湯煙リゾートと予期せぬ再会
翌日。
リリアーナが勝ち取った権利により決定した「慰安温泉旅行」に向け、商会の面々は慌ただしく準備に追われていた。
女性陣たちはこっそりと連れ立って、王都の繁華街にある高級衣料品・魔導繊維専門店へと足を運んでいた。
せっかくの温泉旅行、レイジと一緒に大きな湯船に入ってみたいという密かな憧れや乙女心はあるものの、日々の過酷な採取現場を共にしてきた仲間とはいえ、直に肌を晒すのは恥ずかしすぎるというジレンマに直面していたのだ。
「ふははは! なんだその気気恥ずかしそうな顔は! 商会の社長たるもの、いかなる場であれ装いに隙があってはならんのだよ!」
ひらりと豪華なマントを翻し、店員が差し出した布地の少ない洋服――『水着』をまじまじと見つめながら胸を張る。
エレナが頬を赤らめながら、自分の体に水着を当てて縮こまる。
「その……なんだか露出が多くて落ち着きません……」
リリアーナが用意した行き先は、豊かな自然の中に湧き出る最新鋭の『リゾート温泉郷』だった。広大な敷地の中にいくつものテーマ別プールや混浴エリアが点在し、必要な場所では『水着』の着用が義務づけられている場所だった。
ルカは、上品ながらも洗練されたデザインの水着をしっかりと抱えていた。
「ふふっ、これならレイジさんをびっくりさせつつ、私たちも安心して一緒に入れますよ。機能性と魔導繊維の伸縮性も完璧です」
クロエも気まずそうに自分の選んだ水着をつまんだ。
「……み、皆がこれほど真剣なら、私だっていくじなしではいられないわ!」
一方その頃、宿のロビーで何の気なしにコーヒーを啜っていたレイジは、背筋に走る妙な悪寒を感じて、思わず首を傾げるのだった。
「……なんか、背中がスースーするぞ。絶対に良からぬ企みが進行してるな……」
数日後。一同が到着したのは、王都の喧騒を離れた大自然の中に広がる極上の『リゾート温泉郷』だった。
湯煙が立ち込める広大な敷地内には、開放的な大露天風呂のほか、水着着用で楽しめる混浴の巨大プールエリアなどが完備されており、休日を満喫する冒険者や観光客でにぎわっている。
「おおーっ! すっごい広いですー!」
エレナが目を輝かせ、リリアーナは「ふはは、我が商会の選択に間違いはなかったのだ!」と胸を張る。
それぞれが新調した水着に身を包み、一同は混浴の大型露天エリアへと足を踏み入れると……予想外の人物たちと遭遇することになる。
「ふう……生き返るわねぇ。最近の依頼、マジでキツかったからこのお湯は染みるわ……」
「まったくだな、セリア。強敵との連戦で凝り固まった肩や腰の筋肉が、じわじわとほぐれていくのが分かるぞ……」
湯けむりの向こうから聞こえてきたのは、心地よさにしみじみと浸るレオンとセリアのくつろいだ声だった。
どうやら二人も、日頃の激しい戦闘や依頼の疲れを癒やすためにこの温泉郷を訪れていたらしい。
エレナがクスリと笑う。
「あら、レオンさんたちも来てたんですね」
「やあレイジ君! 奇遇だな! いやなに、日頃の激しい戦闘の疲れを癒やすべく、我がパーティーも特別にのんびりすることに決めたんだよ」
レオンが気さくに手を振り返した瞬間、その隣でゆったりと湯に浸かっていたセリアが、ギギギ……と硬直した動きでこちらを振り返った。
「え……っ? れ、レイジ君……!? エレナちゃんまで……!?」
次の瞬間、セリアの顔面は湯上がりの蒸気も吹き飛ぶほどの勢いで真っ赤に染まった。彼女は弾かれたようにザパァンと音を立てて肩までお湯の中に潜り込み、両手で必死に水面を押し上げるようにして顔だけを覗かせる。
「な、な、なんであなたたちがこんなところにいるのよーっ!?」
あまりの狼狽ぶりに、レイジは半目で首を傾げた。
「なんでって……普通に慰安旅行だよ。お前らこそ、仲良く混浴エリアかよ」
「ち、違うわよ! 別に私は、そんな……変な意味でここに来たわけじゃないんだからね! 誤解しないでちょうだい!」
セリアは口元まで湯に沈めながら、目を見開いて叫ぶ。
(あ、圧倒的にまずいわ……! 知り合い……それもレイジ君たちに見られるなんて聞いてないわよ!『まあ、セリアさんったら水着を着て男の人と一緒に混浴エリアに来るような趣味があったのね』なんて思われたらどうするのよーっ!?)
セリアの頭の中では、持ち前の過剰な思考回路がフル回転していた。
相棒の被害妄想を余所に、レオンが呆れたように肩をすくめる。
「いやセリア、お前が『男女別の狭い浴槽より、広々とした混浴エリアの方が絶対にリフレッシュできる!』って息巻いて俺を引っ張ってきたんじゃないか。水着もわざわざ王都で……」
「余計なこと言わないでよバカレオンっ!!」
バシャアアッ! とセリアが豪快に湯面を叩いて、飛沫をレオンの顔面に直撃させる。レオンは「ぶはっ!?」と顔を拭いながら参ったように苦笑した。
レイジは呆れた様子でため息をつきながら、水面から出ているセリアの肩口をちらりと見た。
「おいおい、何をそんなに焦ってんだよ。別にお前がどんな水着を着てようが誰も何とも思わねえよ。というか……至って普通の健康的な水着だろそれ」
セリアが着ているのは、群青色の生地にシンプルなカットが施されたセパレートタイプのもので、確かにデザイン的には洗練されたごく普通の水着だった。機能性を重視する彼女らしく過度な装飾はないものの、すらりとした手足や美しいスタイルが引き立つ、健康的で魅力的な装いである。
「〜〜〜っ! 露出が多めなのは認めるけれど、これは魔導繊維の機能性と可動域を考慮した至高の逸品なのよ! 変な目で見ないでちょうだい!」
「誰も見てねえよ。一人で勝手に自爆して忙しい奴だな……」
レイジが肩を竦めると、セリアは恥ずかしさをごまかすように「もうっ!」とプイッと横を向いた。
だが、セリアが改めてレイジたちの背後に目を向けると、そこには女性陣の姿がずらりと壮観に並んでいた。
柔らかいピンク地のかわいらしい水着に身を包み、少し恥ずかしそうに胸元を押さえるエレナ。
シックな黒の大人っぽいデザインで、引き締まったスタイルを余すところなく披露しているルカ。
少し照れくさそうに顔を背けつつも、意外にもスタイリッシュな水着を着こなしているクロエ。
「ふははは! 我が美技を見よ!」と子供用プールのような深さの場所でドヤ顔を決めるリリアーナ。
(……な、なにこの圧倒的な華やかさは……!?)
セリアは思わず息を呑んだ。




