譲れない師弟対決!
「ふはははは! ならば決まりだな! 最近は皆、働き詰めでこの天才社長を満足に……ゲフンッ、安らぎの時間を設けていなかったからな! カノンたちのカードが届くまでの間、我が商会は特別休暇とする!」
「特別休暇?」
シオンとクロエが顔を見合わせる。
「そうだ! たまには皆で、パーッと遊びに出掛けるのだよ!」
リリアーナの高らかな宣言に、エレナが「わぁっ、賛成ですー!」と両手を叩いて喜び、カノンとルカも「まあ、たまには息抜きも悪くないわね」「ええ、賛成です」と微笑んだ。
クロエやシオンも、思わぬ休暇の提案に顔をほころばせる。
「おいおい、遊びに行くって……どこへ行くつもりだ?」
レイジが呆れ半分で尋ねると、リリアーナはえっへんと胸を反らした。
「ふふん! それはこれから皆で考えるのだ! さあ、善は急げだ! 早速、工房に戻って作戦会議を開くぞ!」
カノンの工房へ戻り、大きなテーブルを囲んで始まった『慰安旅行作戦会議』。
口火を切ったのは、発起人であるリリアーナだった。
「ふはははは! こういう慰安の相場は、たいていが『温泉』と決まっているのだ! ゆっくりと湯に浸かり、日頃の疲れを癒やす! これぞ至高の休日というものだろう!」
ビシッと指を突き上げてドヤ顔を決める小さな社長に対し、レイジは呆れたようにため息をついた。
「……お前、見た目はガキのくせに発想がオジサンくさいんだよ」
「なんだと!? 温泉の良さが分からんとは、貴様こそお子様だな!」
ギャーギャーと噛み付いてくるリリアーナを適当にあしらいつつも、レイジ自身、温泉という提案を断る理由はなかった。ここのところ作業続きで肩も凝っていたし、広い風呂で足を伸ばすのも悪くない。
だが、そこで思わぬ反発の声が上がった。
「私は、遊園地が良いです!」
勢いよく立ち上がったのはクロエだった。彼女はテーブルに身を乗り出し、リリアーナを真っ直ぐに見据える。
「王都の郊外にある大規模な魔導遊園地……あそこに行きたいです! 今回ばかりは、いくら師匠の提案でも譲れません! というか一度行ってみたかったんです。一人だとそれなりに恥ずかしくって……かと言って、なかなかそういう機会もなかったんです!」
レイジが首を掻きながら仲裁に入る。
「おいおい……日にちは十日もたっぷりあるんだから、喧嘩しなくても順番に両方行けばいいだろ」
至極もっともな正論を口にするレイジだったが――。
「そういう問題ではないのですよ!」
「その通りなのだよ!」
クロエとリリアーナから、まさかの同時ツッコミを食らってしまった。
「これは最初の目的地をどこにするかという、譲れない戦いなのです! 師匠、いざ勝負です!」
「ふははは! いいだろう、その挑戦受けて立つぞクロエ! 私の温泉への熱き想い、見せてくれるわ!」
バチバチと火花を散らし、今にも謎の『師弟対決』をおっぱじめそうな二人に対し、レイジはじろりと冷ややかな視線を送った。
「……おい。勝負するのは勝手だが、お前らちゃんと自分らの実力差は考慮しろよ? 街中で危ねえことしたら、マジでただじゃおかねえからな」
「「……うっ」」
レイジに低く冷たい声で釘を刺され、二人は同時にビクッと肩を跳ねさせた。
クロエは、自らの『師匠』であるリリアーナの底知れない実力を(勝手に)高く評価している。まともに物理的な力比べをすれば勝負にならないと考えた彼女は、ゴホンと咳払いをして提案した。
「……実力差を考慮し、かつ街に被害を出さない安全で公平な勝負方法があります。……『魔導パチンコ』で決着をつけましょう!」
「むっ、魔導パチンコだと? 良いだろう!」
ルールは至ってシンプル。同じ金額の元手を用意し、閉店までの間にどちらがより多くのお金を増やせるかというものだ。
一行は早速、王都の繁華街にある大規模な遊技場へと足を運んだ。
けたたましい魔導音と極彩色の光が漏れ出す建物を前に、レイジは半ば呆れ顔で看板を見上げた。
(異世界にもパチンコってあるんだな……。電気じゃなくて魔力で玉を弾くのか? どこの世界も考えることは一緒だな)
「さあ、いざ尋常に勝負なのだよ!」
リリアーナが意気揚々と入店しようと自動扉(魔導センサー式)をくぐった、その時だった。
「あ、こらこらお嬢ちゃん。うちは子供の遊び場じゃないんだよ。保護者の人と来てるのかな?」
入り口に立っていた厳つい顔の用心棒が、リリアーナの小さな肩をポンと叩いて通せんぼをした。
「……は? こ、子供……?」
リリアーナの動きがピタリと止まる。
「そうそう。ここは大人だけの場所だからね。あっちの公園で遊んでおいで」
用心棒が手でシッシッと追い払うような仕草をした瞬間、リリアーナの堪忍袋の緒がブチッと音を立てて切れた。
「だーれーがーお嬢ちゃんだぁぁぁっ!! 私はこの立派な商会の社長なのだよ!! 貴様、この大人のレディに向かってなんたる無礼かーッ!!」
「うおっ!? なんだこのガキ、すげえ声でかいな!」
ジタバタと暴れて用心棒のすねをポカポカと蹴りまくるリリアーナを、レイジとエレナが慌てて両脇から抱え上げる。
「おいバカやめろ! 営業妨害で出禁になるぞ!」
「レイジ! 放せ! この愚か者に私が立派な大人であることを証明してやるのだ!」
発行待ちのカードの代わりに、ギルドから交付されていた身分証明書(しっかり成人年齢で登録されている)を見せてなんとか用心棒を説き伏せ、一行は無事(?)に入店を果たした。
ズラリと並ぶ魔導パチンコ台の前に立ち、クロエが真剣な顔でレイジに向き直る。
「レイジさん。私と師匠は魔力も気も扱えます。だからこそ、この勝負に一切のインチキがないよう、あなたに『審査員』をお願いしたいのです」
「……ああ、なるほど。お前らが台の確率や玉の軌道を魔力で弄ったりしないか見張れってことか」
(いや、こいつらの場合はどっちもそういう器用な小細工ができるタイプじゃない気がするんだが……)
レイジは内心でそう思いつつも、真剣に睨み合う『師弟』の姿に、大きなため息を一つ吐き出した。
「わかったよ。お前らが不正しないように、俺が後ろできっちり見張っててやる。……ほら、元手は同じ銀貨袋一つだ。閉店まで好きに打ってこい」




