リリアーナ商会、奇跡の(ハッタリ)大逆転!
プラントに戻った三人は、すぐさま復旧作業に取り掛かった。
放置されて荒れ果てていたボイラーの煤を払い、配管の詰まりを物理的に取り除いていく。そして、エレナが撃ち抜いた変異甲虫の装甲殻を削り出し、焼き切れていたメインバルブの箇所へ、微調整を繰り返しながら慎重にはめ込んだ。
「さて、ここからが本番だ」
レイジは懐から奇妙な形をした石を取り出した。それは彼が異世界転移時に作り上げていた「緊急時用の外部ストレージ」――レイジの霊力によって変質・調律されたエネルギーを宿す、即席のバッテリー石だった。
彼はボイラーの心臓部に触れ、自身の霊力を極限まで圧縮する。坑道の崩落を防ぐため、機械の周囲だけに厳重な「極小結界」を展開し、ハックの対象を『機械内部の燃焼制御』という極めて狭い範囲に絞り込んだ。
「外部ストレージ接続。燃焼・排熱プログラム、現代ノイズ対応型へ書き換え開始――」
レイジの霊力が流し込まれると、死に絶えていたプラントが重低音を響かせて鼓動を始めた。
甲虫の殻で作られた絶縁バルブが完璧に機能し、通常なら燃焼を阻害するはずの魔力ノイズすらも、新しい制御システムが「エネルギーの一部」として吸収・変換していく。
「動いた……! 本当に動いたぞ!」
リリアーナが歓声を上げる。巨大なベルトコンベアが最高効率でゴリゴリと稼働し、彼らだけの「超効率的なサプライチェーン」が完成した瞬間だった。
数日後。
ハックにより稼働したプラントを利用し、三人は狙った純度のカルボ鉱石だけをピンポイントで大量に採掘することに成功した。
依頼主であるリリアーナの知人のレンズ開発者は、ニッチな要求に100%合致する質の高い鉱石を見て小躍りして喜んだ。レイジの目論見通り、将来の精密機器開発に向けた強力な外注先の確保と、当面の活動資金という二つの成果を手堅く手に入れたのである。
だが、真の「錬金術」は別の場所で起きていた。
「レイジー! ご飯にするから火ぃ点けてー!」
「おう」
野営の準備中、エレナに呼ばれたレイジは、納品時に弾かれた「規格外の安い下級カルボ鉱石(ただの余剰品)」をかまどに放り込んだ。
軽い気持ちで、燃焼効率を最適化する局所ハックを施したそのカルボ鉱石を。
すると、その下級鉱石は煙やススを一切出さず、火力が常に一定で、しかも通常の1.7倍も長持ちするという、トンデモない性能を持った究極の燃料へと変貌していた。
「……おいおい、なんだこの綺麗に燃える石は!?」
リリアーナはそれを見逃さなかった。商魂を爆発させた彼女は、翌日、その石をいくつか袋に詰め、ギルドに併設された大衆食堂の厨房へ突撃したのである。
「おやっさん! この下級カルボ鉱石、相場に銅貨数枚だけ色をつけた超激安価格で卸してやるのだよ! 騙されたと思って使ってみろ!」
「あぁ? 下級鉱石なんか使い物になんねぇ……って、なんだこの火力!? ススも出ねぇし、貴族様が使う『特級の精製炭』と全く同じじゃねぇか!!」
試しに燃やした料理長は血相を変え、すぐさまリリアーナの腕をがっしりと掴んだ。
「おい嬢ちゃん! なんだこの石は!? 圧倒的に長持ちする上に火力がブレねぇ! 他の店に知られたら買い占められちまう……よし、今すぐうちと『独占契約』を結んでくれ!」
安値で売り込むつもりが、予想以上の大絶賛と独占の申し出。
リリアーナは内心「しまった、安売りしすぎたか!?」と冷や汗をかきつつも、即座に頭をフル回転させた。
(……いかん、もともとこれらは採掘の過程で出たわずかな余りカス。まとまった在庫などどこにもない! だが、ここでこの不味い状況をハッタリで乗り切るのだ……!)
「ふふん、独占したいなら条件があるのだよ! この『極秘の特種燃料』、我が商会の独自ルートで仕入れているゆえ、生産数は極めて少ない。だが、今ここにある試作品の第一陣……これを『権利金』込みの特別価格で買い取るなら、優先的に回してやってもいい!」
「よし、それで良い!」
料理長はその場で手持ちの現金を叩き出した。
わずかな量しかなくても、現場にとって喉から手が出るほど欲しい「超高品質の燃料」だったため、その一握りの試作品が丸ごと高額な「手付金(権利金)」に化けたのだ。
結果として、リリアーナは滞納していた大家の借金を、その日のうちに綺麗に完済できてしまったのである。
「わはははは! 見たか! これぞ我がリリアーナ商会の、ハッタリと話術による資金調達術よ!」
夕日に染まる街角で、皮袋に入った硬貨をじゃらじゃらと鳴らしながら、リリアーナがふんぞり返って高笑いする。
「……おい。そもそもあれは俺の加工のテストで出た余りカスだぞ。在庫の裏付けもないのに、よくそんな大風呂敷を広げられたな」
呆れ顔でツッコミを入れるレイジに対し、リリアーナは悪びれもせず胸を張った。
「商売とは勢いと信用……いや、勢いだ! 幸い、貴様があの鉱山を稼働させたのだから、これからいくらでもカスは出るだろう! さあ、我が商会のために次を加工するのだレイジ君!」
「お前はただ余った石を売り込みに行っただけだろ……」
ため息をつくレイジの隣で、エレナが「よかったねぇ」と微笑みながら、ドヤ顔のポンコツ社長の頭を優しく撫でた。
「勘違いするなよ、ポンコツ社長」
レイジはため息をつきながら、メモ帳の角でリリアーナの額をぽんと突いた。
「無計画に売り込んで大家の借金を払えたのはいい。だが、在庫の裏付けもないのに大風呂敷を広げるな。受託したのに納期遅延を起こせば、お前の言ってる『信用』とやらが一瞬で吹き飛ぶぞ。それに、俺の霊力のリソースだって無限じゃない」
「う、むぐぐ……。だが結果的に全額返済できたのだから、細かいことはよいではないか!」
「良くない。……ただ、今回は手持ちの借金を全額清算した事情も考慮してやる」
レイジは手持ちの現金をじゃらじゃらと鳴らすリリアーナを見下ろし、呆れ半分、諦め半分の視線を向けた。今ここで「総売上の7割を技術料としてよこせ」と取り立てれば、彼女は文字通り数分で再び一文無しになり、また路頭に迷うことになる。
「その残った金は、今後の『リリアーナ商会』の初期運転資金としてお前が持っておけ。……その代わり、条件がニつある」
「じ、条件……? どんな条件なのだ……?」
リリアーナが警戒するように身をすくめる。




