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異世界霊力技師の日常  作者: 咲


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極風の渓谷へ、波乱の同行者

「あ、ごめんなさい! ……大丈夫ですか!?」

ヒナが慌てて駆け寄ってくる。


ガルクは煤けた顔で荒い息を吐きながら、信じられないものを見る目で自分の胸元とヒナを交互に見つめた。

「な……なんだ今の魔法は……!? 魔力の波動は初級以下だったぞ……!? なのに、なんであの威力と軌道変化が……!? 詠唱は!? 式の構築はどこ行ったんだ……!?」


直撃に耐え切ったものの、理論が破綻しすぎている初見殺しのバグ技をモロに食らい、ガルクの頭の中は完全にパニックを起こしていた。


「あ、あの……不合格ですか……?」

不安そうに覗き込んでくるヒナに対し、ガルクは額に汗を流しつつも、約束を守る男らしくフッと息を吐いて笑ってみせた。


「……ハッ、冗談言うな。これだけの直撃を食らわされて不合格なんて言えるかよ……! 合格だ、文句ねえ!」


大剣を鞘に納めて立ち上がったガルクだったが、その目はまだ強烈な困惑に包れていた。


テスト自体は約束通り無事に合格となり、ヒナの同伴許可が無事に下りた。リリアーナは腰に手を当てて満足げに頷くと、ふふんと胸を張った。


「ふははは! 見たか! これで我らも晴れてあの危険エリアへ足を踏み入れられるというわけだなのだよ!」


堂々と確定事項として言い放つリリアーナに対し、ガルクがあきれたように眉をひそめる。


「……いや、嬢ちゃん自身が直接危険エリアに足を踏み入れるわけじゃねえだろ」


「何を言うか! わたしも行くに決まっておるだろうが! この商会の代表として、極上素材の獲得の瞬間をこの目で見届けるのは当然なのだよ!」


リリアーナが胸を張ってドヤ顔で言い返すと、訓練場の隅から不機嫌そうな声が割り込んできた。


「おいおい、冗談だろ。そんな子供の姿をしたお遊び気分の奴が、本気でBランク指定の危険地帯に足を踏み入れるつもりか?」

冷ややかな視線を向けながら歩いてきたのは、自称・ヴァルガスの弟子と名乗る若い男冒険者だった。


「なっ……なんだと!? 誰が子供だ!?」

リリアーナはカッと顔を真っ赤にしたが、自称弟子の男は鼻で笑うだけで引こうとしない。


そこへ、重々しい足音とともに訓練場の扉からSランク冒険者ヴァルガス本人が姿を現した。


師匠の登場に、自称・弟子は慌てて姿勢を正す。だが、ヴァルガスは弟子を一瞥したあと、鋭い眼光のままリリアーナたち、その背後に控えるレイジたちを真っ直ぐに見据えた。


「……弟子を取った覚えはないが、あいつの言う通り、あそこの渓谷の吹き荒れる極風や魔力嵐はこれまでのエリアとは格が違う。物見遊山気分で来るような場所じゃねえ。下手をすれば命を落とすぞ。だが、お前らなら問題ないだろう」

ヴァルガスは、かつて自分が手合わせしたレイジの底知れぬ剣技や、あのリリアーナが纏う規格外の霊力操作、知識、そしてヒナのバグじみた魔法を脳裏に思い起こしていた。その仕組みや理屈の詳細は未だに一切分からないものの、彼らが持つ実力がBランクの危険エリアを突破するに十分見合うものであることは、身をもって把握していた。


「……ま、あそこの環境に飲まれりゃ命の保証はしねえがな」

ヴァルガスがフッと不敵に笑うと、リリアーナは「ふはは、Sランクの男もなかなか見る目があるではないか!」と、さらに得意げに胸を張り直すのだった。


「は……? 師匠、何を言ってるんですか……!? あんなガキやふざけた格好の奴らが、あの極風の渓谷で通用するわけが……!」


自称弟子は顔を引きつらせ、師匠の真意を量ろうと必死に声を荒げる。

しかし、ヴァルガスは呆れたように片手を振るだけだった。


「お前はまだ、何も知らねえからそうやって騒ぐんだ」


ヴァルガスがそれだけ言い残して歩き去ると、自称弟子は唇を噛み締めながら、不満げな視線をレイジたちへと浴びせ続けていた。


ヴァルガスは去り際に一度足を止め、レイジの元へと歩み寄ると、周囲に聞こえない低い声で話しかけた。

「……頼みがある。あの自称弟子――キールを今回の探索に連れて行ってくれねえか」

「あんな口生意気な奴をか?」

レイジが眉をひそめると、ヴァルガスは小さく溜息をついた。

「あいつは自分の腕に自惚れすぎている。魔力も見かけも幼いお前たちのパーティーを見て、完全に高を括っているんだ。お前らの実態をその目で拝ませて、少し頭を冷やさせてやってほしい」

「まあ、勝手についてくる分には構わねえがな」


レイジが受託した様子を見ていたキールは、一人納得したように心の中でほくそ笑んでいた。

(ふん、なるほどな。師匠はあの子供やお遊び気分の連中を心配して、俺に護衛としてついて行けと頼んでくれたんだな。やれやれ、相変わらず心配性な師匠だぜ)

レイジたちの真の実力を全く知らず、師匠が過保護だから頼んできたのだと痛い勘違いをするキールだったが、レイジたちは訂正する気もなくそのまま同行を許可した。


出発の前、レイジは思い出したようにキールへ声をかけた。

「おいキール、お前『魔導エアーボード』は持ってるか? なければ予備を貸してやってもいいが」

キールは鼻で笑い、不敵な笑みを浮かべた。

「ハッ、そんな板っきれに頼るなど軟弱者のすることだ! 空中移動なんてものは、足場の構築と精密な魔力制御で魅せるものだろうが!」


キールは腰から2枚の「魔導フリスビー」を取り出すと、空中に放ち、それを滑らかなステップで足場にしてみせた。自らの技術に絶対の自信があるキールは、エアーボードなど借りるまでもないと一蹴したのだ。


レイジたちは特に気にする様子もなく、「そうか」と一言返すと、全員が遠慮なしに自分の魔導エアーボードに乗り、ふわりと浮かび上がらせた。


(なっ……全員してあっさり文明の利器に頼りやがって! どこまでも軟弱な連中だ!)

キールは内心で呆れ返ったが、そのまま2枚のフリスビーを足元で目まぐるしく交錯させ、華麗に滞空してみせた。


すべてを切り裂くような猛烈な暴風が吹き荒れる極風(きょくふう)の渓谷へと足を踏み入れると、圧倒的な風圧と激しい魔力嵐が一行を迎え撃つように牙を剥き始めていた。

レイジたちはエアーボードで風の抵抗を巧みにいなしながら、スムーズに空中を滑空していく。

キールは自前のフリスビー2枚を交互に旋回・展開させ、絶妙なバランス感覚と技術で何一つ体勢を崩すことなく、涼しい顔でレイジたちの後を軽やかに追いかけていくのだった。

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