第二話 気づかない死
俺としたことが、大事なことを忘れていた。
俺の唯一無二の友達である、幼に事情を説明していなかった!
幼は少し男勝りで、一人っ子。
元々は家族ぐるみの付き合いだったのだが、俺の親がどっかに行っちまってからは家族同士でってのはあんまりなくなったけど、親友、幼なじみとしてはずぅっと付き合っているわけで、事情を説明しない訳にはいかない。
ということで、幼を休み時間に呼ぶとする。
「幼、ちょっと来てー?」
「うぇ?お、幼?いいけど、」
しまった!この体じゃまだ喋ってなかった!動揺させちまったか!話をややこしくしたくはないんだがな。
「こんなとこ連れ込んで何する気?」
幼は体術弱いくせに「シュッシュッ」とボクシングの構えを取る。
「何もしない。俺、実は友少幸友なんだ。」
「…やっぱり。そうだと思った。」
「そうだよな。だからな、証拠も…え?今なんて言った?」
俺のきょとんとしてるであろう顔にもお構いなく、幼は続ける。
「いやさ、幸友に従姉妹が居るんだったら私も会ってるはずだし、そもそも私の名前知ってる時点で怪しいと思ったんだよ。で、確信はその服装。そのパーカー着てんの幸友しか見た事ないから!」
俺の服装は赤いパーカー、青いラインの入ったショートパンツ。
…確かに特徴しかないな。
「そ、そうか。」
最初から全部分かっていたのか。
「…納得はしてないよ?」
え?それってどういう?
「なんで昨日まで男だったやつが急に女になって出てくんのってこと!」
…俺だってそれが分かったら苦労してねぇわ。
「知らない。なーんにも」
「ほんとに!?ホントのホント!?」
しつこいな…心当たりなんて…〈美少女になりてぇ〉心当たりなんて…〈心の底から願うこと〉…心当たりしかねえわ…
「嘘です、心当たりしかありません…」
「ほらぁーやっぱり。」
そこで区切るかのごとく、休みの終わりを告げる音色が鳴り響いた。
「もう終わりか、次は現代語だよね、急ご!」
「お、おう!」
「うーん、ここは?」
あれ、今さっきまで俺は現代語を受けていたはず…あぁ、寝たのか。
にしても随分な明晰夢なこと。初めてじゃないか?こんな意識あるの。
そんなことを考えつつ、辺りを見回すと、辺り一面木、木、木!どうやら樹海のようだ。しかし、足元には線路。どこまでも続いているようだ。
「え、幸友?なんでここにいるの...?」
俺が名前を呼ばれて振り向こうとすると、夢は終わった。
「はっ!なんだ!?」
横を見ると涙目で俺の背中に両手をついている幼の姿が。
「どした?大丈夫?」
俺が心配すると、
「大丈夫?はこっちのセリフだから!本当に死んだかと思って…うぅ」
死んだかと思った?俺が授業中よく寝るのは幼も知っているはずだろうに、なんでそんなに怯えてんだ。
幼は袖で涙を拭ったかと思えば、
「次体育だから!早く着替えて!」
よく見ると幼は体操ジャージであった。
クッソ!更衣室での合法お着替えシーン逃したってことかよ!男の憧れなのにぃ!!悔しいです!
「てか誰もいないじゃん。ここで着替えよ。」
「えっ」
幼は素の声を出す。
「えっ?」
「ま、まぁ幸友も今は女の子の体だし?別にいいけど、向こう向いてるから」
そう言い、幼は後ろを向く。
うーむ?らしくないな。幼稚園の頃とはいえ、一緒に風呂も入った仲だろうに、着替えごときで照れるようなやつだったか?
