第六話 東京旅行#1
土曜日。夢から覚めた俺の目に一番最初に入ったのは俺のクローゼットの前でガサゴソしている女だった。
「なにしてんの」
「着替えだけど?」
だからって俺の服に着替えることはないだろうに。
「おい、お前が来てきた服でいいだろ。
俺の服を着るな」
「えー、なんでぇー」
拒否する理由は見つからないが、見知らぬヤツに服を貸すほどお人好しであるつもりはないんだが。
「実は、今日お前に頼みたいことがあってな。そのために服は俺のを着ないでほしいんだ。」
「なになに?私に任せなさいよ」
胸を張ってフンスとばかりに腰に手を当ててドヤる心呂。
やれやれ、先が思いやられるな。
「実はな…」
「幼さーん!」
「やぁ、サメちゃん。久しいね」
駅に着き、俺たちと幼が合流したところだ。
「照島、大きくなったな、前見た時はこんなんだったのに」
シグ姉は両手を向かい合わせてギュッと近づける仕草をする。
「時雨さん、久しぶりです、何年ぶりでしょうか」
そう言い肩をすくめる幼。
シグ姉がカフェを開いたのが六年前だから、そのくらいの年月は経っているんじゃないか?
「ま、感動の再会はこの辺までにして、そろそろ行くか。」
こうして俺たちの東京旅行が始まったのだ。
〜9/13(土) 能力事件発生まで残り2日〜
「「東京キター!!」」
「落ち着けよ、雨友、照島。」
新幹線を降り、東京駅の前で写真を撮るサメと幼。
記念写真なら四人で撮ればいいのに。
「おいお前ら、今日はいい旅にするためにガイドを呼んだんだ。」
唐突に切り出す俺にシグ姉は不満を見せる。
「幸友、私はこれでも東京で店を出してる。ガイドとまでは行かなくとも案内くらいならできるぞ?」
「実は俺の友達が東京に居てね、タダでガイドを務めてくれるって言うからさ。」
俺のそんな弁明に幼が、
「あれ?幸友私以外に友達いたっけ?」
などと、俺のことを舐め腐ってるようにしか思えないツッコミをしてきた。
いや、まぁ合ってんですけど。このガイド友達じゃなくて娘なんですけど。
そう。ガイドというのは心呂の事だ。昨日の夜に頼んだのは、東京でガイドをして、俺達に違和感なく付いてこいという物だったのだ。
「あ、ああ…ネッ友なんだよ!そうネッ友!あははー」
俺の棒読みをよそに、心呂との待ち合わせの時間が近づいてきていた。
時計を見てあたりをキョロキョロ見回す俺にサメが、
「ガイドさんはなんて名前なのー?」
「えー、あー、え、えと…」
…やばい。名前考えてなかった。俺がここで名前を言ったとしても、心呂と噛み合わなければ話がややこしいことになってしまう。しょうがない。ここは俺の娘ということを信じよう。そんな俺の脳内に現れたのは原宿の二文字。安直だが、仕方ない。
「ハラ…シュク…あ!そう!宿原さん!【宿原心呂】って名前だ!」
「…なんか怪しい」
そう言って俺を睨む幼。
「あんま睨むなよ」
そう言い、駅の出入り口の方を見ると、見たことある桃色の髪の毛が。
「やっほー、おと…幸友ー!」
良い間違えかけたぞ、あいつ大丈夫か?
俺のそんな心配も無視され、心呂は続ける。
「こんにちはー!あ、みなさんが幸友の言ってた人?よろしくお願いしますっ!」
「幸友にこんな友達が…?」
「私以外にこんな可愛い子…」
「お、お兄ちゃんに幼さんとは別の女友達が…
まぁ幼さんより可愛くないけど」
心呂は出会いが悪かっただけで、普通に見ると、世間的には可愛いとされる側らしく、顔立ちは悪くなかった。
皆さん、なんか、申し訳ないですぅっ!
「ま、まぁ、というわけで、この心呂さんがガイドを…」
その俺の言葉を遮るように心呂が
「自己紹介しまーす!年齢十六歳、名前は…」
くそ、俺が言うより先に…!趣味とか言ってから名前にしろよ!
