子供レベル!? 測定不能のドヤ顔社長と空飛ぶフリスビー
討伐後、半狂乱となったBランク冒険者たちから「頼むから昇級試験を受けてくれ! Cランクの茶汲み嬢に助けられたなんて知れたら、俺たちのプライドがズタボロだ!」と涙目で懇願されたエレナたちは、ひとまず報告と換金を終えてカノンの工房へと帰還した。
――カノンの工房。
「ただいま帰りましたー!」
「社長! エレナさんとクロエさんの力をお借りし、無事に依頼を達成いたしました!」
工房に戻るなり、クロエは腕を組んでふんぞり返るリリアーナに向かって鼻息荒く歩み寄った。
「リリアーナ師匠! 恐ろしいことが判明したわ。あんな化け物じみた火力を出すエレナさんが、ギルドではただの『Cランク』として登録されているのよ! こんなの絶対に何かの間違いだわ!」
熱弁を振るうクロエの横で、ふと視線が窓際でレンチを弄っているレイジへと向く。
(……待って。エレナさんがあれほどの化物で、リリアーナ師匠がその頂点……なら、いつも隣にいるこのレイジっていう青年は……?)
クロエは鋭い観察眼でレイジをじっくりと見分しようとした。だが、探知スキルをいくら巡らせても、レイジから感じ取れる魔力は一般的な成人の「平均の半分以下」。生命エネルギーである『気』に至っては、そこらの町人と変わらない完全に「平均値」だった。
(な、なにこの人……? 強いの? それとも本当にただの裏方技師……? 誘うべきなの……? でももし、師匠やエレナさんみたいに『気配を極限まで隠してる恐ろしい手だれ』だったら、声をかけないのは失礼じゃ……? いやでも、数値的には本気で弱そうだし……うぐぐっ……!)
「ねえねえ、レイジも一緒に試験行こうよ〜! 楽しそうだし!」
エレナが何気ない笑顔で、あっさりとレイジを誘った。
「それじゃ……俺も受けるか」
「よし、決まりね! エレナさん、リリアーナ師匠、そしてレイジさん! 全員でギルドの再判定試験を受けるわよ!」
翌日。
――王都冒険者ギルド、屋外特設演習場。
見上げるほど広大な青空が広がる演習場には、バインダーを抱えたベテランの試験官が待ち構えていた。
試験官はニヤリと笑うと、手元の羊皮紙を叩いた。
「お前たちに一つ言っておく。実は最近、ギルドの戦闘ランク認定ルールが少しだけ改定された。『潜在魔力量の測定』『魔力精密制御テスト』『実戦出力テスト』『対人実戦形式』という4段階の基本形式は従来通りだがな……」
試験官は全員を見回しながら語気を強めた。
「『やることは同じだが、それを魔力だけで再現する必要はない』。つまり、気だろうが、特殊なデバイスだろうが、独自の技術だろうが構わん! 結果として規定の現象を引き起こし、戦闘能力を証明できれば正当に評価する。魔力至上主義の古い物差しは捨てたというわけだ! では、第1ステップ『潜在魔力量の測定』から始める! 最初は……その、一番偉そうな小さな嬢ちゃん、前へ出ろ!」
「ふははは! 我が名はリリアーナ! 天才社長の圧倒的な魔力にひれ伏すがよい!」
リリアーナは高笑いしながら中央に据えられた巨大な測定用水晶玉へと歩み寄り、ドヤ顔で小さな手をバシッと叩きつけた。
シーン……。
「…………む?」
水晶玉の内部で、蛍の光よりも淡く、頼りない微かな光が「ぽつん」と灯り、すぐに消えた。
試験官はバインダーの数値を二度見し、メガネを掛け直して深ため息をついた。
「……判定。魔力量……『平均的な子供レベル』」
「「「ええええええええっ!?」」」
演習場にクロエとBランク冒険者たちの絶叫が轟いた。
(こ、子供レベル……!? あのシオン君の全力を子供扱いした化け物師匠の魔力が……ただの子供と同等なの!? どういうカラクリなのよーっ!?)
頭を抱えて混乱するクロエを余所に、リリアーナは「ふふん!」と胸を張って威風堂々とふんぞり返っていた。
続く第2ステップ『魔力精密制御テスト』と第3ステップ『実戦出力テスト』。
「魔力」としての反応は依然として子供レベルに等しかったが、改定ルールの「魔力以外で結果を出せば良い」という言葉通り、リリアーナは己の『霊力』を遺憾なく発揮した。不可視の霊力を精密に編み上げ、放たれた圧倒的な衝撃は、設置された頑丈な魔力測定用のターゲットを一瞬で粉砕。「現象としての実戦力」を突きつけられた試験官たちは、バインダーに「測定不能(特例合格)」と書き殴ることとなった。
本日は飛び入りに近い特例枠での申請だったため、手続きや枠の都合上、レイジとエレナのCランクからの昇級試験は本日は行われず、後日に回されていたのだ。
いよいよ最終の第4ステップ『対人実戦形式』。
青空が広がる広大な演習場には、リリアーナの他にも昇級を目指す数名の受験者が並んでいた。彼らの前に立ったのは、今回の試験のために特別に招聘された現役のSランク冒険者兼、ギルド特別講師の男だった。
「俺が最終試験官だ。本来なら一対一で打ち合うんだが……お前ら、最近流行りの『魔導エアーボード』は知ってるな?」
講師は足元に置かれた浮遊魔導具を指差し、不敵にニヤリと笑った。
「今日は特別ルールだ。機動力と応用力を見るためにな、俺はこの広大な演習場の上空を自由に飛ぶ。お前らにはそこに用意したエアーボードの使用を許可するから、制限時間内に俺を『捕まえてみろ』」
「よーい……始めッ!」
合図と共に、他の受験者たちが一斉にエアーボードへ飛び乗る。彼らも相応の実力者であり、最近王都で大ヒットしているボードの操作にはそれなりに熟練していた。風を切り、滑らかに上空へと浮上して広大な演習場を飛び交う。
だが、Sランク講師は彼らを嘲笑うかのように、さらに上の高空へと躍り出た。
「それでは! Sランクのお手本を見せてやろう!」
講師はエアーボードすら使わなかった。彼は懐から3枚の『魔導フリスビー』を取り出すと、自らの魔力で空中の座標に固定。それを足場にして空を蹴り上がり、次々と新たなフリスビーを配置しては縦横無尽に空中を疾走するという、異次元の立体機動を披露したのだ。
ボードをそれなりに使いこなしている他の受験者たちだったが、フリスビーを足場にして縦横無尽に空を駆ける講師の次元の違うスピードと機動力にはまったく追いつけない。圧倒的な実力差を見せつけられ、焦りの表情を浮かべていた。
「ふはははははっ! 面白い!」
リリアーナは不敵に笑うと、講師が目を見開いた。
リリアーナは懐から3枚の『練習用魔導フリスビー』を取り出し、次々と空中に放り投げると、霊力の絶対軸を通して座標に固定。ポンポンポンッ!と軽快なステップでフリスビーを踏み蹴り、弾丸のような勢いで大空を駆け上がってきていたのだ。