まったく、つくづく女ってのはわからん。
そんなこんなで、外。
「おーし、今日は百メートル走を計っていくぞ。」
「「はーい」」
今日の体育は、どうやら体力測定をするようだ。皆口々に「だるい」だとか「めんどくさい」とか、やれやれ。なにが嫌なんだ。
自分で言うのも何だが、俺はこう見えて才色兼備、文武両道の優等生。運動神経は高い方だ。だから、体力測定が実は楽しみだ。女になった今の体と男の頃の体、どっちがいいかな?筋肉は多少落ちてる気がするが、軽くなった気もする。ふふ、楽しみだ。
さぁ、次は俺の番だ。すると、俺の隣のやつが話しかけてくる。
「友希さん、俺に勝てる?」
えーと、こいつ誰だっけ?山田だっけ?覚えてないけど。
「わかんないけど、私も結構速いよ?」
「よーい…ドン!」
先生が合図を出す。
合図に合わせて俺は地面を蹴る。
…脳内時間、一秒。俺はゴールラインに立っていた。
「…ん?」
次に聞こえた言葉は、俺の脳みその機能を一瞬停止させた。
「さ、三秒二三!三秒二三ですぅ!」
なんだか焦げ臭い。そう思い靴の裏を見ると、少し溶けているようだった。後ろからは砂埃が立ち、山田(仮)が「どうなってんだよ!」とか言いながら走ってくる。
……いや。待て待て待て待て。どうなっているんだ?三秒?は?
分かった。夢だろ!これ夢だな!
「友希、どういう事?」
幼がヒソヒソ声で話しかけてくる。
…どういう事って、知らないよ!
そして下校中。あの後、屋上で物思いにふけていた。何が俺の体に起きているのか。全く、今日一日がマジ濃すぎる。
ま下校中って言っても、もう家の前なんだが。うーん、鍵が開いてオマケにリビングの明かりまでついている。
「ったく、サメどうしたんだ?」
サメは今は夕飯の買い物で家にはいないらしい。親が二人ともどっか行ってしまった為、今は俺とサメの二人でやりくりしている。そのため、サメが買い物、俺が調理としているんだが…
兎にも角にも、サメはこんな事やらかすやつではない。あいつもあいつで疲れているのかな。明日学校の帰りに、プリンでも買ってやろう。そんなことを思いながら俺は扉を開ける。
「んっ!?なんだよ、酒くさいぞ」
玄関を開けた瞬間にムワッと漂う尋常じゃない酒の匂い。まさかサメが呑んでんじゃねぇだろうな…
「おい、なんの匂い…だよ…
は?」
リビングの扉を開けると、そこには驚愕の人物が立っていた。
親は消え、中学二年の少女と高校一年の男のみの家。
そんな俺達の財源とは何か。
それは、俺達が慕うべき、強き姉。【友少時雨】の月一振込みによって成り立っていた。
シグ姉は東京でカフェを開いているため、この静岡には滅多に来ない。
そのシグ姉が家にメールも無しにやってきた時、人はどんな反応をするだろうか。
「うわぁ」か?「なんでいるの?」か?否。実際は…
「うぉ、ビクッたー。久しぶり。最近カフェどうよ?」
うん。普通。
「ヒック…あぁ?お前だぇだよぉ?ふすぃんさかぁ?」
呂律が回っていない。完全に《《出来上がってる》》…
このダメ姉貴ッ!
「俺だよ、幸友。忘れちまったか?…あ。」
しまった!俺今女の姿なんだからこの鳥頭じゃあ尚更分かるはず無いだろ!クソ、しくったな。
俺は自分に自分でフォローを入れるように
「あぁ、実は俺、女になったから。よろしく」
酔っ払いはこんくらい軽くあしらっても平気かと思ったが、全然、そんな事はなかった。
「ヒック…流石に騙されねぇぞぉ!ふほうしんにゅーしゃ!」
めんどくせぇなぁ…このバカ。
ガチャ…
どうやらサメも帰ってきたようだ。ここはサメに助けを求めるとしよう。
「おかえりー、なぁサメ、このバカに俺が俺ってこと証明して?」
「ただいまー、えぇ?なんで私が?
お姉ちゃん、だから言ったでしょ?本当だって」
この酔っぱらい説明受けてたのかよ、まぁ酔ってるから仕方ないか。
「んぁ?たしかにそんな事も言ってた気がするなぁ」
「これで信じた?シグ姉。」
「ZZZ…」
は?
「ま、お兄ちゃん、お風呂湧いてるから入っちゃって」
「分かった…」
すやぴぴな我がダメ姉貴の寝顔にマーカーで落書きしてやろうかと思ったが、起きたときのことを考えてやめておこう。一応ダメ姉貴は空手黒帯だ。体術じゃあ勝てない。




