選抜メンバー
ゼインが僕らを見回しながら、顎に手を置き考える様子を見せる。
「勇斗と共に青の国へ行く者は……ドレイクはもちろんだが、国を治める立場である我や、狙われやすいメアリーは難しいだろう。だが道中に強力なモンスターが出たときのために、戦力は必要だろうな……」
だが、ゼインが、ふっと口元を緩めて声を張り上げた。
「カイト!!」
その名を呼んだ瞬間——バサアッ!! と激しい羽ばたきと共に、部屋の大窓から一筋の風が吹き込んできた。
舞い散る風を背に、舞い降りたカイト。背中に生えた美しい漆黒の翼を広げ、着地と同時に滑らかな動作でゼインの前に片膝をつき、深々と頭を垂れる。
「兄上、お呼びでしょうか」
凛とした声、一切の無駄がない完璧な所作。カイトのその瞳には、実の兄であり王であるゼインに対する、心底からの深い尊敬と忠誠の色が宿っていた。
いつでも兄のためなら命すら捨てる——そんな覚悟が全身から溢れ出ている、文句なしにカッコいい登場シーンだった。
……そこまでは良かったのだ。そこまでは。
「カイト、お前に頼みがある。勇斗たちの旅に同行し、青の国へ行ってやってくれ」
ゼインの口から出た言葉に、カイトの体がピキリと固まった。さっきまでの冷徹で完璧な騎士の空気はどこへやら、彼は素で顔を歪めると、情けない声を上げた。
「えええーーーっ!? お、俺が、ですか……!?」
「そうだ。頼めるか?」
「いやいやいや! メアリーのような可憐で可愛らしい子のお供なら喜んで引き受けますけど! なんでこんな胡散臭くて野暮ったい奴と、その辺のペットのお守りを僕がしなきゃならないんですか!?」
ひどい言い草だ。僕とアニーを交互に指さしながら心底嫌そうに叫ぶカイトに、アニーが「誰がペットよ、このド悪魔!」と毛を逆立てて威嚇する。
だが、ゼインはそんなカイトの反論にも腹を立てる様子はなく、ふっと優しく目を細めた。
「まあ、そう言うな」
ゼインは歩み寄ると、カイトの華奢な肩に、己の大きくゴツゴツとした温かい手をポンと置いた。
「お前の真の力と、その優秀さを誰よりも知っているからこその頼みなのだ。……私では駄目だ。お前にしか、任せられん」
「っ……!?」
カイトの顔が瞬時に真っ赤に染まる。ゼインの包み込むような眼差しと肩の温もりに、胸を撃ち抜かれたような顔で固まっている。——チョロい。信じられないくらいチョロいぞ、この弟!
「や……やります!! 兄上がそこまでおっしゃるなら、このカイト、地の果てまでも行ってご覧にいれます!!」
一瞬でやる気1000%になったカイトは、胸を張って力強く叫んだ。
その様子を、ドレイクが目尻を下げて嬉しそうに見つめている。
「おお、流石はカイト様! 幼少の頃よりお傍で見守ってまいりましたが、相変わらずゼイン様想いの素晴らしいお方だ……!」
ドレイクはイカつい巨体を揺らし、まるで孫の成長を喜ぶおじいちゃんのような目で見つめている。カイトに対しても異様なほど過保護で甘い態度だ。
(……あれ? そういえば……)
僕は二人のやり取りを見ながら、ふとした疑問を抱き、口を開いた。
「ねえ、ゼインとカイトって兄弟なんだよね? なんでカイトにだけ羽が生えてるの?」
「あ? そんなの当たり前だろ。母親が違うんだよ」
カイトは僕の方を振り返り、さっきまでの態度が嘘のようにフンと鼻を鳴らした。
「俺の母上は鳥人族だ。だから俺は、人間と鳥人のハーフってわけさ」
「えっ、カイトは鳥人じゃないの?」
僕が重ねて尋ねると、今度はドレイクが「ハッハッハ」と豪快に笑った。
「勇斗殿、鳥人族というのはこのような天使のごとき美しい姿ではございませんぞ? 本物の鳥人は人間ほどの大きさですが、腕は翼そのもの、足も鳥の爪、顔には立派なくちばしがついております。カイト様は人間の身体に、鳥人特有の美しい羽だけを受け継がれた奇跡のようなお方なのです!」
ドレイクの熱弁を聞きながら、僕は腕の中のアニーにこっそり耳打ちした。
「(……そうかなぁ。天使っていうか、どう見ても性格は悪魔に見えるけど……)」
アニーも「(ほんとそれ。ド悪魔よド悪魔)」と深く同意するようにコクリと頷いた。
その瞬間——。
「……全部聞こえてるぞ」
ゾクッとして背後を振り向くと、僕の耳元に顔を近づけたカイトが、極上の暗黒スマイルを浮かべていた。
「鳥の聴覚、舐めてんじゃねえぞ」
「「ひっ……!!」」
僕とアニーの悲鳴が、謁見の間にむなしく響き渡ったのだった。




