第七話 東京旅行#2
〜9/14(日) 能力事件発生まで残り1日〜
二日目だ。この日は各自、自由行動ってな運びになった。
だがしかし、俺は早々にピンチに陥っている。
「おいねーちゃん!昨日の金返せよ!」
「待てって!俺はあんたとなんか会ったことないから!」
見知らぬおっさんが俺の胸ぐらをつかんで金を返せとうるさい。
「だが昨日返すって言ったろお前!」
「言ってねーって!テレポート!」
「うあっ?あんの野郎どこ行った?!」
咄嗟にビルの上にテレポする。この能力で…いや、可能力でか。
「まったく、朝からとんだ災難だった…」
「ねー、あの人知り合いじゃないんでしょ?」
「ああ、顔も知ら…って!うおぁ!ビクッたー、なんで居るんだよ!」
「えぇ?自由行動だから、ビルの屋上で黄昏れてたんだよねー」
咄嗟に飛んだビルには心呂が居た。ったく、どんな確率だよ。
「心呂、お前、未来では何してたんだ?」
俺のそんな唐突な質問に驚いたのか、心呂は一瞬フリーズして、
「そうねぇ、三番隊隊長をしてたかな」
「おお、なんだ、何かの部隊に入ってたのか」
「うん。【日本慈善団体喜怒哀楽】、通称【喜怒哀楽】に入ってるよ。お父さんが作ったんでしょ」
「うん、作ってない」
「あ、そっかー、まだこの世界じゃ起きてないんだったね。」
こいつ適当だな、ホント。
「そういや、お前は西暦何年産まれなんだ?」
「ん?二〇三〇年。」
「そうなのか…って、後数年したら俺に子供できんのかよ!やっべー、緊張してきた、おい!向こうの俺は女なのか?!男なのか?!」
これは、元男にとっては、非常にデリケートな話なんだ。失うのは貞なのか、処なのか。
「ん?私の時は男だったけど…」
「私の時は?他の時もあんのか?」
未来はどんな事になってんだよ…
そんな時だった。
プルルル…
俺の懐のケータイから着信音が鳴った。
非通知か。まったく、何なんだ?
「もしもし」
「…」
俺の呼びかけにケータイの向こうからは沈黙が返ってきた。
「何だ?間違いか?」
「私はSNOWFLIEND。
二つ、メッセージを残す。」
既聴感のある声が俺の耳を通る。
「?何だよ、大体、スノウフライエンドって誰だ?いたずらならやめてくれ、暇じゃないんだ。」
「一つめは『泣く子供に気をつけて』
二つめは、『桃は美味しく無い』グッドラック。」
「は?」
ツーツー…
切りやがった…何だったんだ?
「お父さん、どうしたの?」
マッチ売りの少女に気をつけて…?冷たい桃…?何の話なんだ。
「分からん…多分、いたずら電話だ。」
そういうことにして一旦、この場を収めることにした。
今俺はサメと合流し、ハチ公前にいる。
ちなみに心呂はというと免停の話を未来としているらしく、少々一人にさせてくれとのことだった。
「サメ、こんだけの犬が待ち続けたんだってよ。」
犬の知能って言ったらなんだ、幼稚園生レベルだったか?それが約十年間も待ち続けるってのはすごいよな。
「はぇ〜犬なのにすごいね。お兄ちゃんもハチ公くらい落ち着きがあればいいのに。」
「やかましいわ!」
待ち続けるのと落ち着きがあるかはまた別の話だろうに。まったく。
実は俺は今、能力事件についてサメに語ろうか迷っているところだ。サメに余計な心配かけたくないって気持ちと、サメを絶対守りたいって気持ちが拮抗しているのだ。どうしたものか…
「すみません、お嬢さん達。今少し良いですか?」
そんな俺とサメに話しかけてきたのは、他でもない、ただの人間だった。
俺は一瞬ナンパかと疑ったが、眼鏡を掛けた女性だったので、少し安心した。
「ああ、構いませんよ。なにか力になれば」
「すみませんね、ここから明治神宮に行きたくて。どう行ったら良いですかね?」
「それだったら、渋谷駅から山手線で代々木駅まで行けば良いんじゃないですかね。」
「ありがとうございますぅ!いやー、ほんと、感謝感激雨あられですわ」
感謝感激雨あられとか、今日日聞かないな。
女性は、それに続いて、
「いつかお礼がしたいです!生憎と今日は忙しくて…お名前を教えては、貰えないでしょうか?」
「名乗るほどのものじゃねえよ。」
「お兄ちゃん、答えてあげなよ」
これは男のロマンなんだよ!空気読めタコ!
