元・ポンコツの逆襲! 圧倒的スピードで駆け抜ける予選突破
エレナはかつてのように俯くことはなかった。
彼女はまっすぐ男たちの目を見据え、不敵な笑みを浮かべた。
「ふふんっ! 昔の私とは違うんだから! 寄生なんてしてないし、レイジの力だって全然わかってないくせに!」
「なんだと……っ! 減らず口を叩きやがって!」
「おい、行くぞエレナ。雑魚にかまってる暇はない」
レイジが面倒くさそうにエレナの襟首を掴んで引っ張った。
「あ、ちょっとレイジ! 自分で歩けるってば!」
男たちは去っていく二人の背中を睨みつけながら、「予選で当たったら泣かしてやる」と吐き捨てた。
闘技場は熱気と歓声に包まれていた。
広大なアリーナは頑強な魔法障壁によって5つのブロックに分断されており、それぞれで同時に試合が進行する形式となっている。
参加者が非常に多いため、人数を絞るための乱戦――1つのブロックにつき数十人が同時に戦い、最後まで立っていた上位5名のみが次のラウンドへ進出できるという過酷なサバイバル方式だった。それが午前2回と午後3回、計5回行われる。
観客席の最前列では、特等席を陣取ったリリアーナが「ふははは! 見せてやれ、我が商会の実力を!」と身を乗り出して声援を送っている。
エレナは『Cブロック』、レイジは『Eブロック』に割り振られていた。
Cブロックの開始の銅鑼が鳴り響く直前。
エレナをぐるりと囲むようにして、先ほど控え室で絡んできた男たちがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
「運が悪いなポンコツ。まさか同じブロックになるとはよ」
「へへっ、棄権と叫ぶ暇も与えずに、一瞬で終わらせてやるからよ!」
男たちは結託し、まずは一番弱そうなエレナを袋叩きにして数を減らす算段のようだった。
「ふふん、心配しないでも大丈夫だよ」
エレナは両膝を軽く曲げ、重心を落とした。彼女の瞳には、一切の恐れはない。
ゴォォォォンッ!!
開始の銅鑼が鳴り響いた瞬間、男たちが一斉にエレナへと襲いかかった。大剣が振り下ろされ、炎の魔法が放たれる。
だが、攻撃が彼女を捉えるよりも早く――エレナの足首と膝で、極小の魔力が『起爆』した。
ポンッ! と乾いた破裂音。
次の瞬間、エレナの姿がフッと掻き消えた。
「なっ……!?」
男たちの武器が空を切り、魔法が地面を焦がす。
「遅いよ!」
声は、彼らの頭上から聞こえた。
レイジとの泥臭い特訓で身につけた、筋肉の動きに合わせて魔力を爆発させる『ブースト機動』。エレナは常識外れの初速で空中に跳び上がると、空中に魔力で固定した足場を蹴り、空中で鋭角に軌道を変えた。まるで折れ線を描くような暴力的なまでの機動。
弾丸のように落下してきたエレナは、魔力で強化した拳をリーダー格の男の鳩尾に深々と叩き込んだ。
「がはっ……!?」
男は白目を剥いて吹き飛び、魔法障壁に激突して崩れ落ちた。
呆然とする残りの男たちに、エレナが弾けるような笑顔で襲いかかる。完璧に制御された無駄のない動きと、圧倒的な速度。かつての『ポンコツ』の面影はどこにもなく、エレナに襲いかかった連中は一瞬で全滅した。
圧巻の戦いぶりに一瞬で周囲が静まりかえる中、他の参加者たちも生き残りをかけた激しい乱戦を繰り広げ――間もなく、規定通過人数である残り5名となった瞬間、第一回戦終了の銅鑼が響き渡った。
ゴォォォォン……!
砂煙が晴れたCブロックの中央には、息一つ乱さず、誇らしげに胸を張るエレナの姿。その足元には、先ほどまで彼女を馬鹿にしていた男たちが全員気を失って転がっていた。
乱戦を勝ち抜きエレナとともに生き残った他の4名の参加者たちは、息を呑みながらエレナを凝視していた。
彼らはエレナの実力を警戒しつつも、不敵な笑みを浮かべたままでいた。
一方、その頃。Eブロックでも異様な光景が広がっていた。
開始の銅鑼とともに、「まずはあの魔力底辺の素人を片付けるぞ!」と息巻いて殺到した数人の参加者たちが、次々と地面に伏していたのだ。
「な、なんだこいつ!? 魔法も使わずに……っ!」
参加者の一人が、大ぶりな斧をレイジに向かって振り下ろす。
レイジは面倒くさそうに首をわずかに傾けてそれを躱すと、相手の腕の関節に触れるか触れないかの軽さで手刀を落とした。
パァンッ!
レイジの腕の中で極小の霊力が起爆し、強制駆動された筋肉が恐るべき速度と威力を手刀に与える。
「ぎゃあっ!?」
相手は腕の感覚を完全に刈り取られ、武器を取り落として悶絶した。
「おいおい、なんだよお前ら。ブーストの予備動作がデカすぎるだろ」
レイジはあくびを噛み殺しながら、迫り来る攻撃を最小限の動きでことごとく回避していく。
周囲から見れば、レイジは魔力を一切使っていないように見える。ただの物理的な体術だけで、魔法で強化された屈強な戦士たちを次々と無力化しているのだ。
霊力で、筋肉の可動に合わせて内側から爆発的な推進力を生み出しつつ、レイジ自身の冷徹なまでの最適化思考が、相手の攻撃の軌道を完全に先読みしていた。
「あー、面倒くせえ。さっさと終わらせるか」
レイジが床を蹴った瞬間、その姿がブレた。
自分に牙をむく者を的確に無力化し、他方での淘汰も相まって、Eブロックの生存者も瞬く間にレイジを含めた5名へと絞り込まれた。
レイジの「魔法を使わない異常な体術」に冷や汗を流しながらも、それぞれの武器を握り直し、勝気のこもった視線をレイジへ向けている。
彼らはレイジを十分な脅威と認識しつつも、自らの実力への絶対的な自信を失ってはいなかった。
「な……なんだあいつら……!」
「あんなの、聞いてねえぞ……っ!」
観客席から、他のブロックで勝ち残った参加者たちから、どよめきと驚愕の声が爆発するように巻き起こった。
「ふははははっ! 見たか愚民ども! これが我が商会の誇る最強の二人の実力なのだよーっ!」
観客席でふんぞり返りながら高笑いするリリアーナの声が、アリーナ中に響き渡っていた。




