次の目的地
「勇斗ーーーっ!!」
聞き覚えのある声が響き渡った。その声に導かれるように声のする方を振り向くと、海岸沿いに広がる森の木々を押し分けるようにして、フラン、カイト、アーシュの三人がこちらへ向かって夢中で走ってくるところだった。
「みんなっ!!」
僕もアニーと一緒に手を振りながら、駆け寄ってくる仲間たちのもとへ走った。
「無事だったんだね……っ! よかった、本当によかった……!!」
駆け寄ってきたフランは、僕の肩をガシッと掴むと、信じられないものを見るような目で見つめてきた。
「ああ、なんとか無事だ……! お前こそ、怪我は!? 大丈夫なのか……!? あの崖の上からお前たちの姿が突然消えたと思ったら……次の瞬間、世界中に一気に『青』が現れたんだ!!」
「そうだぞ、勇斗!! 吹き荒れてたあの恐ろしい猛吹雪も、急に穏やかな潮風に変わってよ……! 一体何がどうなったんだ!?」
カイトも大きな黒い翼を少し揺らしながら、心底ホッとしたような笑顔で僕の顔を覗き込んできた。
後ろから追いついてきたアーシュも、荒い息を吐きながら僕の無事な姿と、胸元で元気に鼻を鳴らすアニーを見て、深く、深ーく息を吐き出した。
「……よかった。本当に……無事でよかった……! アニーちゃんを俺に預けて落ちていった時、どうなることかと生きた心地がしなかったぞ……」
「ごめんね、みんな。心配かけて……!」
僕はみんなの顔を見渡し、もう一度、青く澄み渡った美しい空と海を見上げた。
「でも、見てよ。青の鉱石の力で……この世界に、本当の姿が戻ったんだ!」
「ほら、見てくれ! 俺の瞳の色が戻ってるんだろ!? 鏡がないから自分ではよく分からないんだけど、アーシュが教えてくれたんだ!!」
フランが嬉しそうに顔を近づけ、自慢するように僕の目を覗き込んできた。
モノクロだった世界から『青』が取り戻されたことで、フランの目には、透き通るような美しいコバルトブルーの光が宿っていた。
「本当だ……! すごく美しくて、澄んだ青い瞳だね!」
素直にそう伝えると、フランは一瞬目を見開いたあと、「っ……べ、別にお前に褒められたくて言ったわけじゃないからな!」と耳まで真っ赤にして少し照れて横を向いてしまった。
「これでトニーさんの瞳も綺麗に元通りだね! トニーさんも確か、僕と同じ澄んだ青い瞳だったから!」
「そうだな。城で待ってるトニーのやつも、きっと驚いてるはずだ」
アーシュも嬉しそうに頷く。美意識の高いフランは「ふふん、城に戻ったらトニーさんに見せつけてやります!」と満足気だ。そんなやり取りを横で見ていたカイトが、呆れたように小さく溜息をついた。
「おいおい、人の目の色の話はあとだ。……それより勇斗! 戻ってきたってことは、次の目的地と探す『色』が決まったんだろ!?」
「あ、うん! そうなんだ!」
僕はうなずき、新たなページの光景を思い出しながらみんなを見渡した。
「次は『黄金色の草原』へ行かないといけないんだけど……みんな、どこか心当たりはないかな?」
「それなら——」
カイトが口を開きかけた、その時だった。
カイトの服の胸元から、ピンク色の小さなウサギの姿をしたドレイクがもぞもぞと這い出してきた。そしてそのまま地面へ勢いよく飛び出すと——
——ボォンッ!!!!
激しい煙とともに、一瞬にして元の「ピンク色の髪をした筋肉隆々の大男」へと変身した。
「それなら、俺の故郷だ!! 喜んで案内しよう!!」
豪快な立ち姿でドーンと胸を叩くドレイク。
「そうなんですか!? それはありがたいです!! 助かります!!」
ドレイクのダイナミックすぎる登場に驚きつつも、一気に次の手がかりが見つかったことに、僕とアニーは顔を見合わせて喜び合った。
「さっきまでの吹雪の中では、俺の懐で小さく丸まってブルブル震えてたくせに……寒さが落ち着いた途端、まるで別人だな!」
カイトがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながらドレイクをからかった。
「カイト様、意地が悪いですよっ! 俺にだって苦手なもののひとつや二つ、ありますって!」
ドレイクは大きな体を少し縮こまらせて抗議したが、カイトはなおも面白そうに笑いながら言葉を続ける。
「そういえば、お前はカラスも苦手だったよな」
「カラス……?」
僕が不思議そうに首をかしげると、カイトが笑ったまま教えてくれた。
「ああ。俺の育った『鳥人の国』には、護衛として真っ黒なカラスが大勢いるんだが……昔こいつが遊びに来た時、運悪くウサギの姿だったもんだから、敵と間違えられて集団で突っつかれてな。それ以来、トラウマになって二度と来なくなったんだよ」
「いやあ、ハッハッハ! あれは本当に参りましたよ! 生きた心地がしませんでした!」
ドレイクは豪快に笑い飛ばしながら、照れくさそうに大きな手で頭をガシガシと掻いた。あんなに強そうな大男なのに、ウサギの時の災難を覚えていると思うと、なんだか可愛らしく見えてくる。
和やかな空気にフッと心がほぐれたところで、僕は肩の上の相棒に声をかけた。
「アニー! 次の色の匂いはどう……!?」
「う……うん……。あっち……かな……?」
アニーは小さな鼻をひくつかせ、どこか遠くを見つめながらぽつりと呟いた。いつものハキハキとした切れ味のある声ではなく、どこか気のない、消え入りそうな声だった。
『青の鉱石を取り戻して良かった』という安心感と、ドレイクたちの賑やかな会話に気を取られていた僕は、その声の違和感を見過ごしてしまった。
——この時、僕はまだちゃんと気づいていなかったんだ。アニーの身に起きていた、小さな異変に。
後から思えば……アニーの様子は、もうこの時から既におかしかったんだ。




