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異世界霊力技師の日常  作者: 咲


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1割か10割か! 極端すぎる実戦特訓

「ハァ……ハァ……! すごい……体の中から、今まで出たこともないような力が溢れ出しました……! Eランクの俺の身体能力じゃないみたいだ……!」


シオンは自分の拳を握り締め、体内に残る確かな出力の「余韻」に打ち震えた。

ほんの一歩空中を蹴っただけ。

彼が放った身体強化の出力と身体制御は、すでに一般的なDランクを上回る領域に足を踏み入れていた。


「ふはははは! 見たかレイジ! 見たかエレナ!」

すかさずリリアーナがマントを派手に翻し、ドヤ顔のピークに達しながら胸を張る。


「これが我がリリアーナ商会直伝の極意! 弟子シオンの成長なのだよ! 師匠である私の完璧な指導にかかれば、空中を蹴ることなど造作もないのだ!」


(……いや、お前がやったのは勘違いの引き金引いただけで、全部あいつの異常な根性と手作業の精密さのおかげだけどな)


レイジは呆れ果てて額を押さえたが、それでも自分の手元でまた一つ、常識外れの才能が芽吹き始めた事実に、くっと口元を緩めた。


「まあ……ミリ単位の研磨ができる精密作業の手先を、そのままエネルギー制御に転用する発想は悪くない。……シオン、お前、明日からの冒険者ギルドの指名依頼……ちょっとランクを上げて受けてみてもいいんじゃないか?」


「えっ……本当ですか、レイジさん!?」


「ああ。少なくとも、今のバカ真面目な共鳴の精度と出力なら、そこらのEランク魔物相手なら瞬殺だ」


レイジの言葉に、シオンの瞳に涙が溢れ出そうになる。


翌日。


「行きます……! はぁぁぁっ!」


工房の裏庭で、シオンが気合の咆哮を上げた。

ギルドランク昇格を見据えた実戦特訓として、用意された頑丈な木製ターゲットに向かって勢いよく飛び出す。


ダンッ!


激しい衝撃音とともに、シオンの拳が木人に叩きつけられた。


――スカッ。


「……あ、あれ?」


木人はわずかにグラリと揺れただけで、表面に薄い擦り傷がついた程度だった。シオンは呆然と自分の手を見つめる。


「不発……? もう一回です!」


シオンは大きく息を吐き出し、体内での『気』と『魔力』の同調に意識を集中させた。研磨作業で培った狂気的な集中力を極限まで高め、音叉のように二つの波長をぴったりと噛み合わせる。


シュンッ――!


次の瞬間、シオンの体から爆発的な衝撃波が解き放たれた。共鳴を起こした超高エネルギーが爆発し、シオンの姿が一瞬で掻き消える。


ドグォォォンッ!!


「ひえっ!?」


眩い光とともに、頑丈な木製ターゲットが影も形もなく粉砕され、後ろの裏庭の壁まで豪快に吹き飛ばされた。凄まじい爆風が巻き起こり、庭の木の葉が舞い散る。


「ハァ……ハァ……!」


呼吸を乱し、猛烈な眩暈に襲われながらシオンが膝をついた。


「おいおい……極端すぎるだろ」


作業台でパーツを弄っていたレイジが、呆れ顔で作業の手を止める。

今のシオンの攻撃は、極端な1割か10割のどちらかしか出せていなかった。


共鳴が上手く噛み合わない不完全な状態では、Eランク相応の威弱な打擊(1割)にしかならない。だが、一度集中して完璧に周波数を同調させてしまうと、リソースを全開で消費する破格の爆発火力(10割)がそのまま叩きつけられてしまうのだ。


「す、すみません……! 3割とか5割くらいの手加減というか、出力調整が全然できなくて……!」


冷や汗を流しながら頭を下げるシオンに、腕を組んだリリアーナが「ふん!」と偉そうに鼻を鳴らした。


「甘いぞシオン! 敵を前にして加減など無用! 常に10割の全力で敵を粉塵へと変えれば良いのだ! 撃ち漏らすより万倍マシなのだよ!」


「さすが社長……! 迷いがない……!」


感銘を受けるシオンの横で、レイジは鋭い視線をリリアーナに向けた。


「……おい、ポンコツ社長。お前、シオンの出力調整が上手くいかない原因、本当は分かってないだろ?」


「なっ……ななな何を言うのだレイジ! 天才経営者にして師匠の私が、理解していないはずがないだろう!」


リリアーナは露骨に動揺し、マントをバサバサと揺らした。だがレイジは容赦なく彼女の「構造」をハックし、その本質を突きつける。


「言っておくがな、シオン。こいつの言葉をそのまま真に受けるなよ。……そもそも、リリアーナは『魔力』の扱いそのものが壊滅的に下手なんだ」


「えっ……!?」


シオンが目を見開く。


「レイジ! 滅多な嘘を吐いて弟子を惑わすな! 私は周囲の魔力を手繰り寄せることも、肉体の糧にすることだって自由にこなして――」


「それ、全部『魔力制御』じゃなくて、お前が無意識に伸ばしてる『霊力』の糸と杭で強引に引きずり回してるだけだろ」


「ギクッ……!?」


リリアーナのドヤ顔が一瞬で凍りついた。


レイジは手元のレンチを指先で弄りながら、淡々と解説を続ける。


「こいつは元々、純粋な魔力操作のセンスなんて微塵もない。体内に取り込むのも、外部の魔力を動かすのも、全部『霊力』っていう別次元の力で無理やり物理的に縛り上げてやってるんだよ。だからこいつ自身、段階的に魔力の出力を『微調整』するなんて繊細な手加減のノウハウを最初から持っちゃいないんだ」


「う……うぐぐぐ……っ!」


図星を完璧に突かれたリリアーナは、言葉に詰まって顔を真っ赤にし、地団駄を踏んだ。


「だ、だが! 結果として力は出ているのだから良いではないかーっ! 手加減など邪道なのだよーっ!」


「開き直るな。シオンは魔力と気を緻密に同調させてるんだ。お前みたいなゴリ押し制御と一緒にしたら、体中の回路が焼き切れるぞ」


レイジの冷ややかなツッコミに、リリアーナはガタガタと震えながら冷や汗を流した。


シオンの瞳は、なぜか更なる深い感動と興奮でギラギラと輝き始めていた。


「す……すごすぎる……!」


「あ?」


レイジが首をかしげると、シオンは感極まった様子で拳を握りしめた。


「つまり社長は……魔力制御という既存の枠組みすら通り越して、もっと根本的な未知の力で世界そのものをねじ伏せていらっしゃったんですね……! だから俺みたいな未熟者の『段階的な出力調整』なんて概念すら、社長の領域から見れば小さすぎる悩みだったんだ……!」


「……は?」


「よし、決まりました! 社長の領域にはまだ届かなくても、俺は俺のやり方でこの『1割と10割の壁』を越えてみせます! 手作業のバリ取りと同じです! 一気に削る(10割)んじゃなく、ミクロン単位で力を『削り出す』感覚を掴んでみせます!」


「う、うむ! その意気なのだよシオン! よくぞ私の深遠な意図を見破ったな!」


シオンの斜め上の大勘違いに乗っかり、速攻でドヤ顔を復活させるリリアーナだった。

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