↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界霊力技師の日常  作者: 咲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/86

ど忘れ大パニック! 突撃、魔闘祭の予選日

泥臭くも危険な特訓が本格的に始まった。


エレナはまず、足首と膝に極小の魔力を集め、踏み込みと同時に起爆させる練習を繰り返した。初日はタイミングが全く合わず、足が勝手に跳ね上がって顔面から芝生に突っ込んだり、空回りしてその場で不自然なステップを踏んだりといった惨状だった。

一日、一日と、数え切れないほどの失敗と微調整を経て、霊力と魔力と身体の同期は深まっていった。

三日目には、軽く地面を蹴るだけで、数メートル先へ瞬きする間に滑り込むようなステップを踏めるようになっていた。さらにエレナは、魔力の爆発に微量の霊力を混ぜ込むことで、ベクトルを強制的に補正するという独自の応用まで見せ始めていた。


一方のリリアーナの特訓は、まさに命がけのアトラクションと化していた。

『霊力の杭』で関節を無理やり引っ張って動かすという荒業は、繊細な魔力制御が苦手な彼女には合っていたものの、出力調整が絶望的に下手だった。

「行くのだ! とぅっ!」と気合を入れた瞬間、肩の関節に過剰な霊力が叩き込まれ、腕だけがロケットのように振り回されて体がきりきり舞いになる。そのまま「ひぃぃぃっ!」と悲鳴を上げながら吹っ飛んでいくのを、レイジが霊力のクッションで舌打ちしながら受け止めるのが日常風景となっていた。それでもリリアーナは涙目で「もう一回なのだ!」と立ち上がり、不格好ながらも少しずつ前進していく執念を見せた。


基礎的なブースト感覚を掴んだ二人は、再び街の外れの平原へと場所を移し、魔導フリスビーを使った空中機動の練習を並行して行い始めた。


エレナの機動は、数日前とは劇的に変わっていた。レイジが加工した『絶対にブレない足場』の上で、彼女は脚部に魔力と霊力の複合ブーストを起爆させる。ポンッ、という小さな破裂音とともに、エレナの体は弾丸のように次のフリスビーへと跳躍した。レオンたちの流れるような滑らかな軌道とは違う。直線を鋭角に繋ぎ合わせたような、暴力的なまでの速度と急制動を伴う『折れ線』の軌道。それはエレナ自身の瞬発力を限界まで引き上げる、新しい立体機動の形だった。

リリアーナもまた、不格好ながらフリスビーの上で転ばなくなっていた。マントの裾を物理的に霊力で持ち上げ、足元に杭を打ち込むようにして強引に姿勢を固定する。彼女なりのド根性ブーストにより、空中でふらつきながらも必死にエレナの後を追いかけていた。


数日後の朝。

いつものようにボロボロの体で起きてきたエレナとリリアーナを前に、テーブルでコーヒーを飲んでいたレイジがカレンダーを見て動きを止めた。


「……おい。そういえば、今日って魔闘祭の予選日じゃなかったか?」


一言で、室内の空気が凍りついた。

数週間前からギルド経由でエントリーを済ませていた、年に一度の大きな武闘大会。最近の騒動と特訓の熱狂ですっかり記憶の彼方に追いやられていたのだ。


「うそっ!? 今日!? 時間は!?」

エレナがパニックになって時計を見る。予選開始の受付終了まで、あとわずかしかない。

「ひぃぃ! 間に合わないのだ! 私の華麗な社長デビュー戦が!」

「お前は出ないだろ。……ほら、さっさと準備しろ俺の霊力で引っ張ってってやる」


ドタバタと家を飛び出し、レイジの霊力ブーストで半ば引きずられるようにして会場に滑り込んだのは、受付終了の数秒前だった。


息を切らしながら控え室に押し込まれたエレナだったが、顔に焦りはなかった。

闘技場から漏れ聞こえる歓声と、剣や魔法がぶつかり合う音。かつての彼女なら緊張で震えていたかもしれない熱気に、今のエレナは武者震いを感じていた。


だが、闘技場へ出る前に、参加者たちは厳格な審査を受ける必要があった。

「はい、次! 武器と魔導具の提出、それから魔力測定と体調チェックだ!」

大会スタッフの野太い声が控え室に響く。魔闘祭は公式な武闘大会であり、規定外の危険な呪具の使用や、薬物による一時的なドーピングといった不正を防止するため、事前の厳密なチェックが義務付けられているのだ。


レイジとエレナも列に並び、順番を待った。

やがてレイジの番が来ると、スタッフが水晶玉のような魔力測定器を差し出した。

「これに手を触れて、魔力を少し流し込んでくれ」

レイジは言われた通りに手を置く。しかし、水晶玉はごくわずかにぼんやりと光っただけで、すぐに沈黙してしまった。

スタッフは訝しげに水晶玉を叩き、もう一度レイジの顔を見た。

「……ん? 測定値、底辺クラス……というか、一般の農民より低いぞ? 故障か?」

「いや、俺は魔力があまりない体質なんでな。問題ないだろ」

レイジが平然と答えると、周囲の参加者たちからあからさまな嘲笑が漏れた。


「おいおい、なんだあの黒髪。魔力底辺で魔闘祭に出る気かよ?」

「死にに来たようなもんだな。予選で当たったら一瞬で終わらせてやるよ」


レイジの霊力は、魔力測定器には一切反応しない。彼らにとってレイジは、ただの無謀な素人にしか見えなかった。

「ふん、勝手に言ってろ。面倒な連中だ」

レイジは周囲の嘲笑を完全に無視し、早々にチェックを終えて待機スペースへ移動した。


エレナの番になった。彼女が水晶玉に触れると、淀みのない澄んだ光が安定して灯った。魔法暴走の欠陥を克服し、完璧に制御された彼女の魔力は、無駄な漏れがないため測定値こそ平均的だったが、質の高さは本物だった。


「よし、規定内だな。体調も問題なし。次!」

無事にチェックをパスしたエレナがレイジの元へ駆け寄ろうとした時、横からニヤニヤとした笑みを浮かべた数人の男たちが立ち塞がった。


「よお、エレナじゃねえか。お前もこんな大会に出るなんてな」

見覚えのある顔だった。以前、エレナが万年のポンコツ魔法使いとしてギルドで馬鹿にされていた頃、よく彼女をからかっていた他のパーティーの冒険者たちだ。


「最近、お前があの黒髪と組んでCランクに上がったって噂、一部じゃ流れてるみたいだがな。どうせその黒髪も魔力底辺の役立たずだったし、どっかの強い奴に寄生して実績をかすめ取っただけだろ?」

「魔法を撃てば自爆するポンコツが、魔闘祭で通用するわけねえだろ。怪我する前に棄権した方が身のためだぜ?」


エレナとレイジがCランクに昇格し、変異種を討伐したという事実は、ギルド内で確実に評価を上げつつあったが、すべての冒険者に知れ渡っているわけではない。彼らの頭の中では、エレナは未だに「使えないポンコツ」のままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。