ポンコツ社長の華麗なる要求と、隠れAランクたちのフリスビー講座
変異種の素材(と言っても、原型を留めていた僅かな部位だけだが)を回収し終えた後。
レオンは、引きつった笑顔を浮かべながらレイジたちに歩み寄った。
「あ、あの……レイジ君、エレナちゃん。もし良かったら、さっき貸したその予備の魔導フリスビー、そのまま差し上げるよ……」
Aランク冒険者のプライドを粉々に打ち砕かれたレオンからの、ささやかな敬意と降伏の印だった。
だが、すかさず二人の間に割り込んできたのはリリアーナだった。
「ふむ、その申し出はありがたいが、断らせてもらおう!」
「えっ?」
「私も自分専用の魔導フリスビーが欲しいのだよ! これまでただの玩具だと侮っていたが、あんな風に空を駆け回る足場にできるとはな! 商会のトップとしての機動力アップに不可欠だ! 猛特訓して、私も完璧に乗りこなしてみせるぞ!」
リリアーナは両手を腰に当ててえっへんと胸を張って続けた。
「どうせなら、子ども向けのありふれた物ではなく、最高にかっこ良くて、社長の威厳に満ち溢れたデザインのものが欲しいのだ!」
レイジは呆れたようにため息をついた。
「お前な、いくらデザインを気取ったところで元は子ども用の玩具だぞ。社長の威厳もクソもあるか。それに、お前のその短足でどうやって空中を蹴り回るんだ」
「だ、誰が短足だ! 私はやると言ったらやるのだ! さあ、街に戻って私にふさわしい魔導フリスビーの買い付けに行くぞ!」
わーわーと騒ぎ始めたリリアーナを見て、レオンとセリアは顔を見合わせた。
前提として、魔導フリスビーとは『魔力を込めて投擲し、空中で軌道をコントロールして遊ぶ』ための、キャッチボールの延長のような子ども用遊具である。
それを空中に留めて足場とし、立体機動を行うなどというのは、本来の用途からは完全に逸脱している。レオンとセリアが長年の特訓の末、極限の魔力制御と体幹センスを駆使してようやく編み出した常識外れの神業なのだ。
リリアーナとて、商人としての端くれ。魔導フリスビーが本来どういう玩具であるかの知識くらいは当然持ち合わせている。
しかし、先ほどの常識外れな空中戦を目の当たりにし、「あの玩具をああやって使えば空を飛べる」という事実にすっかり魅了されてしまったのだ。レイジやエレナが、その神業をいともたやすく、しかも力技で再現してしまったため、「自分にもできるはずだ」と完全に勘違いしている節もあった。
圧倒的な戦闘力を見せつけられ、すっかり先輩風を吹かせる自信を喪失していたレオンとセリアだったが、フリスビーの扱い方の話題となれば話は別だ。
レオンがコホンと咳払いをして、少しだけ先輩らしい表情を取り戻した。
「……待ってくれ、おチビ……いや、リリアーナさん。魔導フリスビー選びを甘く見ちゃいけない。デザインも大事だが、素材の軽さ、魔力伝導率、そして何より『剛性』が命だ。空中の足場にするつもりなら、素人が適当なものを選ぶと踏み抜いて大怪我をするぞ」
セリアもここぞとばかりに身を乗り出した。
「そ、そうよ! 特にあなたみたいな初心者は、バランスを取りやすい形状のものを選ばなきゃダメ。私たち、足場としての魔導フリスビーの扱いならそれなりに自信があるから……お店選びから購入のコツまで、先輩としてしっかりアドバイスしてあげるわ!」
「おおっ! それは心強いな! よし、ならば特別に同行を許可しよう!」
リリアーナが偉そうに頷くと、レオンとセリアはほっとしたように胸を撫で下ろした。少しでも「先輩」としての面目を保てる得意分野が見つかり、なんとかAランクの矜持を繋ぎ止めたのだ。
「やれやれ……討伐が終わったら帰って寝たかったんだがな」
「まあまあ、レイジ。リリちゃんがかっこいいフリスビーに乗って空を飛ぶところ、ちょっと見てみたいし!」
「だから『ちゃん』付けするなーっ!」
「その前にだ」
レイジが、鼻息を荒くしているリリアーナの頭を押さえながら口を挟んだ。
「討伐したグリフォンをギルドに引き渡すのが先だ。エレナの極太レーザーのせいでほとんど原型を残してないしな。さっさと報告して手続きを済ませるぞ」
「あっ、そうだったね! レオンさんたちのおかげで、初Bランク依頼達成だね!」
エレナが無邪気に言うと、レオンとセリアはビクッと肩を揺らして、どこか遠い目をした。
一同は岩山を下り、街のギルドへと向かった。
カウンターへ赴き、依頼の達成報告とともに残骸となったグリフォンの部位を提出する。
担当した懇意の受付嬢は、提出された黒焦げの羽根や爪の残骸をまじまじと観察し、困ったように眉を下げた。
「ええと……確かにグリフォンのものと思われますし、変異種らしき特異な魔力の痕跡も残っていますけど……素材が素材なんで、正確な鑑定には少し時間がかかりますね。けど流石、Bランクのレオンさんたちですね! 変異種相手に、こんな短時間で仕留めて帰ってこられるなんて。やっぱり格が違います!」
受付嬢は感心したような視線を向けていた。
純粋な尊敬のまなざしを向けられ、レオンとセリアの胃のあたりがキリキリと痛んだ。
「い、いやぁ……今回は俺たちというより、その……」
「そうよ! レイジ君たちと協力したからこそ、というか……あはは……」
しどろもどろになる二人の横で、リリアーナがカウンターから身を乗り出し、ふんぞり返った。
「ふはは! そうであろう、そうであろう! 我が商会の精鋭にかかれば、変異種など恐るるに足らんのだよ! さあ、手続きが終わったら早速フリスビーを買いに行くぞ!」
ポンコツ社長の号令で、ギルドを後にした一行は、いよいよ街の玩具店巡りへと繰り出すのだった。
王都の裏通りにある、知る人ぞ知る老舗の魔導具兼玩具店。
店内には色とりどりの魔導フリスビーが所狭しと並べられており、リリアーナは目をキラキラさせながら派手な装飾のモデルに手を伸ばしていた。




