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ノスタルジア・パレット 〜白黒の絵と、僕らの異世界色集めの旅〜  作者: VANRI


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アーシュのお仕事

 翌朝、窓から差し込むまぶしい光と、爽やかな明るい声に起こされた。


「さあ!  今日も元気に行こうか!!」


 パチッと目を覚ました僕は、ベッドの脇で颯爽と立ち上がっている人物を見て思わず目を疑った。


「えっ……!?  アーシュ……?  昨日あんだけベロベロだったのに、もうケロッとしてるの……!?」


 二日酔いの欠片すら感じさせない満面の笑みだ。


「二日酔いとかないの……?」


 僕の隣で身支度を整えていたフランが、呆れ果てたようにアーシュを見ながらつぶやいた。


「こいつ、めちゃくちゃ酒強いから次の日に全然影響出ないんだよ」


「えっ!?  そうなの!?  すごいな……でも、昨日あんなにベロベロになってたよ……?」


「よっぽどたくさんの店を飲み歩いたんだろうよ」


「え?  そこまでして飲みたくて……?」


 僕が頭の上に大量のハテナを浮かべていると、フランは腰に手を当ててアーシュを睨みつけた。


「おいアーシュ!  旅の貴重な金を使って飲み歩いた分の『成果』は、当然あったんだろうな?」


「あはは……当たり前じゃん!」


 アーシュはニシシと悪戯っぽく笑う。

 状況が呑み込めていない僕に、フランが言葉を続けてくれた。


「こいつ、お前たちのために情報収集で女の子たちの店を飲み歩いてたんだよ。酒を飲んだ人間の方が口が軽いだろ?  そこ接客してる女の子たちなら、そういう酔っ払いからの噂話や情報がたくさん入ってくるからな」


「えっ!?  そうだったの!?」


 僕は驚いてアーシュを見た。ただ遊んでいたわけじゃなく、僕たちのために裏でそんな危険でスマートな動きをしてくれていたなんて……!


 その時、僕の横でモゾモゾと毛布が動き、アニーがむくっと起き上がった。


「ふぁぁ……ん……」


 昨夜のバクバクで知恵熱を出したアニーは、まだ少し眠たそうに目をこすっていたのだが——フランの言葉を聞いた瞬間、ピクッと大きな耳を直立させた。


 アーシュの真意と、陰で自分たちを守ろうとしてくれていた男気そして酒の強さを知ったアニーが、みるみるうちに挙動不審になっていく。昨夜のパニックとはまた違う、キュンとした羨望と恋心の混ざった眼差しで、アニーはアーシュをうっとりと見つめ直していた。


 そんなアニーの視線に気づいているのかいないのか、アーシュはフッと不敵な笑みを浮かべると、ポケットから一枚の紙を取り出した。


「フッ、じゃあ早速これを見て!!」


 そう言ってテーブルの上にパッと広げたのは、手書きの細かな注釈がびっしりと書き込まれた、一枚の地図だった。

 アーシュがテーブルの上に大きく開いた地図をポンポンと指さしながら説明を始める。


「まず、今俺たちがいる街がここな。で、ここから街道をまっすぐ進むと目的地の『海のある国』に着く」


 アーシュは地図の一点を指でなぞり、僕とフランの顔を交互に見つめた。


「……わかるか?」


 その言葉の真意を悟ったフランが、即座に眉をひそめて反応した。


「妙だな……」

「ああ」


 ふたりで深く頷き合っているが、僕とアニーは理由が分からずキョトンと顔を見合わせるしかなかった。


「ほら、見てみろ勇斗。ここ、地図の記載でもやっぱり『海』なんだよ。氷山や氷の国なんて一言も書いてないだろ?  もし常冬の国なら当然記載されるはずだし、第一……海がまるごと凍りつくなんて、今まで聞いたこともない」


「やっぱり……僕たちが赤を取り戻す前に世界が変わっちゃったみたいに、あそこでも何か異常が起こってるんだな……」


 フランの解説に僕が納得すると、アーシュが真剣な面持ちで言葉を重ねた。


「ああ。それと、噂通りその周囲でも厄介なモンスターが出るらしい」


「なら、それに見合った武器の調達も必要そうだな」


 フランが顎に手を当て、即座にこれからの行動計画を組み立てていく。


(すごい……ただ買い出しをして突っ走るだけじゃなくて、こうやって事前にリスクを予測して準備するんだ……!)


 目まぐるしく交わされるふたりの完璧な考察と手際の良さに、僕はただただ感心するばかりだった。

 ふと腕の中を見ると、アニーもアーシュとフランの高度な作戦会議を聴き逃すまいと、大きな耳をピンと前に向けて必死に耳を傾けていたのだった。



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