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異世界霊力技師の日常  作者: 咲


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再び動き出す設計図

レイジは、ギルドの初歩的な適性試験で見た課題のいくつかを思い出し、それをヒナにそのまま試させてみた。だが、彼女は持ち前の規格外な適応力で、それを難なくクリアしてしまう。


「おいおい……これだけ出来れば、討伐系でもそれなりのランクなら一発で合格しそうだがな。相変わらず理論や配合、出力そのものは完全にバグってるが」


レイジが呆れたように問いかけると、ヒナはトボトボと立ち上がりながら首を傾げた。


「えへへ、そうかな? 私、採取系のBランク免許をとってから、討伐系の方は全然受けてなくて放置してたんだよね。……あ、そういえば昔、別の街で知り合ったとあるベテランの冒険者にも言われたことがあるんだ。『お前の出力は完全にバグってるから、討伐系統のランク取得はお勧めしない。俺にはお前のやり方が才能なのか、変なクセなのかさっぱり分からん。せめて普通レベルの制御ができるようになってから出直せ』ってさ……」


レイジは、思わず両手で顔を覆い、さらなる深い頭痛に耐えるように頭を抱えた。


(……そりゃ、あんな常軌を逸したバグ魔法や滅茶苦茶なエネルギー制御を目の当たりにしたら、まともな冒険者や試験官だって逃げ出すか、どうアドバイスしていいか分からず遠回りに断るしかねえだろ……!)


ヒナの天然すぎるエピソードと、それに気づかぬまま放置されていた圧倒的な才能の噛み合わなさに、レイジは遠い目をしながら盛大に溜息をつくしかなかった。


数日後。王都のギルドでは厳正な審査と長い手続きの末、ついにルカとカノンが正式に【Dランク】の冒険者免許を取得するのであった。


王都の工房の一角では、カノンが手元の魔導計測器からパッと顔を上げ、興奮した様子で声を弾ませた。

「……ねえルカ! 見てこれ、内部の半導体回路の非破壊解析データだけど、魔力を使わない情報処理の仕組みがなんとなく見えてきたわよ!」


ルカは冷静に冷や汗を拭いながらも、その目は狂気的な探求心で爛々と輝いていた。

「ええ、素晴らしい進捗です。本来なら私達の本来の目的である『擬似霊力デバイス』の小型化や素材確保の研究を進めるべきですが……こちらのスマホの研究もどんどん進めたいですね」


カノンはフッと満足げに微笑み、メインの端末を優しく撫でた。

「まあ、どちらも私たちの魔導工学を何段階も跳ね上げる最高の研究対象よ。時間がいくらあっても足りないくらいだわ」


一方その頃、工房の訓練スペースでは、レイジがヒナの特訓に付き合っていた。

ヒナは額にうっすらと汗を浮かべながらも、両手を前に構えて満足げにニカッと笑ってみせた。

「ねえレイジ! 見てみて、私、なんだかコツを掴んじゃったみたいだよ!」


レイジは腕を組みながら、ヒナの周囲に纏うデタラメなエネルギーの残りカスを観察して盛大に肩を落とした。

「お前なぁ……相変わらず中身の配合はバグり散らかしてるぞ」


ヒナは得意げに胸を張り、首を傾げながらペロッと舌を出した。

「でも、ちゃんと技として形になってるし、威力もバッチリでしょ? なんというか、一度自転車の乗り方を覚えちゃえばもう絶対に忘れないみたいに、この変な感覚のまま身体が勝手に覚えた感じなんだよね!」


ヒナ自身、なぜそんなめちゃくちゃなエネルギー循環で技が成立しているのか本人は分かっていないが、その「感覚」だけは完全に体得し、いつどんな時でもノーミスで再現できるレベルに達していた。


レイジは呆れ半分、感心半分といった表情で頭をポリポリと掻く。

「まあ、理屈はともかく、その異常な身体適応力と感覚だけで討伐系も余裕で突破できちまうだろうな……」


工房のテーブルに腰掛けながら、シオンが優雅に紅茶のカップを傾けてスケジュール表を確認した。

シオンは穏やかな微笑みを浮かべながら、一同へと視線を向ける。

「皆様、お疲れ様です。カノンさんたちも無事にDランクを取得されましたし、そろそろ僕たちの方の予定も動かした方が良さそうですねぇ」


クロエは冷や汗を流しながら、自分のギルドカードをチラリと見て大きく頷いた。

「そうよね……私たち、そろそろ昇級試験を受けてランクを上げておかないと、本格的な高難易度エリアへの同行どころか、足手まといになっちゃいそうだし……」


カノンとルカがDランクを取得したことで、パーティー全体の戦力底上げとランクアップの機運が高まっていた。レイジが腕を組んで思案していると、ヒナがピッと元気に手を挙げた。

「お、それじゃあちょうどいい機会だし、そろそろ私も討伐系の昇級試験に挑戦しても問題ないよね!」


ルカやカノンの研究が佳境を迎える傍らで、今度はシオン、クロエ、そしてヒナの三人が揃って昇級試験を受ける方が先決スケジュールとして急浮上するのであった。


数日後、それぞれの昇級試験は驚くほどあっさりと終わった。

シオンは持ち前の卓越した魔法技術と堅実な立ち回りで順当に**Cランク**へと昇級し、クロエは持ち前の素早さと実戦での勘を爆発させて見事に**Bランク**の切符を掴み取った。そしてヒナは、例のデタラメながらも規格外なエネルギー制御を武器に、討伐系の実技試験を一瞬でクリアし、無事に**Dランク**へと昇級を果たしたのだった。


「やったー! 私もこれで晴れて討伐系のDランクだね!」

王都のギルドのロビーで、新しいギルドカードを手にしたヒナが嬉しそうに飛び跳ねる。


「まあ、お前なら当然といえば当然の結果か……。で、これからどうするんだ?」

レイジがやれやれといった様子で苦笑すると、ヒナは両手を腰に当てて、ふと周囲の空気を肌で感じ取るように身震いした。


「うーん、そういえば最近だんだん寒くなってきたよねぇ。なんだか身体が冷えちゃいそうだし、なんか暖房系の素材でも採取しに行きたいなぁ!」


ヒナのその何気ない一言を聞いた瞬間、レイジの脳裏に、かつて頭の片隅に追いやって忘れていた記憶が鮮やかに蘇った。


(……そういえば、俺も、しっかりとした『暖房の設備』を作りたかったんだったな……!)


ヒナの提案に、作業机から顔を上げたカノンとルカがピクッと反応した。


「確かに、これからの季節は冷え込むし、工房で細かい作業をするにも寒いより暖かい方が手がかじかまなくていいわね。研究効率も絶対にあがるわ」

「ええ、大賛成です。寒さは精密機械の組み立てにおいても大敵ですからね」


二人がすんなりと賛同したのを見て、レイジはあごに手を当ててニヤリと笑った。

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