↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界霊力技師の日常  作者: 咲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
88/90

ヒナの挑戦と危険エリアへの切符

「それならちょうどいい。お前らが開発したあの『擬似霊力デバイス』の小型化の技術と、俺が以前炎爪の渓谷で……採取したまま最近のバタバタですっかり忘れていたあの暖房用鉱石の素材を組み合わせれば、以前考えていたやつよりも遥かに高性能の暖房設備が作れそうだな」


再び増える研究対象に、カノンとルカのエンジニアとしての血が騒ぎだせずにはいられなかった。


「――で、具体的にどんなものを作るつもりなのよ?」

カノンが物欲しそうな目を輝かせながら問うと、レイジはサラリと言い放った。

「ああ、コタツだよ」


「……はっ?」


工房の空気が、一瞬にして凍りついた。

カノンとルカは、持っていた測定器を落としそうになりながら、レイジの顔を凝視した。

ルカが目を丸くする。

「コタツ……ですか?」

カノンが両手を机につき声を荒げた。

「いや、待ちなさいよアンタ! 私たちがせっかく作り上げた至高の擬似霊力デバイスと、極上の暖房用鉱石を組み合わせて作るのが、そんな庶民的なローテク家具なわけないでしょ!?」


「いや、ローテクって言うな。あれは人類の偉大な発明だ。冬の寒さに対する最強の防衛拠点だろ」

レイジが気怠げに肩をすくめながら、ポケットから一枚の設計図を取り出してテーブルに広げた。


二人は呆れながらも、物珍しさに設計図へと視線を走らせた――

カノンが冷や汗をにじませ、ゴクリと生唾を飲み込む。

「な……によ、これ……?」


描かれていたのは、ただの卓袱台のような家具ではない。あまりにも狂気に満ちた空間制御の構造図だった。

カノンがツッコミを入れる。

「目に見えない『魔力の毛布』……? 熱源……って、おい、ちょっと待ってよ! なによこの『空間そのものを閉じ込める』って記述は!」

部屋全体を暖める暖房器具を作るはずが、レイジの設計図では、魔力の毛布自体が空間そのものをレイヤー単位で包み込み、独立した熱空間を作り出すという仕様になっていた。

ルカも論理整然とした口調を崩し、引きつった笑みを浮かべながら指摘した。

「部屋を暖めるどころか、コタツの周囲数メートルの空間座標を完全に切り離して、そこに高密度な暖気層を永続固定する……? そんなの、暖房器具というより、一種の独立結界生成装置じゃないですか……!」


カノンが頭を抱えて絶叫する。

「 それを『コタツ』と呼ぶこと自体、根本からどうかしてるわよ!」

ヒナは熱々のマグカップを両手で包み込みながら、のんびりと瞬きをした。

「へぇー、この世界にもコタツっていう概念があるんだなー。やっぱり寒い冬は、みかん食べながらゴロゴロするのに限るよね!」


「分かりますー! 暖かい場所でぬくぬくしながら美味しいものを食べるなんて、最高の幸せですよねぇ!」

エレナもヒナの言葉に目を輝かせ、深く首を縦に振って同意した。


「よし、方向性は決まりだな。そうと決まれば、さっそく必要な素材を調達しに行くぞ」

レイジの号令で、一同はさっそく王都の冒険者ギルドへと向かった。全員のランクも底上げされ、目的の暖房系特殊素材が存在する危険地帯への立ち入り許可も、受付でスムーズに発行されるはずだった。


――だが、ギルドの窓口で申請手続きを行っている最中、突如として横から不躾な声が割り込んできた。


「おいおい……冗談だろ? なんでそんなひよっこが、Bランク指定の危険エリアに同行する許可申請を出してんだ?」


振り返ると、いかにも粗暴そうな大柄の男性冒険者が、ヒナの胸元に輝く新しいギルドカードを指さして鼻で笑っていた。


「討伐系のDランクを取得したばかりのガキが、採取系Bランクの看板を掲げて高難易度エリアに足を踏み入れるだと? 命がいくつあっても足りねえぞ。採取専門の奴が調子に乗って足引っ張るのが目に見えてるんだよ!」


突然難癖をつけられたヒナは「えぇ〜……?」と首をかしげたが、レイジは隣で「まあ、無理もねえか……」と心の中で呆れ混じりに納得していた。


周りの視線が集まる中、ヒナは困ったように眉を下げつつも、譲らない様子でその大柄な冒険者を見つめ返した。


「でも、私行きたいんだよね。コタツを作るための大事な素材なんでしょ? 薬草とか採取系の知識なら自信あるし、ちゃんと足引っ張らないようにがんばるもん!」


「ハッ! 知識や気合で魔物の爪が防げるわけねえだろ!」

男は心底あきれたように鼻を鳴らすと、ギルドの訓練用スペースを親指で指し示した。


「……まあいい。そこまで言うなら、俺が直接テストしてやるよ。俺はBランク冒険者のガルクだ。おいガキ、ギルドの模擬戦エリアで俺の一撃を捌くか、一発でもまともな攻撃を叩き込んでみせろ。それが出来たら許可証の同伴に口出ししねえよ」


「え、テスト? 本当に? ありがとー!」

ヒナは疑う様子もなく、パッと表情を明るくして「よろしくお願いします!」と元気に頭を下げた。


「おいおい……大丈夫かよあの子……」

「相手はBランクのベテランだぞ……?」


ギルド内の冒険者たちがザワつきながら訓練場へと移動する中、レイジは頭を抱えて深いため息をついた。


訓練場の中央で、ガルクは大剣を地面に突き立てて構えた。

「よし、どこからでもかかってこい! 魔法だろうが何だろうが――」


「それじゃあ、いきまーす! えいっ!」


ヒナが構えもそこそこに、ポイッと軽く指先を弾く。

ガルクは「初級のファイアボールか!」と即座に身構え、頑強な身のこなして大剣を掲げ、衝撃に備えて足を深く踏み込んだ。


……だが、それが大きな間違いだった。


ヒナから放たれた炎の球体は、魔力の密度自体はスカスカで不発寸前の代物に見えた。しかし、その内部では魔力・霊力・気がバグレベルの化学変化を起こし、正規の魔導理論を完全に無視した異様な加速と変則軌道を描いていたのだ。


「――っ!? なんだこの奇妙な速度変化は!?」


直線的に飛んでくると踏んでいたガルクの予想を裏切り、炎球は直前で急激に加速。さらに謎の空間干渉を起こして大剣のガードをスルリとすり抜けるように旋回し、ガルクの胸元へ直撃した。


ドカァンッ!!


激しい爆風と高熱の衝撃波が吹き荒れる。

「ぐっ、うおぉぉっ……!?」

大柄なベテランらしく、なんとかその場に留まった。だが、胸当てからはもうもうと煙が立ち上り、まともにダメージを食らって荒い息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。