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異世界霊力技師の日常  作者: 咲


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泥臭い裏庭トレーニング

(なるほど……筋肉の動きに合わせて体内の魔力や霊力を爆発的に巡らせて、強引に肉体の反応速度と筋力を底上げしようってことか。外部のパワーアシストっていうより、霊力や魔力をブースターにして肉体を力任せに駆動させる感じだな)


「言わんとすることは分かった。要するに、魔力で自分の体を内側から突き飛ばして、無理やり素早く動かすってことだろ」

「そうそう! それ! できるかな!?」

「理論上はできる。お前、最近は魔力の扱いがかなり上達してるしな。……ただ、力加減を間違えたら、自分の肘や膝が変な方向に曲がったり、筋肉を痛めたりするぞ」

「やる! やってみたい!」


即答するエレナ。すると、部屋の陰からリリアーナが勢いよく飛び出してきた。


「ず、ずるいのだエレナ! 自分だけレイジに『体が勝手に素早く動く魔法』を教えてもらうなんてズルいのだ!」

「だって今、思いついたんだもん!」

「私もやる! 私のドジっこな身体能力も、その『内側からポンッとするやつ』で解決するはずなのだ! そうすればマントを踏んで転ぶこともなくなるのだよ!」

「いや、マントを踏むのはただの不注意だと思うが……」


レイジは思わず呆れ顔で突っ込んだが、リリアーナは「我もやるのだー!」と腕をぶんぶん振って譲らない。


「まあ、リリちゃんもやるなら一緒にやろうよ! 二人で練習して、レオンさんたちをびっくりさせちゃおう!」

「ふふん! 望むところなのだ! 今度こそ我が商会の技術(?)で、あの二人をギャフンと言わせてやるのだよ!」


「分かった、分かった。だが、まずは基礎からだ。泥臭い練習になるぞ」

レイジが二人を連れ出したのは、家の裏庭だった。


「まずは腕立て伏せと腹筋、スクワットを各五十回。それが終わったら走り込みだ」

「……はい?」

「……は?」

エレナとリリアーナはきょとんとした顔でレイジを見つめた。

「なんだその間抜けな顔は。身体能力を魔力や霊力でブーストするんだぞ? 推進力に耐えうる最低限の『器』、つまり基礎的な筋力がなきゃ、出力に体が耐えきれずに自壊する。筋肉や骨といったハードウェアが、ブースターの負荷に耐えられる資本を作れってことだ」

「え、ええーっ!? 魔法の特訓じゃないの!?」

「泥臭い練習になるって言っただろ。俺だって毎日やってるんだからな」

レイジの言葉に、二人はさらに目を丸くした。

「うそ!? レイジが筋トレしてるのなんて見たことないよ!」

「私が起きる頃にはいつも優雅にコーヒーを飲んでいるではないか!」

「お前らが起きる前に裏で終わらせてるからだ。ほら、四の五の言わずに手を動かせ」


予想外の地味な筋トレの日々が始まった。

エレナは元々活発なこともあり、文句を言いながらもなんとかメニューをこなしていくが、ポンコツなリリアーナにとっては地獄のような日々だった。


「ひぃ……ふぅ……っ! もう無理なのだ! 腕が上がらないのだ!」

数日経ったある日、芝生の上に大の字に倒れ込んだリリアーナが涙目でレイジに抗議した。

「レイジ! もう筋トレは十分にやったのだ! さっさとその『ポンッとするやつ』の技術を教えるのだよ! 社長命令なのだ!」

ジタバタと駄々をこねて強請るリリアーナに、レイジは深い溜息をついた。

「……まあ、基礎体力のなさを実感させるという目的は果たしたか。いいだろう、教えてやる」


レイジは二人の前に立ち、自身の腕を軽くまくった。

「魔力や霊力で身体能力を強化するってのは、ただ体全体にエネルギーを纏うのとは違う。それだとオーラのように外に漏れ出すだけで直接的な推進力にはならない。……いいか、よく見ろ」


レイジの腕の内部で、淡い青白い霊力のノイズが走るのが見えた。皮膚の表面ではなく、血管や筋肉の繊維に沿うように、細く、しかし高密度に収束している。


「まず、動かしたい筋肉の『起点』にエネルギーを圧縮して溜め込む。イメージとしては、関節や筋肉の付け根に極小の爆弾を仕掛ける感じだ。そして、体を動かす瞬間――筋肉が収縮しようとするそのコンマ数秒前に、仕掛けたエネルギーを一気に起爆させる。その爆発的な反発力を、筋肉の可動方向へ一方通行のベクトルとして強制的に逃がすんだ」


レイジが言葉を切ると同時に、パァンッ! という乾いた破裂音とともに彼の腕がブレた。

レイジの拳はエレナとリリアーナの顔のすぐ横、空気を切り裂くような速度で突き出されていた。遅れて届く鋭い風圧に、二人の髪がぶわっと大きく揺れる。


「ひぃっ!?」

「……っ! はや……!」


「これが、内側からのブーストだ。自分の筋肉の動きに合わせて、エネルギーを『起爆』させて推進力にする。ただし、出力を上げれば上げるほど反動もリスクも跳ね上がる。高出力の状態でベクトルが少しでもズレれば関節が外れるし、爆発させるタイミングが遅れれば筋肉が断裂する。だから、ただ爆発させるだけじゃなく、必要に応じて出力そのものも的確に調整してやる必要がある」


レイジはゆっくりと腕を下ろし、呆然とする二人に目を向けた。

「もっとも、俺自身もこっちの世界に来て『魔力』という概念を覚えてから、身体強化の質が格段に上がったんだよ。霊力自体も引きずられるように前より上がったしな」


リリアーナはキョトンと首を傾げた。


「……『魔力』という概念を覚えた? 何を言っているのだ、レイジ? 魔力など、息を吸うのと同じくらい当たり前にあるものだろう?」

「俺の故郷にはない概念だったんだよ。昔は霊力だけで駆動させていたが、魔力みたいに肉体や環境へ自然に馴染ませる感覚を取り入れたことで、より精密な出力調整ができるようになった。だから、生まれつきその感覚が染み付いているお前らなら、俺よりずっとスムーズにコツを掴めるはずだ」


レイジは改めて二人に指示を出した。


「エレナは魔力制御の精度が極まってるから、自分の魔力を神経に沿わせてタイミングを合わせる練習から始めろ。リリアーナは……お前の場合は俺の霊力を浴び続けて適性が高くなってるから、『霊力の杭』の応用で、関節の動きを物理的に強制駆動させる荒業を試すか。どっちにしろ、最初は出力を極小にして『少しだけ体が軽く動く』程度に抑えろよ。本気で怪我するからな」


二人は生唾を飲み込みながらも、その目には確かな期待と闘志が宿っていた。

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