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異世界霊力技師の日常  作者: 咲


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討伐リスト消化と、空飛ぶモビリティ

二人が優雅に管を巻くテラス席には、見慣れない男がもう一人同席していた。豪奢な大剣を背負い、柄に手をかけたまま柄の悪い笑みを浮かべて。

レイジたちが近付くのを目ざとく見つけたその男は、露骨に鼻で笑った。


「おいおい、レオン。カノンから連絡があったってのは、そっちの珍客のことか? そのすっからかんの魔力。連れてるのも、どこかの貧乏商会のポンコツお子様社長と、大人しそうな小娘じゃねえか。カノンも焼きが回ったな、こんな三流の付き添いをAランクの俺たちに頼んでくるなんてよ」


容赦のない暴言がカフェのテラスに響き渡る。


優雅にカップを傾けていたレオンと、手癖で杖を回していたセリアの動きがピタリと止まった。


レオンの額から、すっと一筋の冷や汗が流れ落ちる。

(おい……おい嘘だろバリス、お前今なんて言った……!?)


セリアもまた、持っていた杖を危うく落としそうになった。


レオンとセリアは、レイジたちの本質を熟知している。

レイジは超が付くほどの合理主義者で、自分から無駄な揉め事を起こすような男ではない。隣のエレナも温厚で控えめな性格だし、リリアーナだって「自分は大人な経営者」というプライドがあるため、大した理由もなく街中で暴れるようなマネはしない。多少の失礼な軽口程度なら、「面倒くさい」と一蹴して怒りを買い流してくれるだけの度量(と無関心さ)があることも知っていた。


だが、問題はバリスの『口の悪さ』が次元を超えていることだ。

単にこちらの不手際で敵対するならまだしも、この異次元のバグ技の塊のような連中を、理不尽に煽り散らして完全に怒らせたらどうなるか――想像するだけでレオンの胃が激痛を訴え始める。


「や、やあ! レオンだ! ひ、久しぶりだねレイジ君、エレナちゃん、リリアーナさん!」

レオンは前髪をかき上げる余裕すらなく、声のトーンを不自然に跳ね上げて立ち上がった。


「バリス、口を慎め! 彼らは……その、非常に特殊な才能を持った優秀な冒険者なんだ!」

「はあ? なに日和ってんだよレオン。こんな魔力もロクにねえガキども、俺の威圧一発で失禁するレベルだろ」


吐き捨てるバリスに対し、レイジは至極冷めた目で見つめていた。怒るどころか、ただの「無駄なノイズ」としか認識していないような、徹底した無関心さだ。


「おい、レオン。カノンから話は聞いてるだろ。北の山脈で『絶炎の魔鉱石』を採掘したい。Aランクの指名・護衛枠で同行の許可を出してくれ」


「あ、ああ! もちろん構わないよ! すぐに申請を……」

「待て待て、俺は認めねえぞ」

バリスが足をテーブルに放り投げ、大剣の柄を叩いた。

「俺たちは今、王都近郊の魔物討伐の連続指名依頼を受けてる最中なんだよ。それが全部終わるまで北の山脈なんか付き合えるか。足を引っ張るだけの三流を連れて行く余裕なんざねえんだ」


あからさまに嫌がらせを含んだ言葉。だが、レイジは苛立つ素振りすら密かに見せず、ただ作業コストを計算するように薄い唇を開いた。


「要するに、お前らのその『残りの依頼』とやらをさっさと片付ければ、北の山脈へ行けるんだな?」


「……は? おいおい、Aランクの討伐群だぞ? 数日掛かりの――」


「レオン、セリア。その依頼のリストを見せろ。手っ取り早く終わらせて、予定を繰り上げる」


レイジの淡々とした言葉に、レオンとセリアは顔を見合わせた。

バリスの余計な煽りに冷や汗を流しつつも、二人は「レイジたちが本気で手伝うなら、あの理不尽な効率で一瞬で終わる」という確信を抱く。


「わ、分かった! これが今残っている依頼一覧だ! すぐに終わらせて北へ向かおう!」


セリアが即座に羊皮紙の束をレイジに手渡し、レオンはバリスの肩を力任せに掴んだ。

「バリス、お前は黙ってついてこい! ……いいか、余計な口は二度と挟むなよ!?」


「なっ……なんだよレオン、なんでそんな必死なんだよ!?」


羊皮紙に目を通しながらレイジたちがカフェを出ると、大通りの出口付近に一人の少女が待機していた。現場用の防泥つなぎを着込み、傍らに美しく磨き上げられた一機の板――流線型の『魔導エアボード』を携えたルカだ。


「遅いですよレイジさん。討伐対象の出現ポイントなら、お姉ちゃんの工房で全部データをもらって把握してます」


ルカはおっとりとした声を掛けながら、エアボードの起動スイッチを入れた。高効率な特製魔晶エンジンが静かな駆動音を立て、機体がふわリと地上数メートルへと浮上する。


「移動コストの削減だ。このボードを使えば、各討伐エリアへの移動時間をかなり圧縮できるはずだ」


後ろについてきていたレオンとセリアが素で目を丸くした。


「は……? えっ、ちょっと待ってレイジ君、それ何!?」

レオンの引きつった声が響く。


「ま、魔導フリスビーの応用……にしては大きすぎるし、自前で高度を固定して浮上してる……!? 安全高度の十数メートルを、外部の足場補強なしで滑空してるの……!?」

セリアも手持ちの杖をポロリと落としそうになりながら、目の前の光景に絶叫した。自分たちが数年がかりの極限制御でようやくフリスビーを足場にしているというのに、目の前の少女はすでに完全に「空飛ぶモビリティ」として実用化させているのだ。


「おい、バリス。ボーッとしてねえでさっさと乗れ。日没までにこのリスト、全部終わらせるぞ」


レイジの冷徹な一言に、バリスだけが「えっ、空……? これに乗るのか……?」と顔を青くして固まっていた。


「ちょ、ちょっと待て! 空を飛ぶだと!? そんなオモチャみたいな板に乗れるわけ……」

怯えて腰が引けるバリスの背中を、ルカが「大丈夫ですよー」とおっとりした声でぐいぐい押し込む。さらにルカは予備のエアボード二機をストレージから取り出し、滑空体勢を整えた。


「エアボードはまだ試作品なので、この三機しかありません。なのでボード移動は、開発者の私、足手まといになりそうなそこの大剣さん、それから……」

「ふははは! 言うまでもない、このリリアーナ様が搭乗してやろう!」

マントを翻してドヤ顔で名乗りを上げたリリアーナが、ルカの予備ボードへ飛び乗った。


「じゃあ、あとの四人はフリスビーで行くぞ」

レイジの指示に、エレナが「はいっ!」と即座に応じ、腰のポーチから特注の『絶対軸維持フリスビー』を取り出して空中へ放り投げた。霊力の針が空間に固定され、カチリと固定音が響く。

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