第九話 百鬼夜行
RPGで出てくるモンスターといえば、何を思い出すだろうか。
スライム?ゴーレム?それとも魔法使い?俺は、ゴブリンだ。
そのゴブリンが、街に蔓延り始めていた。
「何だよ、あいつ!」
俺は咄嗟に『雪融刀』を召喚する。
「きゃー!何よ!やめてぇ!」
若い女性の甲高い声だ。
見ると、ゴブリンに襲われかけている。
「ぐへへ、可愛らしい小娘だ、持ち帰っ」
「きっしょ!死ねっ!」
俺は駆けつけ、ゴブリンの首を掻っ切る。
配慮のできる男、友少幸友。若い娘の視界には一部始終は映らないようにした。さすが俺だな。
しかし、そこかしこで襲われている人がいるため、俺一人ではどうしようもできない。そもそもなんでゴブリンなんかが現実世界に?
「くそ、こんな時頼れる人がいれば…」
サメと幼には力は借りられない。シグ姉も流石にゴブリンじゃ行動をとる事は困難だろう。心呂は、避難した人を守るのが大事だ。俺はポケットに手を突っ込み、ケータイを取り出そうとする。
しまった、ケータイはこっちじゃない。かなり動揺してるな…ん?この感触…レシートか?
俺のポケットの中に紙切れが入っていた。開いて見ると…
「なになに… 【銃撃訓練ならお任せ!曽木二者!000−0000−0000】
曽木さんか!」
この人が居たじゃないか!…っと、冷静になれよ。見知らぬ人をここで呼び出し、死なれでもしたら夢見が悪い。
まぁしかし、そんなことを考えながらも俺の指はケータイの画面をぽちぽちクリックしていた。
しょうがない。そう、これはしょうがないのだ。
プルルルル…
「はい、二者です、今立て込んでて…」
「曽木さん?俺です、ハチ公前で案内した女ですけど」
「あー!あの時の!うぎゃっ!やめろ!」
あっちもどうやらハザード状態のようだ。
ここは置いて曽木さんの方へ行くしかない。
「どこにいますか?助けに行きます。」
「明治神宮前駅だけど、やめておいたほうがいい。死にたくないならね。」
「今行きます」
「ちょ」
ツー、ツー
俺はガチャ切りし、明治神宮前駅まで、可能力を使用してひとっ飛びした。
「曽木さん!曽木さん!」
俺は駅上空からゴブリンを狙い撃ちつつ、曽木さんを捜索している。
パン!
ゲームでよく聞いている。これは銃声だ!曽木さんがいる!
音の発生源の方を見ると、ゴブリンが一点に集っている。その中心からは、定期的に、パン、パンと音が鳴ってはゴブリンが液体…血だろうか。何かを撒き散らし、吹っ飛んでいく。ゴブリンの血ってのは赤じゃないのか。
え、てか待て、あの人って実銃所持してたの?
「とりあえず助けないと!」
俺はゴブリンの山へと降り、中心から遠ざけるようにひっぺがす。
「曽木さん、大丈夫ですか?」
汗を垂らしながら疲れ切っている曽木さんに寄り、話しかける。
「な、なんとかね。そっちこそ、大丈夫なのかい?」
無理くり口角を上げて微笑む曽木さん。
「大丈夫…ではないですね…」
俺も似たような顔を作る。
「それより、この気色悪いのはなんなんだい?」
「おそらく、ゴブリンだと思いますけど…何が起こってるんでしょう…」
曽木さんはどんな感情か分からないしかめ面のような苦笑いのような顔をして顎に手を当てている。
「ま、何はともあれ、また君に救われたみたいだね。
君の名前を、教えてくれるかい?」
「また教えないって選択は無さそうですね。
俺の名前は、【友少友希】ですよ。」
「…そうかい。そうだ、あと曽木さんってのやめてくれ、体が痒くなる。敬語は慣れてないものでね。二者でいい。」
悠長に話しているが、今は実は戦闘の最中だ。ゴブリンを迎え撃ったり、人から剥がしたり。
「強くはないが、如何せん数が多いな…全く、どこから湧いて出てきているのやら…」
二者が口を緩める。
彼女の言う通り、一体一体の強さは、あまり無い。
しかしこれまた数が尋常じゃない。見える範囲で百は優に超えてるだろう。
そんな折、不意に明治神宮の方を見る。…ん?
