第二の配色〜赤
メアリーにもらった服に着替え、アニーにスカーフを纏わせた。
白と黒のモノクロ調で仕立てられた旅装を腕を広げてメアリーに見せてみる。
「ありがとう! これで目立たなくなったよ!」
アニーも身体に巻かれた小さなスカーフの具合を確かめるように、くるくるとその場で回っている。
「よかった! 役に立って!」
無邪気に喜ぶメアリーの横で、フランだけが腕を組んで面白くなさそうにその様子を眺めていた。
「次はどこに行くんだ?」
トニーが腰の剣に手を添えながら、本題へと切り込む。
するとアニーがスルスルと僕の身体を登り、頭に被ったスカーフの上に立ち上がった。鼻をピクピクとひくひくさせ、風の匂いを嗅ぎ分ける。
そして、黒と白の小さな右前足をピシッと真っ直ぐに向かって突き出した。
『遠いけど、たぶんあっち! 赤の匂いがする!』
「へぇ、便利な鼻を持ってるな〜」
トニーが興味深そうに顔を近づけ、アニーをまじまじと覗き込む。アニーは逃げ出しこそしないものの、耳を伏せて軽く警戒の姿勢を取った。そんなアニーの背中をそっと撫でて落ち着かせる。
フランが、アニーの指し示した方角へ視線を移した。
「……あの森を抜けるのか……」
「歩きでは無理よ!」
メアリーが即座に待ったをかける。
「まあ、最近物騒なのも出てるしな……。これ持っていくか?」
トニーが事もなげに、自分の腰に携えていた重厚な剣を鞘ごと勇斗へ差し出してきた。
「い、いや……っ!! 僕は人どころか動物に剣を向けることもできないですし、そもそも剣自体使ったことがないので……っ!!」
ぶんぶんと激しく首を振って辞退する。それと同時に、フランとトニーの会話から漂う穏やかじゃない空気に唾を飲み込んだ。
「あ、あの……あの森は、そんなに危険なんですか……?」
恐る恐る尋ねると、フランが冷ややかな視線を落とす。
「まあ、森の先にドラゴンより恐ろしいモンがいるしな……。だいぶややこしいことになりそうだな……」
意味深すぎるフランの言葉に、僕は背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
「馬車を貸しましょう」
思案顔の僕たちに、メアリーが助け船を出してくれた。
「でも、こいつは馬すら動かせなさそうだぞ」
トニーが僕の細い腕を見ながら、やれやれと肩をすくめる。確かに、車の運転すら覚束ない僕に馬車なんて扱えるはずもない。
「じゃあ、私がついていくわ!!」
「ダメだよメアリーちゃん!! またドラゴンが出るかもしれないじゃないか!!」
メアリーの提案に、フランが身を乗り出して必死に阻止しようとする。
「大丈夫よ!!」
「何が大丈夫なんだよ……」
トニーの呆れ果てた顔を前に、メアリーは「ふふっ」と可愛らしく悪戯っぽく笑った。
「私が行くって言えば、優秀なあなたたちがついてきてくれるでしょ?」
「おいおい……ふざけんなよ。なんで俺たちがわざわざ変なことに巻き込まれなきゃなんねえんだ……」
頭を抱えて溜息を吐くトニー。だが、隣のフランは一瞬で手のひらを返した。
「当たり前じゃないか!! 僕がメアリーちゃんとその男をふたりっきりにさせるわけがないじゃないか!!」
『ちょっと!! あたしをカウントしなさいよあたしを!!』
胸元から飛び出したアニーが、「完全に無視された」ことにイラッとして前足をワシャワシャさせながら抗議の声を上げる。
「さあ! 決まりね! すぐに準備するわ!!」
騎士たちの扱いを完全に熟知しているメアリーは、うきうきした足取りで馬車の準備へと向かっていく。
澄み切ったエメラルドグリーンの瞳を輝かせる彼女を見送りながら、僕はふと、さっき見た彼女の姿を思い出していた。
(……メアリーの髪は、本当は何色なんだろう)
彼女の長い髪は、この世界ではまだ「白」のままだ。今、僕に見えているのは、白黒の世界で風になびく美しい銀糸のような髪と、緑色を宿した瞳だけ。
(『赤』を取り戻したら、彼女の金髪にも何か変化が現れるのかな……それとも、もっと先の色を取り戻した時か……)
これから向かう「ドラゴンより恐ろしいモノ」がいるという森の先。一癖も二癖もある騎士団長と副団長を連れた、賑やかで少し危険な旅が、今まさに始まろうとしていた。