「お嬢ちゃん、お気になさらず。私のTEL番です。」
そう言って女性は俺に名刺を渡す。
渡された名刺には、
【銃撃訓練ならお任せ!曽木二者!000−0000−0000】
とあった。
「ああ、なんかすまんな。曽木さん。俺の意地に付き合ってもらっちゃって。」
「どうってことありません!困ったらいつでも電話ください!それじゃ!」
そう言って颯爽と女性は駆けていった。
「お兄ちゃん、ご飯どうしよっか。」
「サメの好きなところでいいぞ」
正午を回ったタイミングで今日の大きいハプニングはとりあえず幕を閉じた。
え?昼飯は何だったかって?東京まで来たのにも関わらず、ただのイタリアチェーン店だったよ。
「うーん…ねむねむ。ここは?
ああ、バミの世界か。」
「や、幸友。来てくれてよかったよ。」
「来てくれてよかったっていうか、バミが呼んだんだろ?」
「確かに」
そう言い微笑を浮かべるバミの後ろから水菜さんが現れる。
「やぁ友希くん。元気していたかい?」
俺達の水菜さん、あなたのお陰で夜が休める時間です!
「こんばんは、お陰様で」
「ありがとね、あ、友希くん、そういえば君の風呂をバミがおっ!」
「はーい、水菜ちゃんは黙ってようか?」
バミが話しかけている水菜さんに飛びついてチョークスリーパーをする。
俺達の水菜さんに手を出すな!
「おい、バミやめろ!
水菜さん、続きをお願いします」
「けほ、けほ、全く、バミも本気でやらなくていいじゃん!」
俺は逆にバミをコブラツイストで固め、水菜さんに話を聞く。
「バミが友希くんの風呂を覗いてたって話さ」
「ふーん」
「幸友!いだいいだい!やめて!ごめんなさい!」
「ふーん」
「反省してまあ゛ぁぁぁぁぁぁ!」
「あとでお尻ペンペンの刑で」
「ねぇ!それ幸友がお母さんにやられてたやつ?!痛そう!やだぁ!」
「はぁ、とりあえず、なんで呼んだの?」
「そうそう、それだよ、本題は。
全く、水菜が関係ないこと言うから」
「…五十」
「幸友?!それなんの数字!怖いって!目が笑ってないよ!」
「…六十」
「きゃー!」
お前の尻を叩く回数に決まってるじゃないか。察し悪いな。
「なんだ、バミが口を開くたび地雷を踏み抜いているから私が話そうか。
さ、座って。バミは床で。」
そう言ってバミをどかして椅子に座る水菜さん。
「あらかた予想はつくけど…何の話なんですか?」
「友希くんの予想通りだと思うけども、能力事件についてだよ。」
やっぱりか。色々聞きたいことあるんだよな。
「俺のこの『何でも可能にする可能力』じゃあ事前に防げないのか?」
「うーん、できないことはないけど――」
けど?
「友希くんが可能力の精度をもっと上げてくれなきゃだよね…それが出来ても能力事件は免れないよ。」
「能力事件ってそもそもなんで起こるんですか?」
「噴火による地球上フィールド内の情報過多による異空間ホール出現による均衡崩れによって起こる能力インフレーションのことだよ」
「なんでそんな急に解りにくくなるんですか」
「えーっと…
噴火が全世界で起こることによってこの世界にバグが生じると起こるから、能力を使って止めたところで次は能力のエネルギーによる情報過多が起こっちゃうんだよね。」
なるほどわからん。
「つまりは…能力で止めたとこで無駄だから減災に務めたほうが良いってことか?」
「そんなとこだね。」
「あなた達二人は助けに来てくれないんですか?」
「ボク達は天界からこのまま降りるには膨大な力を使うから、あまり助けられないんだ。」
「降りられないってことか…それならムズいよね…」
「降りられるには降りられるんだけど、省エネモードだから色々力は抑えなきゃなんだよ、だからあまり助けられないってこと。」
出来ないことはないけどってやつか。




