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ノスタルジア・パレット 〜白黒の絵と、僕らの異世界色集めの旅〜  作者: VANRI


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メアリーの正体と世界の謎

 トニーがふっと笑いながら、メアリーたちの方へすらっと長い脚で足を進めた。


「いやいや、脅かすなんて人聞きの悪いことは言わないでくれよ、メアリー」


 そして、腰に携えた剣の柄にそっと手を置きながら、笑顔で僕の方を振り返った。


「俺はいつでも本気で言ってるさ」


 ……本気なのかよ。僕は背筋が凍る思いがした。

 だが次の瞬間、トニーはこちらに全身を向けたかと思うと、恭しく頭を下げた。


「フランが礼儀知らずで申し訳ない。俺はこの国の騎士団長のトニーだ。そこで君に噛みつこうとしているふわふわ頭がフラン、副団長。それともう一人いるんだが、3人でメアリーの警護をしている。

 ……なのに、俺たちの隙を見ていつも逃げ出すんだよ、こいつは」


 呆れたようにメアリーに視線を向けるトニー。メアリーは気まずそうに苦笑いしている。


「え?  警護……?  やっぱり、このたたずまいは偉い人の娘さんとか……ですか?」

「え?」

「え?」


 僕の問いかけに、トニーが心底驚いた顔で目を丸くしたかと思うと、ハァと呆れた顔に変わった。


「メアリー、お前まさか言ってないのか……?」

「あ……えっと、別に言う必要もなかったかなって……」


 トニーは大きくため息をつき、手を額に当てながら僕に視線を戻した。


「こいつは、この国の王女だ」

「ええっ!?」


 あまりの事実に僕が叫ぶと同時に、僕の懐に隠れていたアニーも『な、なんですってぇぇぇ!?』と叫びながら飛び出してきた。


 儚げで可憐な少女だとは思っていたけれど……まさか、滅びかけたこの国のトップ、本物の『王女様』だったなんて!


 色があれば、まだ気づいたかもしれない。だが、この白黒の世界では、豪華なドレスも少し飾りのついた白い服でしかなかった。


 近くの大きな木の木陰へ移動し、僕とメアリーは二人(と一匹)でこれまでの経緯をトニーとフランへ説明した。説明している間も、フランはずっと疑いの目を隠さず、僕を険しい顔で睨みつけている。


「……なるほど。それが本当なら、俺たちにとっても願ってもない助けだな」


 腕を組み、深く頷くトニー。だが、フランは「ふん!」とそっぽを向いて鼻を鳴らした。


「信用できないね!  だいたい髪色が『黒』なのが気に食わない!  黒髪にいい奴なんて一人もいないんだ!!」

「おいおい……」


 トニーは呆れ笑いを浮かべながら、僕の方へそっと顔を寄せた。


「悪いな、こいつトゲトゲしてて。でも分かってやってくれ。世界から色が消えてしまって、自分の美しさが半減したってずっと虫の居所が悪いんだよ」

「あ……そうなんですか……」


 木陰の草の上に座り込み、プイと横を向いているフランに目を落とす。


 実際の日常風景を思い出せば分かる通り、世界には真っ白や真っ黒なものなんてほんの一部だ。この世界も「白黒」と言いつつ、実際は濃淡のある「グレー」の世界に見えている。

 だからこそ、目の前の男の整った顔立ちや上質な仕立ての服、磨かれた剣の質感までハッキリと伝わってくるのだ。


「色がなくても、十分美しさが伝わってくるのに……。そんな怒った顔をしてたら、もったいないですね」


 僕が思わずポロリと口からこぼした言葉に、フランが「ッ!?」と驚いて反応し、がばっとこちらを振り向いた。


「そ、そんなこと言ったって騙されないぞ、僕は……!!」


 いくらグレーの世界であっても、彼が耳まで真っ赤に染まったのは濃淡でハッキリと分かった。案外、単純ないいヤツなのかもしれない。

 そんなやり取りを見守っていたメアリーが、スッと立ち上がって僕の目の前にやってきた。


「勇斗、あなたにプレゼントがあるの!」


 そう言って、彼女は大切そうに抱えていた小さな包みを差し出してきた。


「開けてみて!」

「え……僕に?」


 中を探ってみると、そこにはこの世界の仕立ての良い衣服と、小さな布地が入っていた。肩に乗ったアニーも興味津々に包みの中を覗き込んでいる。


「これは……?」

「この世界には色がないでしょう?  だからさっきのフランみたいに、異国の色を纏ったあなたたちを見て敵だと思う人もいるかもしれないわ。だからこれから旅をするなら、この世界の衣服をまとった方がいいと思って。あと、アニーちゃん用のスカーフも。これで身体を覆い隠したら、その美しい毛色を隠せるでしょう?」


「なるほど……!  そこまで考えてくれてたんだ。本当にありがとう、メアリー」


 細やかな気遣いに胸が温かくなる。僕は包みをぎゅっと抱え直した。


「僕、頑張ってすべての『色』を取り戻すよ。この、色が一つしかない世界に」

「ううん、三つよ」

「え?  三つ……?」


 メアリーは首を小さく横に振ると、すっと指を二本立てて微笑んだ。


「ええ。ここには……白と、黒の2色があるわ」


「……あ」


「もし、あらゆる色が完全に消え去っていたのだとしたら、白も黒もなく……私たちは透明になって消えていたはずでしょう?  そしたらお互いの姿すら見えなくなっていたわ」


「最初から、白と黒の2色だけが残されていたってことか……?」


「誰が何の目的でそうしたのか、それともただの自然現象なのか……それはまだ分からないけれどね」


「そうか……」


 この世界の仕組みについて思いを巡らせていると、メアリーがぱっと顔を輝かせた。


「ねえ、今度は何の色を探すの!?」

「赤だよ」

「赤……!!  それが戻ったら、きっとすごく明るい世界になりそうね!!」


 無邪気に手を叩いて喜ぶメアリー。

 風になびく彼女の長い髪と、輝くエメラルドグリーンの瞳。


(ああ……『赤』が戻ったら、メアリーの唇は一体どんなに美しいんだろう。どんな色をしているんだろう……)


 そんな想像が頭をよぎり、不意に胸が高鳴った。


 ——だが、その視線を察知したのか、遠くからフランに「ギロリ」と恐ろしい形相で睨み上げられ、僕は慌ててメアリーから目を逸らすのだった。



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