リベンジ達成! 共鳴とCランクの切り札
レイジは作業着のポケットから、くすんだ銀色の『指輪』を取り出し、シオンに向かって放り投げた。
「っ! レイジさん、これは……?」
「俺の『霊力』で少しばかり細工をした補助デバイスだ。お前は気と魔力を共鳴させるのに意識を持っていかれすぎてる。その指輪は、装着者のエネルギーを自動的に制御して、気と魔力のコントロールを最適化してくれる『補助輪』みたいなもんだ」
レイジが組み込んだ霊力回路は、シオンが狂気的な精密さで行っている共鳴作業をサポートし、周囲の「気と魔力」を効率よく引き寄せるためのパスを繋ぐ役割を果たしていた。
「まずはこれを使って、両方のエネルギーを自身の糧にする『感覚』を体に覚え込ませろ。慣れてくれば、指輪なしでも同じコントロールができるように工夫してある」
「補助デバイス……! ありがとうございます、レイジさん! 社長も、俺のためにこんなものを……!」
「……ねえ、シオン君。その指輪があれば、あのオークの群れ、いけるの?」
シオンは指輪をはめた拳を力強く握り締め、体内で共鳴し循環する新たな力の奔流を感じ取った。
「はい。今の俺なら……絶対にやれます」
クロエは面白そうに不敵な笑みを浮かべた。
「上等ね。……さあ、リベンジに行くわよ!」
オークの群れが占拠する岩場に到着すると、シオンは躊躇うことなく敵陣へと突っ込んだ。
指輪の補助を得たシオンは、本来Aランク級の技である『気と魔力の共鳴』により、大気中のエネルギーを直接循環させていた。己のキャパシティを分母として出力を「何割」と調整する概念は、もはや過去のものだ。
「はあああっ!」
シオンの剣が閃くたび、爆発的なエネルギーが衝撃波となってオークたちを次々と吹き飛ばしていく。
順調そのものに見えた討伐だったが、群れの奥から現れた一回り巨大なオークの上位種が戦況を揺るがした。シオンが他のオークを薙ぎ払った直後の死角。巨腕から振り下ろされた大鈍器が、シオンの防御ごと彼を地面に叩き伏せる。
「しまっ……!」
体勢を崩したシオンに、生き残っていたオークたちが一斉に群がり牙を剥いた。
「シオンに、これ以上手を出さないでくれるかしら!」
凛とした声と共に、クロエが宙を舞った。彼女の全身から、凄まじい密度の力が立ち昇る。
「『魔力』と『気』の……融合ッ!」
クロエが切り札として放ったのは、シオンの共鳴を上回る次元の力。別レイヤーの二つのエネルギーが完全に一つに混ざり合い、純白の極光となって解き放たれた。
シオンの圧倒的な成長とクロエの切り札により、オークの群れ退治は文句なしの大成功を収めたのだった。
冒険者ギルドで大量の討伐部位を納品し、受付嬢を唖然とさせた二人は、カノンの工房へと足を運んだ。
工房の裏庭では、さっそくシオンがリリアーナを相手に手合わせを行っていた。
「ふっ! はあっ!」
気と魔力の共鳴を自在に操り、以前とは見違えるような鋭い剣撃を放つシオン。間違いなく、彼の実力は飛躍的に向上していた。しかし――。
リリアーナは、シオンの猛攻を欠伸が出そうなほどの余裕で躱し続けていた。
「ふはははは! 甘い、甘いぞシオン! 力の循環は良くなったが、動きが直線的すぎるのだよ!」
リリアーナはシオンの『気と魔力の共鳴』を乗せた必殺の踏み込みを、見えない『霊力の糸』で空中に固定したフリスビーを足場にして、ふわりと頭上へ跳躍することで呆気なく回避する。さらに、空中で姿勢を反転させると、別のフリスビーを蹴って死角へ回り込み、手にした木剣でシオンの脳天を軽く「ポンッ」と叩いた。
「あいたっ……! し、しまった……!」
「隙だらけなのだよ! 空間全体を己の庭として把握せねば、どんな強力な一撃も当たらなければ意味がないからな!」
ドヤ顔で着地し、ふんぞり返るリリアーナ。
シオンは木剣を取り落とし、膝をついて感嘆の息を漏らした。
「はぁっ……はぁっ……! 完敗です……! 指輪のおかげで最高の状態を引き出せたのに、社長には掠りもしないなんて……! やっぱり社長の『至高の気』は次元が違いすぎます……!」
「うむ! もっと精進することだな!」
(いや、お前が霊力で空中に物理的な足場を勝手に作ってインチキ三次元機動してるだけだろ……)と、工房の窓際でレイジが呆れたようにツッコミを飲み込んでいたが、その場にいたもう一人の観格者には、そのインチキが全く別のものに見えていた。
「嘘……でしょ……?」
木陰で一部始終を見ていたクロエは、唖然として立ち尽くしていた。
先ほどのオーク討伐で、シオンがどれほどの出力を叩き出していたかを彼女は誰よりも知っている。そのシオンの全力を、あんな子供が魔力を微塵も感じさせない「純粋な体捌き(に見える不可解な動き)」だけで完全に封殺したのだ。
(あの空中でのあり得ない挙動……私の『気と魔力の融合』ですら、あんなデタラメな動きには対応できない……! この子、ただのペテン師なんかじゃない。底知れない本物の化け物だわ……!)
強さを求めるクロエの冒険者としての本能が、激しく警鐘を鳴らし、同時に抗いがたい魅力を感じていた。プライドの高い彼女だったが、気付けば自然と足が前に出ていた。
「……リリアーナ社長」
クロエはリリアーナの前まで歩み出ると、スッと姿勢を正した。
「先日は無礼な口を利いて悪かったわ。謝罪するわ。……私からも、お願いがあるの」
「む? どうしたのだクロエ。またシオンを借りにきたのか?」
「違うわ」
クロエは深く頭を下げた。
「私にも、あなたのその技術を教えてちょうだい。私を、弟子にしてほしいの」
Cランクの実力者であり、ギルドでも一目置かれるクロエの思いがけない懇願。
シオンが「ええっ!?」と目を丸くし、レイジが「……は?」とレンチを取り落とす中、リリアーナは――。
「ふはははは! よかろう!」
秒で承諾した。
「え……? いいの? こんなにあっさりと……?」
拍子抜けしたクロエが顔を上げると、リリアーナは満面のドヤ顔でマントをバサァッと翻した。
「当然なのだよ! お前はあの美味しい『高級亭の特製折詰め』を持参した、大変礼儀正しく見込みのある若者だからな! 我が商会の清掃と荷運びを手伝うというのなら、この天才社長自ら、直々に稽古をつけてやるのだ!」
「……そういうことなら、喜んで下働きさせてもらうわ、師匠」
クロエは呆れ半分、だが確かな闘志を瞳に宿して不敵に微笑んだ。
(……なんでポンコツの周りには、勝手に勘違いして心酔する奴らがこうも集まってくるんだ……?)




