「ひえええっ!」 3日目開幕、開幕速攻で号泣するヘタレ少年
「えっ……? 環境魔力を、自分の魔力に上乗せしてるんですか!?」
驚くフィンとエレナの視線の先で、戦局が目に見えて変化し始めた。
剣士の猛攻を受けながらも、魔導士が不敵に口角を上げる。彼を中心に、大気中の魔力が渦を巻き、長杖の先端に目に見えるほどの濃密な高熱エネルギーが収束していく。自身の内なる魔力だけでなく、アリーナに満ちる環境魔力を強引に吸い上げて増幅させる高度な術式。
「しまっ――!?」
異様な密度の魔力を察知した剣士が咄嗟に距離を取ろうとバックステップを踏んだが、すでに遅かった。
ドォォォォンッ!!
魔導士の放った炎の奔流が、一瞬でリングの半幅を飲み込んだ。自身の限界出力を遥かに超えた上乗せ魔法は、剣士の構えた剣ごと衝撃波で吹き飛ばし、魔法障壁に激しく激突させた。
圧倒的有利だったはずの剣士が、白目を剥いて煙を上げながら倒れ伏す。
形勢逆転――わずか一瞬で決着がついた圧巻の光景に、アリーナ全体が大歓声で揺れ動いた。
「すごい……大気中の魔力を吸い上げて、自分の攻撃力を跳ね上げるなんて……」
エレナが目を輝かせながら呟く。どこか自分の『ハイブリッド・レーザー狙撃』の術式に通ずるものを感じ取ったようだった。
「なるほどな。外部リソースの併用か……理にかなった戦術だ」
レイジは顎に手を当て、フッと興味深そうに目を細めた。明日のベスト8による決戦へ向け、アリーナにはさらなる強者たちの熱気が充ち満ちていた。
魔闘祭第3日目、最終日。
空は雲一つない快晴で、中央のメインリングを取り囲む超超満員の観客席からは、地鳴りのような熱気が立ち上っていた。
フィンは、昨日の「俺って実は天才かも」という威勢はどこへやら、膨大な観客の視線とレイジの圧迫感に完全に呑まれ、膝をガクガクと震わせながら登場した。
「ひえええ……! なんでいきなりレイジさんなんですかぁぁ! やっぱり俺なんて来なきゃよかったんだぁ……っ!」
「おいおい、昨日威張ってた分はどこ行ったんだよ」
レイジは肩をすくめると、静かに構えを取った。
ゴォォォォン……!
開始の銅鑼が響き渡る。
「ヒィッ! 来ないでぇぇぇっ!」
フィンは悲鳴を上げながら、咄嗟に昨日までの「気」と「魔力」を同時に圧縮する絶対ガードの姿勢を取った。
だが、レイジの口角が不敵に上がる。
レイジが極細の霊力を周囲へ放射した瞬間、アリーナ全体を満たす大気中の環境魔力が一気に掻き乱された。レイジの「ハッキング」により、周囲の無数の魔力が彼の霊力の針によって強引に束ねられ、右拳へと収束していく。
レイジが踏み込み、空気を切り裂くような右ストレートをフィンのガードへ向けて叩きつけた。超密度の破壊エネルギーが一直線に放たれる。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!!」
死の恐怖に直結したフィンの生存本能が、極限まで加速した。
フィンは昨日の魔導士の動きを必死に脳裏に浮かべていた。
(あ、あの魔導士さんみたいに……周りの魔力も引き寄せて、自分の壁に上乗せする……俺なりにだけど!)
体内の気と魔力を圧縮した。防衛力場が磁石のように周囲の環境魔力を吸い寄せ、フィンの周囲に三重・四重もの密度の異なる複合防衛障壁を作り上げたのだ。
ズドォォォォォンッ!!
レイジの爆発的な魔力砲撃と、フィンの周囲の魔力をも取り込んだ超絶防衛力場が正面から激突した。
猛烈な衝撃波と光が巻き起こり、頑強な魔法障壁がみしみしと音を立てて軋む。
やがて煙が晴れると、レイジの砲撃を完全に相殺し、傷一つ負っていないフィンの姿があった。
見よう見まねで環境魔力を取り込み、自分なりの絶対防御へと昇華させたフィンの生存本能と適応力は、間違いなく規格外だった。
だが、当の本人は――。
「ひぐっ……ふぇぇぇんっ! 怖かったぁぁぁ! 今の絶対に死ぬヤツじゃないですかぁぁ!」
せっかく完璧な周囲魔力利用の防御を成功させたというのに、フィンは、涙目になって頭を抱えて震えていた。技術の凄まじさとは裏腹に、精神的な臆病さは1ミリも変わっていなかったのだった。
「……おいおい、それだけの防御力場を即席で完成させておいて、泣き言かよ」
レイジは衝撃波の余波で揺れる髪を軽く払い、苦笑交じりに拳を収めた。
「お前さ、ただ守ってるだけじゃ一生この試合終わらねえぞ。少しは自分から攻撃してみたらどうだ?」
「ひ、ひぃぇぇっ!? 攻撃なんて無理ですよ! だって、だって……相手に向かって飛び出すなんて怖すぎるじゃないですかぁ! 撃ち返されたら死んじゃいます!」
「……昨日も言っただろ。お前は自分が思ってるより遥かに強い。その『防衛用の力』をそのまま前に押し出すだけで、相手なんか吹っ飛ぶんだよ」
「……え? ほんとに、俺の力で……いけますかね……?」
レイジの自信に満ちた言葉に、フィンは涙を拭い、一瞬だけ目をパチパチさせた。
「……そっか。俺、昨日も『天才かも』って思ったし……レイジさんがそこまで言うなら……俺、やっちゃいますよ!?」
調子に乗りやすいへっぽこ精神が、恐怖を一瞬だけ上回った。
フィンは「ハァァァッ!」と引きつった奇声を上げながら、環境魔力をまとわせた腕を大ぶりに振りかざし、レイジめがけて決死の突撃を敢行した。
だが――。
レイジは最小限のステップで、無駄だらけの拳を紙一重でひらりと回避した。
「……あ」
空を切った腕の重みで前のめりにバランスを崩したフィンは、レイジの冷ややかな視線と目の前の空虚な空間を認識した瞬間、一気に顔面を蒼白にした。
「ひぃぃぃっ! かわされたぁぁぁ! ほらぁぁ! やっぱり俺の攻撃なんて全然効かないじゃないですかぁぁ! もうダメだ、俺の人生終わったぁぁぁ!」
一瞬で全自信が霧散し、フィンはリング上で頭を抱えて崩れ落ちた。




