アニーの秘められた能力
「そうか! じゃあ、行こう!! この先に街があるから、そこで少し休憩したり食事をしたりできるぞ!!」
ドレイクが大きな腕を組んで言った。
「やったー! 休もう休もうー!」
フランが子供のように大喜びでピョンと跳ねる。するとアーシュが僕へと歩み寄り、しゃがみ込んで目線を合わせてくれた。
「勇斗、ちょっとじっとしていてくれ」
アーシュはそう言うと、まだこの世界に色が完全に戻りきっていないアニーの毛色と、僕の皮膚の色が目立たないよう、メアリーからもらった服の襟元を正し、スカーフを丁寧に巻き直してくれた。
「よし……これなら街の中に入っても不自然じゃないはずだ。怪我はもう大丈夫なようだけど、油断は禁物だからな」
アーシュは優しくニッコリと微笑んで、僕の肩をぽんと叩いてくれた。
海岸沿いに続く静かな道を、みんなで並んで歩き始める。心地よい潮風を感じながら進んでいると、アーシュがふと思い出したように声を上げた。
「それにしても……アニーちゃん、あんな姿に変身することができたんだね!」
アーシュの瞳が、少年のようにキラキラと輝いている。
(そうだった……!!)
崖からの滑落、現実世界への緊急避難、赤の鉱石での奇跡的な治療、そして絵への絵の具の着色……。次から次へと怒濤の展開が押し寄せていて、僕はアニーがあの極限状態で見せた「巨大で美しい霊獣」の姿について、何ひとつ聞けていなかったことを思い出した。
「いやぁ、あれは本当にすごかったな! 空を切り裂くような翼で一瞬で追いつくんだからな!」
カイトが感心したように腕を組んで頷く。
「ええ。あれがなかったら、勇斗殿は無事では済まなかったでしょう……まさに奇跡の救出劇でした」
ドレイクも深く感心した様子で頷き、フランがアニーに顔を近づけた。
「すっごくかっこよかったよ、アニーちゃん!」
仲間たちから次々と送られる称賛の言葉。けれど——僕の肩に乗っているアニーの表情は、どこか暗く曇っていた。
アニーは小さくうつむき、力なく首を横に振った。
「……自分でも、よく分からないの」
「え……?」
「なぜあの時あんな姿に変身できたのか……また同じことができるのかも、私にはサッパリ分からないのよ。……ただひとつ分かっているのは、あの時、自分の中にあった魔力を『全部』使い切ってしまったってこと」
アニーはぎゅっと自分の前足を握りしめ、消え入りそうな声で言葉を紡いだ。
「もし勇斗が赤の鉱石を使って治療してくれなかったら……私は魔力が完全に底をついて、数週間はこの世界に入ったり、向こうに戻ることすらできなかった。……だから、あれはあまり良い方法じゃないと思うの……」
仲間たちの称賛とは裏腹に、アニーの胸の中に残っていたのは、自分の無力さと、元の世界に僕を戻せなくなるかもしれないという強い「恐怖」だったのだ。
「……そうかそうか」
悲しげに瞳を伏せるアニーの言葉を静かに受け止めると、アーシュはどこまでも温かい、優しい微笑みを浮かべた。
そして、僕の肩の上で小さく丸まっているアニーの頭を、大きな手で愛おしそうにそっと撫でた。
「じゃあ……俺たちがもっともっと強くならないとな」
「え……?」
思いがけない言葉に、アニーは驚いて顔を跳ね上げ、大きな瞳でアーシュを見つめた。
「そしたら、アニーちゃんがそんな危険な力を使わなくて済むだろ?」
アーシュはそう言うと、どこか悪戯っぽくパチンとウインクしてみせた。
(っ……!!)
いつも頼れる大人のアーシュが見せたその不意打ちの眩しい笑顔に、アニーのハートが一瞬で撃ち抜かれる。
「〜〜〜〜っ! べ、別にあなたたちに守ってもらわなくたって……っ!!」
強がりながらも顔を真っ赤にし、照れくさそうに僕の首元へ顔をうずめてモジモジと小さくなるアニー。さっきまでの暗い雰囲気が一気に吹き飛び、その愛らしい姿に思わず周りのみんなからもフッと笑みがこぼれた。
「さあ! 次の街に着きましたぞ!!」
先頭を歩いていたドレイクが足を止め、ドーンと胸を叩いて振り返った。小高い丘の上から見下ろすと、そこには海岸線に沿って美しい街並みが広がっていた。
「うわぁぁぁ……っ!!」
僕たちの口から、思わず歓声が漏れ出た。
緑、赤、そして先ほど取り戻した『青』——3つの色彩が世界に満ちたことで、街の瓦根や壁のレンガ、港に浮かぶ船の木肌や美しく澄み渡る海の青が、鮮やかに照らし出されていたのだ。活気ある人々の歓声や潮の香りが、色の復元とともに溢れ出している。
「やっぱり、街に来ると色が戻ったことがすごくよく分かるね……!」
フランが目を輝かせ、コバルトブルーの美しい瞳をキラキラと反射させながら街並みを見渡した。
モノクロの絶望の世界から、命と彩りに溢れた世界へ。僕たちは新たな希望を胸に、賑わう街へと足を踏み入れていった。