そんな心呂は俺の後ろをちらっと覗くと、思いついたように、
「宿原心呂です!」
俺がこっそり後ろを見ると原宿の文字。本当に親子なんだな…
すると、シグ姉が急に驚きのことを口走った。
「心呂ちゃんは心無しか、うちの母さんに似てるな。」
なんだ、隔世遺伝か?シグ姉はオツムは弱いが、勘だけは良い。バレないようにしなきゃな…
「ささ、私の案内を信じて!まずは秋葉原に行きましょう!」
「しょうがねぇな…ま、観光だ!楽しもうか!」
「「おー!」」
他四人のはしゃぎっぷりを横目に、俺は不安しかなかった。
「うわー!アニメのものばっか!こっちはゲーム!うわあああ!」
「サメちゃん!みてみて!」
サメと幼が前方ではしゃいでいる。あいつらのお守りはシグ姉がしてくれている。そんなわけで俺と心呂は後ろから見ているんだが、
「おい心呂、能力事件の細かい情報は分からないのか?」
「んー?わんまいわわあないえぼ」
「それ飲み込んでから話せ」
「んっ、あんまり分からないけど、九月十五日午前十時二十四分五十八秒に起こるってことくらいしか…」
なんだって?九月十五日午前十時二十四分五十八秒?漢数字じゃあわかりにくい。
9月15日午前10時24分58秒。この方が幾分か分かりやすいか。
って!そんな事どうでもいい!
「お前しかの意味知ってる!?
そんな細かく分かるんだったら十分だ!その時になったら俺が…」
「俺が?」
どうしたらいいんだ?俺が?力を持っているから?なにをすれば?
――お父さんが「ピンクのやつの提案を訊いていたら助かった」って言ってたのは聞いたことあるけどねー
「…心呂。どうしたら良いと思う?」
俺がそんな質問を投げた時。
「おい幸友。私はトイレ行ってくる。こいつら見ててくれ」
相変わらず空気の読めない…
「わーったよ。はやく帰ってこいよ」
俺とシグ姉がサメと幼から目を離した瞬間のことだった。
シグ姉が、
「幸友!後ろ!」
そう叫ばなかったら、俺でさえも気づかなかっただろう。
「うぁぁぁぁ!」
俺が後ろを向いた時、そこに映ったのは、倒れた幼と、連れ去られるサメだった。
「サメ!時よ、止ま」
俺がそう言いかけた時、動いたのは、心呂だった。
「待ちなさい!
能力、発動。マリオネットパペット!」
心呂が手を前に出し、誘拐犯に標準を合わせ、「止まれ」と言った途端、誘拐犯は片足を上げたまま、静止した。
「はーい、いくら雨友ちゃんが可愛いからっておイタはしちゃダメだよぉ〜」
顔は笑っているのに目の奥が笑っていない心呂は、静止した男からサメを奪い取ってこっちに来る。
「はい!どーぞ!もう、目離したらダメでしょ?」
まったく、周りの人にこんなのがバレたらどうすんだ。
俺が通行人達の時間を止めなかったら危なかったぞ。
「使う力と場面は弁えろよ、心呂。
時よ、動きだせ。」
俺のその呼びかけに世界は応える。
「大丈夫か?サメ、幼。」
幼を起き上がらせてサメの元へ駆け寄る。
「お、お兄ちゃぁぁぁぁん」
「ま、まぁ、怪我はないか?」
「うん、無いよ、怖かったぁ」
「とりあえず、行こうか?」
はぁ、ヒヤヒヤしたぁ…
夜、ホテルの屋上にて。
部屋を分け、俺と心呂だけで屋上にて話している。
「心呂、お前の能力ってなんなんだ?」
「え?私の能力は『自分の仲間の力を使える能力』だよ。」
なにそれ最強じゃん。
「じゃあお前が仲間だって思った人間の力は何でも使えんのか?」
「いや、ちょっと語弊があるよ。相手が仲間だって思わなきゃダメなんだよね〜」
「なるほど、昼はそれで俺の力を使ったって訳か」
「え?違うよ?あれは雨友おばちゃんの能力だよ」
は?
「何言ってんだ、サメが能力を解放したって?」
「んえ?ああ、そういう事ね。解放されてなくっても使えるんだよ。便利な能力でしょ?」
「それこそチートじゃねぇか!
どんなにムズい解放条件でも勝手に使えんのか!」
「仲間ならね。」
ずるいなその一言。
そんな事があって、一日目は無事…では無いが、終了したのだった。




