グラデーション接合と、イカれた機械の産声
「ふはははは! 見たか! これぞ私の実力なのだよ!!」
予想外の超火力に一番驚いていたはずのリリアーナ本人が、すぐさまドヤ顔でマントを翻した。
だが、彼女の応用はそれで終わらなかった。
リリアーナは得意げに弓を背中に背負い直す。そして、手を使わずに自身の霊力を器用に伸ばし、背中の弓の弦を透明な糸で引くように引き絞った。
カチリ、と弓の回路が再び起動する。
周囲の環境魔力が急速に集められ、即座に霊力へと変換されていく。
彼女はそれを矢として放たず、変換された膨大なエネルギーをそのまま自分自身の身体強化へと流し込んだ。霊力ブーストの源泉が「弓が集めた外部の魔力」であるため、彼女自身の体力や魔力への負荷は完全にゼロである。
リリアーナの小柄な身体が淡い光に包まれ、素早さと防御力が跳ね上がる。
試しにその場で軽く跳躍すると、フリスビーなどの足場なしで数メートルほどの高さをふわりと跳び上がってみせた。
「おおっ! 体が軽い! 軽いのだよ!」
空中でくるりと見事な宙返りをしたリリアーナは、背中に弓を背負ったまま、霊力で固定していた弦をパチンと弾いて離した。
シュガァッ! と、先ほどよりは二回りほど細いものの、それでも十分に凶悪な威力の「魔法の矢」が背中から発射され、残っていた標的の残骸を正確に撃ち抜いた。
「すごいすごい! リリちゃん、完璧に使いこなしてますよ!」
エレナが目を輝かせ、パチパチと拍手喝采を送る。
「うむ! このデバイス、私にピッタリなのだ! さすがは我が商会の専属エンジニアが用意しただけのことはあるな!」
大満足でふわりと着地し、ふんぞり返るリリアーナ。
(……なるほど。元々備わっていた『環境魔力を集める機能』が、あいつの霊力と共鳴して自動ブースターの役割を果たしたのか。ただの防犯ブザーのつもりだったが、まさか俺以上の相性を引き出すとはな)
レイジは顎を撫でながら、予想外の成果に内心で舌を巻いていた。
つい最近まで力任せのドロップキックしかできなかったポンコツ社長が、いつの間にか霊力を「遠隔操作」し、外部デバイスと連携させるまでに器用に扱えるようになっている。
「……まあ、悪くない成長だ」
レイジがぼそりと呟くと、その後ろでレオンとセリアが「もう嫌だ、この商会の連中……常識が壊れる……」と泣きそうな顔で抱き合い、バリスが「俺のAランクのプライドが、また一つ粉々にされたぜ……」と地面に崩れ落ちているのだった。
「……さて。お遊びはここまでだ」
レイジの冷徹な声が、裏庭の騒ぎを一刀両断した。
彼は背中の袋から、マグマの熱をいまだ微かに帯びている『絶炎の魔鉱石』を取り出し、工房の作業台へと無造作に転がした。
ゴトッ、という重厚な音に、絶望の淵から這い上がってきたルカとカノンがハッと我に返る。
「ルカ、カノン。必要なパーツ(コア)は持ってきた。さっさとあの『粉末積層・焼結用レーザー装置(仮)』を組み上げるぞ。時間が惜しい」
「あ、はいっ! す、すぐに外装とノズルの加工に入ります!」
ルカが慌てて旋盤に向かい、カノンも炉の火力を上げ始める。
ここから先は、冒険者ではなく職人と技術者たちの領域だった。
数時間の後。
作業台の上には、魔導具の常識から大きく逸脱した異形の機械が鎮座していた。
二つの漏斗には、それぞれ「大容量の魔力を通す骨格用粉末」と「微細な信号を拾う神経層用粉末」がセットされている。
下部には、二つの粉末の混合比率をミクロン単位で調整する特殊バルブ。最下部には、レイジがハッキングで極限まで最適化した『絶炎の魔鉱石』をコアに据えた、高出力の魔力レーザー照射器が取り付けられていた。
「レイジさん……ハード側は図面通りに仕上げましたけど、本当にこれが動くんですか?」
ルカが不安げに機械を見つめる。
「『絶炎の魔鉱石』の耐熱性と魔力変換効率なら、出力の乱れは起きない。あとは制御(OS)の問題だ」
レイジはコンソール代わりの魔力盤に手を置いた。
自身の霊力を機械の隅々にまで張り巡らせ、物理法則と魔力の流れを完全に掌握・同期していく。
「――起動。出力最適化。比率変動、開始」
レイジの霊力を媒介にして、機械が低い駆動音を立て始めた。
ホッパーから落ちる二種類の粉末が、空中で滑らかに混ざり合う。最初は骨格用の素材が100%。そこからレイジの精密な制御により、99:1、90:10、50:50……と、肉眼では到底捉えきれない緻密な単位で配合比率が連続的に変化していく。
『絶炎の魔鉱石』から放たれた極小かつ超高熱の魔力レーザーが、その混合粉末を一瞬で焼き固め(焼結させ)、積層していく。
「嘘……信じられない……」
カノンが息を呑んだ。
「あの二つの素材が、反発せずに溶け合ってる……。魔力負荷の熱で爆発するはずなのに、コアが完璧に熱を逃がして、必要なポイントだけを焼き付けてるわ……!」
ジジジジジ……という微かな音とともに、作業台の上に一つのパーツが形成されていく。
数分後。
冷却を終えたそのパーツを、ルカがピンセットで慎重につまみ上げた。
一方は金属のように無骨で強靭な質感。もう一方はガラスのように透明で繊細な質感。性質が真逆の二つの素材が、明確な境目を持たず、滑らかなグラデーションを描いて一つの物体として完全に融合していた。
「……テストしてみろ」
レイジの言葉に促され、ルカは測定器にパーツをセットし、限界値を超える魔力を流し込んだ。
キィィィンッ! と凄まじい共鳴音が響くが――パーツは剥離するどころか、微細なヒビ一つ入らない。強大な魔力は骨格部分で受け止められ、そのエネルギーはグラデーションを通って滑らかに減衰し、神経層へとノイズなく伝達されていた。
「こ、壊れません……! 魔力伝導率も、強度のロスもゼロ……! 異素材の完全な融合です……!」
ルカは震える手でパーツを見つめた。
職人として、これがどれほどあり得ないオーバーテクノロジーであるか、彼女の脳髄が悲鳴を上げて理解していた。
「……レイジさん。この接合技術に関しては、私の完全な負けです。ですけど、これでようやく、あなたが言っていた『物理法則をバグらせるエアボード』の基盤が作れるようになっただけです」
「ああ、それでいい。でなきゃ面白くねえ」
レイジは不敵に笑い、図面をドンと叩いた。




