常識外れの予選突破! 明かされるへっぽこの少年の名
日没とともに、過酷な1日目の予選サバイバルは幕を閉じた。
本来ならエレナの家から通うところだが、今日は受付終了の数秒前に魔導フリスビーのブースト機動による超高速の力技で強引に滑り込んだため、体力の消耗と移動の手間を考えれば到底帰れる距離ではなかった。
「ふはは! 安心したまえ! こんなこともあろうかと、会場近くの優良な宿を我が商会の経費で押さえておいたのだよ!」
リリアーナがふんぞり返って自慢げに胸を張る。
「お、珍しく社長らしい仕事をしてるじゃねえか」
「『珍しく』は余計なのだ!」
宿に到着した一行は、ゆっくりと風呂に浸かって激闘の疲れを癒やし、豪華な夕食を平らげた。明日の第2日目からは、有象無象の1日目を勝ち抜いた125人の猛者たちによる本格的な戦いが始まる。
エレナはベッドに入るなり「明日も頑張るぞー!」と意気込み、一瞬で寝息を立て始めた。レイジもまた、翌日の戦いに向けて静かに意識を落とした。
翌朝、魔闘祭第2日目。
闘技場は昨日以上の熱気と興奮に包まれていた。参加者が125人に絞られたことで大会運営にもゆとりが生まれ、観客たちも「ここからが本番」とばかりに割れんばかりの歓声を送っている。
午前中に行われるのは『ブロック本戦サバイバル』。
5つのリング(A〜E)にそれぞれ25人が集結し、一回戦限りの過酷なグループ戦を行う。ここを勝ち抜けるのは各ブロックたったの3〜4人。合計でたった16人しか、午後に行われる本戦トーナメントに進むことはできない。
エレナが立つCブロック(通過枠3人)には、昨日よりも明らかに質の高い闘気が満ちていた。
歴戦の冒険者や傭兵たちが、エレナを危険な強敵と認識し、包囲網を敷いていたのだ。
開始の銅鑼が鳴り響く。
瞬間、エレナの足首と膝で魔力と霊力の複合ブーストが起爆した。
ポンッ! という小さな破裂音と共に、エレナの体は弾丸のように宙へ跳び上がる。空中での絶対的な足場固定と、折れ線を描くような鋭角の暴力的機動。
「なっ……見えな――がはっ!?」
昨日以上の出力で放たれる予測不能な頭上からの急襲に、戦士たちは反応することすらできず次々と沈んでいく。開始からわずか数分後、Cブロックのリングの中央で立っていたのは、息一つ乱さないエレナを含めた3名のみだった。
Eブロック(通過枠4人)。
レイジの周りには、彼を『魔法の使えない素人』と見くびる者はもう誰もいなかった。
「あいつの体術は異常だ……囲んで一気に叩くぞ!」
重武装の騎士たちが大剣や槍を構えて一斉に襲いかかる。
「あー……朝から元気だな、お前ら」
レイジは深い溜息をつくと、迫り来る刃の隙間を最小限の動きで縫うようにすり抜けた。そして、すれ違いざまに相手の装甲の隙間、あるいは関節部分に極小の霊力を打ち込み、強引に筋肉を『起爆』させる。
「ぎゃあっ!?」
「うで、腕が……っ!」
魔法を使わず、無駄な動きを一切排除した冷徹な体術。レイジは自身の体力をほとんど消耗することなく、自滅していく戦士たちの山を築き上げ、涼しい顔で4人の通過枠に滑り込んだ。
Dブロックでは、「ひえええっ! 帰りたいぃぃぃ!」と半狂乱で逃げ回る『へっぽこ少年』の姿があった。彼が「こないでぇ!」と涙目で気と魔力を込めた腕を振り回すたびに、なぜか屈強な武闘家たちが凄まじい勢いで吹き飛んでいくという怪現象が起きており、見事に3名の枠を勝ち取っていた。
お昼。
午前中の過酷なサバイバルを終えた16名の猛者たちには、たっぷりと休息の時間が与えられた。
大食堂には豪華な食事が並び、戦士たちは午後の組み合わせ発表を待ちながら英気を養っていた。
レイジ、エレナ、リリアーナの三人がテーブルを囲んで食事をしていると、トレイを持った小柄な影がおずおずと近づいてきた。
「あ、あの……相席、いいですか……? 他の席、なんか怖そうな人ばっかりで……」
半泣きの顔で立っていたのは、先ほどDブロックを怪現象とともに勝ち抜いたあのへっぽこ少年だった。
「お、へっぽこじゃねえか。座れ座れ」
レイジが顎で向かいの席を示すと、少年は「し、失礼しますぅ」と縮こまりながら腰を下ろした。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はレイジだ。こっちがエレナで、偉そうに肉を頬張ってるのがリリアーナ社長だ」
「よろしくね」
「偉そうとは失礼な! 私は偉いのだ!」
騒がしい二人に少年は目を白黒させながらも、少しだけ安堵したように息を吐き、ペコリと頭を下げた。
「お、俺はフィンって言います……。あの、昨日はありがとうございました。話しかけてくれたの、皆さんだけだったので……」
「フィンか。で、どうだったんだDブロックは? また『事故』で勝ち上がったのか?」
レイジが意地悪く笑うと、フィンはスプーンを握りしめたままガクリと項垂れた。
「はい……なんか、皆さん俺を避けて勝手に転んで壁にぶつかって気絶しちゃって……。こんなの絶対おかしいですよ! 俺、死なないように必死で気と魔力を使ってガードしてるだけなのに……午後からタイマンなんて、絶対生きて帰れません……ひぐっ」
本気で怯え切っているフィンを見て、レイジは小さく息を吐いた。
(気と魔力の併用……本人は本当に『ただ身を守っているだけ』のつもりなんだな。師匠の無茶苦茶なサバイバル訓練のせいで、生存本能に直結した防衛行動の出力がバグってやがる。本気で殴りかかってくる奴よりもタチが悪い)
「ふはは! まあ安心したまえ、フィン! 我が商会の精鋭であるレイジかエレナに当たれば、痛みを感じる暇もなく一瞬で楽にしてやるのだよ!」
「ちっとも安心できませんよぉぉぉ!」
リリアーナの無神経な励ましに、フィンはさらに涙目になった。
会場の巨大な魔導掲示板に午後の『トーナメント1回戦』の組み合わせが魔法の光で描き出された。
選ばれし16人による、1対1の真剣勝負。
レイジとエレナの名前は、見事に別々のブロックに配置されていた。順当に勝ち進めば、決勝か準決勝まで当たることはない。
フィンの名前もしっかりとトーナメント表に刻まれていた。
「さて、ここからは運ゲーじゃ済まされない完全なタイマンだ。気抜くなよ、エレナ」
「うんっ! まかせて!」
「ひぃぃ……俺の相手、あの『双斧の狂戦士』って人だ……名前からして絶対殺されるぅ……」




