空を穿つ霊力、おもちゃの空中戦
レオンは警告したが、レイジの目が本気であることに気づき、セリアと共に渋々といった様子で予備を取り出した。
レオンが持っていた予備の2枚と、セリアが持っていた予備の2枚、あわせて計4枚の魔導フリスビーがレイジに手渡された。
レイジは、レオンから借りた2枚を自分が持ち、セリアから借りた2枚をエレナに渡した。
「いいか、エレナ。細かい制御なんていらない。見えない杭を打ち込む感覚で、フリスビーの表面から空間の座標そのものに力を固定しろ。バランスは気にするな、力技で足場を作るんだ」
「要は、空間に直接留めればいいんだね!」
「は? 何を言ってるんだ、そんなの物理的にも魔力的にも――」
レオンが呆れたようにツッコミをかけようとした、まさにその瞬間だった。
二人は手にした2枚ずつのフリスビーを空へと投げ放ち、迷いなく跳躍した。
彼らが踏み込んだ瞬間、空中のフリスビーはレオンたちの洗練された魔力膜とは異なり、不自然なほどピタリと空間に硬直した。
それはレオンたちが培ってきた高度な魔力制御の技術とは似ても似つかない、ただの力技の極致だった。
「ガッチリしてる!」
「ほらな。これなら足場ごと蹴り飛ばせる」
レイジとエレナは、変異種が巻き起こす暴風など一切存在しないかのように、それぞれ2枚のフリスビーを左右交互に展開して一直線に空を駆け上がっていく。それは、空気抵抗すらも力任せに踏み破る爆発的な超高速機動だった。
セリアが息を呑んで絶句する横で、レオンはハッと意識を取り戻した。呆けている暇はない。変異種の暴威は、未だに衰えるどころか激しさを増している。
「感心してる場合じゃないぞセリア! 奴の注意が分散した!」
「――わかってるわ!」
レオンとセリアは、自分たちの持つ本来の技量へと切り替えた。
レオンは自身のフリスビーを猛回転させ、全身の魔力ジャイロを限界まで加速させる。変異種が吐き出す乱気流の直撃を受けながらも、強烈な遠心力ですべての風圧を弾き飛ばし、文字通り弾丸のように宙を切り裂いてグリフォンの左翼へと肉薄した。
レオンの剣身から放たれた紅蓮の炎が、変異種の左翼の装甲を焼き焦がし、その飛行バランスを大きく揺さぶる。
すかさずセリアが、自慢の多層魔力膜で編み上げたフリスビーを足場に、さらに高空へと跳躍する。彼女は杖を掲げ、極限まで圧縮した氷結の魔力を一気に解放した。
「冷徹な嵐に縛られなさい、『アイス・バインド・ストーム』!」
セリアが放った無数の氷の礫と青白い稲妻が嵐のように降り注ぎ、バランスを崩した変異種の右半身と尾を完全に氷漬けにする。グリフォンは地面へと叩きつけられようと、凄まじい絶叫を上げて暴れ狂った。
だが、変異種の執念は尋常ではない。凍りついた翼を自らの筋肉の膨張と瘴気で無理やり砕き、怒り狂った巨体が最後の悪あがきとばかりに、周囲の空間魔力をかき集めて漆黒のブレスを放とうと口を大きく開いた。
「くっ、まだあれだけの魔力を……!」
レオンが空中で体勢を立て直そうとするが、先ほどの猛攻の反動で間に合わない。
絶妙なタイミングを見計らっていたかのように、レイジとエレナが変異種の頭上に躍り出ていた。
「来るぞ、エレナ」
「うんっ!」
レイジは自身の持つフリスビーを足場にして急降下しながら、掌から放った霊力ノイズを変異種の頭部へ直接叩き込んだ。変異種の脳髄に直接干渉し、いままさに放たれようとしていた高密度ブレスのエネルギー回路を強制的にハッキングし、その制御を激しく狂わせる。
「ぐっ……があああっ!?」
変異種が悶絶し、放つべきブレスの矛先が乱れ、周囲の魔力が制御を失って暴走し始める。
「――私の番だね!」
変異種のすぐ斜め上空。エレナは最後のフリスビーを絶対軸でガッチリと固定し、完璧な射撃姿勢へと移行した。
暴走した変異種の瘴気、周囲の乱れた風の魔力、岩山一帯に満ちていた大気中の環境魔力のすべてが、エレナの指先から放たれる圧倒的な求心力に引きずられるように、巨大な渦となって収束していく。
第1層の絶対軸(霊力の針)が空間を貫き、
第2層の内燃機関(自身の変質魔力)が熱量を帯び、
第3層として周囲から強引にハックし尽くされた膨大な環境魔力が、津波のように同軸ケーブルの周囲へと巻き込まれていく。
詠唱など一切ない。ただシステムを書き換えるように、世界中の魔力をねじ伏せた超高出力のエネルギーが、エレナの細い指先の先で一点に圧縮された。
ドォォォンッ!!
放たれたのは、世界を焦がすような極太の光線――ハイブリッド・レーザー狙撃・完全版だった。
レオンとセリアが削り、レイジが回路を乱した変異種の隙を完璧に突く形で、光の奔流がグリフォンの巨体を正面から完全に飲み込む。光の柱は岩山の空間そのものを引き裂き、眩い閃光とすさまじい熱風が周囲の景色を一瞬で塗り替えた。
轟音が鳴り響き、爆風が収まった後。
残っていたのは、完全に機能を停止し、原型を留めないほどに焦げ焦げとなったグリフォンの巨大な残骸だけだった。魔物は断末魔の暇すら与えられず、一撃のもとに消滅していた。
地上でその光景を目の当たりにしたレオンとセリアは、足の力が抜けたようにへたり込み、言葉を失ってただ空を見上げるしかなかった。
「ふ、ふはははは! 見たか凡俗ども! レオンたちの連携を足がかりにしつつ、我がリリアーナ商会の精鋭が華麗にとどめを刺したのだ! これが真のチームワークなのだよ!」
遠くの地上から、リリアーナが両手を腰に当てて盛大にふんぞり返り、ドヤ顔で叫ぶ声が、静まり返った岩山に高らかに響き渡ったのだった。




