていたカイトも「相変わらず賑やかだなあ」と可笑しそうに目を細めている。
「ハハ、ごめんごめん。からかいすぎたな。……でも、こうして笑い合えるのが一番だ」
アーシュが静かに立ち上がり、窓辺から夜の街並みを見つめる僕の隣へと歩み寄ってきた。
「勇斗。腕の怪我、本当にもう痛まないか?」
「うん、アーシュ。赤の鉱石のおかげで、すっかり元通りだよ」
「そうか……よかった」
アーシュはホッとしたように目を細め、部屋の中にいる全員の顔を順番に見渡した。
「みんな無事で、本当に良かった。……次はドレイクの故郷、『黄金色の草原』だな」
「うん! 明日からは『黄色』を取り戻すために、またみんなで頑張ろう!!」
僕が力強く意気込むと、背中から顔を出したアニーも「あたしもついてるんだから、百人力よ!」と強がりつつも誇らしげに胸を張った。
「頼もしいな。……よし、明日に備えて今夜はしっかり休もう」
アーシュが優しく微笑み、部屋のランプの火をそっと消す。
暗闇の中、仲間の穏やかな寝息と、窓の外から聞こえる静かな波の音に包まれながら、僕はゆっくりと目を閉じた。明日の新たな冒険へと、確かな希望を抱きながら。
暗闇の中、仲間の穏やかな寝息と静かな波の音に包まれながら、僕たちは明日への希望を抱いて眠りについたのだった。