明治神宮の入り口には、一の鳥居と言われるものがある。そこからは一本道。二の鳥居、三の鳥居と連なってゆく。
不意に見たのは一の鳥居からぞろぞろ…と言っても一度に四、五体だろうか、会話しながらゴブリンが出てくる状況だった。
「二者、足掴んだかもしれない。」
「奇遇だね、私も今同じことを言おうとしていた。」
「「多分あの中に親玉がいる」ね」
〜明治神宮 一の鳥居〜
「あち!」
鳥居を潜ろうとしても、弾かれる。もちろん正しい手順だ。会釈をして端っこから入ろうとしているのだが。
俗にいう結界とかいうものだろう。触ると結構熱い。
「鳥居は神域への結界とよく聞く。ゴブリンのようなファンタジックな生き物がいるということはその親玉も非常にファンタジックなんだろう。」
今の声は二者だ。
「どうしたものか…そうだ、ものは試しでやってみるか。」
そう呟き俺は鳥居へ手を向ける。そして、
「結界よ、消えろ!」
可能力を発動させる。
驚いたことに成功してしまった。境内を囲んでいたらしき結界はパリンという音と共にものの見事に決壊し、俺たちは晴れて境内へ入ることが許されるようになった。
「行きますか。」
「そうだね。」
境内の中は、外のゴブリンハザードとは違って、シンとした空気に包まれた、いかにも神聖を空気感で表した様な感じだった。
「二者さん、あんた拳銃持ってませんでした?銃刀法違反ってご存知?」
俺はリボルバーを構えている曽木さんに話しかけてみる。
「いやー、普段はバレないように隠してんだけどね。」
お巡りさん、こいつです。
「はは、友希よ、そんな顔しないでおくれ。」
「とにかく、親玉見つけましょ。」
たまに出てくる単体ゴブリンを出合い頭に斬って撃って、どんどん進んでいく。ずっと隣を歩いているというのに、二者の異変に気づけなかった俺を愚かと罵れ。
〜明治神宮 二の鳥居〜
「二者、見ろよ、なんか居るぜ」
俺たちの目の前に居るのは、まあ、鬼と言った所か。ゴブリンの親玉か?
二者から俺の呼びかけに返事は来ない。
「二者?二者さん?」
俺が二者の目の前で絵をぶんぶん上下に振っても目は動かない。
「ちょっと?あれヤバいんじゃ無いの?なんか溜めてる、すごいすごい」
身長二、三メートルはありそうな鬼は明らかにこっちを向いて手を掲げ、掌に橙のエネルギーの塊を作っている。それとともに先程までの静寂などなかったように掃除機の吸い込み音のような騒がしい音が響いていた。
咄嗟に二者の方を向くといつの間にかショットガンを鬼に向けていた。そして勢いよく、バン!と轟音が静かな境内に響く。
「間に合ったぁ…」
「間に合ったじゃねーよ!どっから出したのそれ!」
二者さんは至って丸腰。ポッケにリボルバーを持ってるくらいで、ショットガンを持てるほどのカバンなどは持っていない。
「グアアアア!」
その咆哮の音源は目の前の鬼。そう、ショットガンが効いていない。
いや、効いてはいるが、ダメージが少ないらしい。
「おっと…」
この絶望の声は二者の物。
「うわ…」
こっちは俺の声。
勝てるわけ無い。二人の脳裏に強く浮かんだ言葉は、それのみだった。




