メアリーとの再会
僕の声に応えるように、メアリーが、がばっと全身で振り返った。僕はそれを見て、驚きのあまり息を止めてしまった。
そこにいたのは、弾けるような満面の笑みを浮かべたメアリーだった。
メアリーの顔も、肌も、身に纏うドレスも、すべてあの時のまま——どこまでも儚く、美しい「白」のままだった。
けれど、何かが決定的に違っていた。
大きく見開かれた彼女の瞳。その白黒だったはずの瞳孔に、透き通ったエメラルドグリーンの光が宿っていた。
その吸い込まれそうなほど美しい瞳から目が離せない。暗かった世界に命が吹き込まれたかのように、瞳の中の瞳孔すら瑞々しい輝きに満ち溢れている。
「メアリー……君はなんて美しいんだ……」
頭で考えるより先に、言葉が素直に口をついてこぼれ落ちていた。僕は無意識のうちに一歩を踏み出し、彼女の華奢な両肩にそっと手を置いていた。
突然肩を掴まれ、まっすぐに真実の言葉を投げかけられたメアリーは、一瞬驚いたようにそのエメラルドの瞳をさらに大きく見開いた。
そして次の瞬間、ぽっと頬を赤らめると(白黒だが僕にはそう見えた)、心底嬉しそうに目元を和ませた。
メアリーが何かを言いかけた——まさにその時だった。
シャキーーーン!!
冷ややかな金属音が鼓膜を刺し、僕の喉元へ鋭い刃先が突きつけられた。
「何者だ貴様! 俺のメアリーちゃんからそのうす汚い手をどけろ! 殺すぞ!!」
「っ……!?」
あまりの恐怖に呼吸するのも忘れ、僕は慌ててメアリーの肩から手を離して後ろへ跳び去った。
物音すらしなかった。近寄ってくる気配すら感じなかった。
色彩が欠落し、遠近感が狂うこの世界だからこそ、気配を察知するのが遅れてしまったのか……?
恐る恐る声の主へ視線を向ける。
そこに立っていたのは、目を見張るほど美しい男性だった。僕と同じくらいの年代に見える。肩まで伸びた上品なカール髪を揺らし、力強い瞳でこちらを鋭く射抜いている。
男は剣を構えたまま横スライドで回り込み、メアリーを守るように自分の背後へと隠した。
「メアリーちゃん!! 危ないじゃないか!! こんな怪しいやつと二人きりでいるなんて!!」
僕の肩の上では、アニーがシャーッ! と威嚇音と低い唸り声を上げ、全身の毛を逆立てて男を睨みつけている。
「フラン、やめてっ!! 勇斗は怪しい人じゃないの!! この世界に……『緑』を取り戻してくれたのよっ!!」
メアリーが男の背中から身を乗り出し、必死の声を張り上げる。だが、フランと呼ばれた男は一切剣を引こうとしない。
「どうだかな!! 色が消え去ったこの世界の中で、一人だけ最初から極彩色を纏っているなんて都合が良すぎる!! こいつが色を奪った元凶の黒幕って可能性も十分にあるじゃないか!!」
フランはさらに激しい殺気を放ち、僕の眉間へ向けて寸分狂わぬ精度で剣先を突きつけてきた。
「言い訳があるなら聞こうか。……ただし、俺のメアリーちゃんに一歩でも近づいたら、その首を叩き落とす!!」
完全にヤバい奴に目をつけられてしまった。この圧倒的な剣圧と身のこなし……ただの嫉妬深いイケメンではない。間違いなくこの世界の騎士か、相当な手練れだ。
「ちょっと待ってくれ! 僕たちは本当に世界を治したくて——」
冷や汗が背中を伝う中、僕とアニーはあまりの事態に一歩も動けなくなっていた。
「いい加減にしろ、フラン!」
僕の背後から、低くよく通る男の声が響いた。
驚いて振り返ろうとした瞬間、僕の肩にポンと大きな手が置かれ、その場に制止された。
視線を向けると、そこに立っていたのは背がすらっと高く、スタイルの良い男性だった。長いサラサラの髪を風になびかせ、腰には重厚な剣を携えている。僕より少し年上に見えるその佇まいと洗練された雰囲気から、一目で腕利きの「騎士」だと分かった。
「でも、トニーさん……っ」
威勢の良かったフランが、剣を向ける手をわずかに緩め、不満そうにぼそっと呟く。トニーと呼ばれた男性は、静かに言葉を続けた。
「メアリーはこう見えて、人を見る目だけはちゃんとある。ここは一つ、信じてやろうじゃないか」
トニーは僕に向かって爽やかに「にっこり」と微笑んだ。
……だが、僕の肩に置かれた手には、めり込むほどの強烈な力が込められている。
「まあ——もし万が一、怪しい動きでもしてみろ。その時は即座に叩き切るまでだ」
極上の笑顔のまま発せられた容赦のない言葉に、背筋を冷たい汗が走り抜けた。この人、笑いながら一番ヤバいことを言っている……!
さっきまで威嚇していたアニーも完全に怯えきり、僕の服の胸元へ「すっ」と滑り込むように潜り込んでしまった。布の隙間から小さな顔だけをひょっこり出し、震えながら様子を窺っている。
「トニーまで脅かさないで!! 勇斗は本当に、私たちの森を救ってくれたのよ!!」
メアリーが必死に庇うように間に入ってくれたおかげで、トニーはようやく僕の肩から手を離してくれた。
フランとトニー。
一筋縄ではいかない強烈な騎士二人を前に、僕とアニーの『赤の色彩を探す旅』は、思わぬ波乱の幕開けを迎えることになった。




