第九話 望み
家の前で立ち尽くす。中からは嫌な気配が漂ってくる。おそらく莉子の父親だ。どうやらここにまだいるようだ。なら、好都合。だが、莉子をこのまま連れて行くのは駄目だ。なら、文子さんに電話する。
「もしもし」
『あら、悠君電話してくれると思っていたわ』
「状況はわかってますね」
『ええ』
「なら、今から莉子を連れて行きます。ずぶ濡れなんで着替えを用意してあげてください」
『ええわかったわ』
電話を切り莉子の実家へ向かう。ここからそんなに遠くはない。家をニ、三軒行ったところにある。
チャイムを鳴らす。
「待ってたわ」
「すみません」
「とりあえずあがって」
「はい」
文子さんに言われるまま家に入る。
「ほら、悠君もこれで頭拭いて」
タオルを渡された。
「すみません」
「それで莉子のために行くんでしょ」
「はい」
「巻き込んじゃってごめんなさいね」
「いえ」
これから自分で巻き込まれに行くのだそんなことを言われるのは筋ではない。
「じゃあ、行きます。莉子が起きたらよろしく言っておいてもらえませんか」
「ええ、でも、起きたらまた、泣いちゃうかもね」
「どうでしょう」
さっき結構泣いたからわからない。
「じゃあ」
立ち上がり行こうとした瞬間、制服をつかまれた。莉子が制服を掴んでいた。
「莉子」
そっと莉子の手をはずす。
「…………行って来ます」
「行ってらっしゃい」
文子さんに見送られて莉子の家を出る。
「さて、どうしよう」
あんなこと言ったのだが何も策はない。
「やばいな。どうしよう」
勢いだけでここまで来たのだ。本当にどうしよう。
「ええい、ここで悩んでいても変わらない」
覚悟を決めて家の敷居をまたぐ。
「ただいま」
「ああ、お帰り悠」
父さんが出てきて小声で言う。
「莉子ちゃんは?」
「家に送ったよ」
「そうか、今莉子ちゃんのお父さんが来て悠を待ってる」
「わかってる」
「父さんもがんばっただけどね駄目だったよ。すまん」
「うん、じゃあ、行って来る」
「ああ、がんばれ。本当にすまないな」
「いいよ」
僕はリビングヘと入った。そこには莉子のお父さんがソファーに座っていた。
「お久しぶりです」
「ああ」
互いに言葉を交わす。この人に会うのはこれで三回目だ。この人の仕事が忙しいのも理由のひとつだが、僕がこの人のことが苦手というのもある。それに会った三回ともいいことがあったときではない。どの時も最悪の場面だった。
「アレが世話になったそうだな」
威圧感のある声が言う。娘をアレ呼ばわりか、変わらないな。僕の中の何かが切れかけた。
「いえ」
「まったくアレには困ったものだ。昔から親の言うことを聞かない」
「それで生まれてこなければよかったと言ったんですか?」
「何が言いたい?」
威圧的に僕を睨んでくる。
「そんなことで莉子を泣かせたのかと聞いている」
睨み返す。
「躾だ。親の言うことが聞けない子供など子供失格だ」
「…………」
ブツンッ
何かが切れる音がした。
「なんだその目は」
その問いは僕には届いていなかった。ただ許せなかった。何も知らないコイツが莉子を泣かせたことが許せなかった。
「……なよ」
「何?」
「ふざけるなよ!!」
「なんだその言い草は!!」
「ふざけるな!! お前にアイツの、莉子の何がわかる!!!」
何も知らないくせに!! 莉子のことを見ようともしないで。
「親だからって勝手な理屈をアイツに押し付けてんじゃねぇよ!!」
夜な夜なアイツが一人で昔から泣いていたことを僕は知っている。
「言うことを聞かない子供は失格だぁ? それなら子供の話を聞かない親は親失格だ!!」
それでもアイツは笑ってるんだよ!!
「もっと莉子のことを見てやれよ!! 子供は親の操り人形はないんだよ!!!」
毎日、誰にも相談せずに一人で溜め込んでる。それなのに。
「アンタはアイツの父親だろう!!」
莉子のお父さんが何かを言おうとしたところで。
「あなたの負けよ」
「文子」
「文子さん」
文子さんが入ってきた。
「口をだすな文子」
「そう、でもね、悠君が言ったことは全部正しい」
「…………」
「私たちはあの子のこと何もみてなかった、何も聞いていなかった。本当に親失格ね。だからね、決めたのあの子の好きにさせようって」
「…………」
文子さんの言葉をただだまって莉子のお父さんは聞いている。
「だから、聞いてみましょう」
物陰から莉子がリビングへ入ってきた。さっきまでのあの沈んだ表情ではなく何かを決意した顔だった。文子さんが何かしたな。
「お父さん」
「…………」
莉子のお父さんは何も言わない。
「ごめんなさい。私はお父さんの言うような理想的な女の子には……理想的な子供にはなれません。私は私にしかなれません。だから……ごめんなさい」
深々と頭を下げる莉子。
「………………」
莉子のお父さんが立ち上がる。少しだけ莉子が震える。
「…………そうか」
そしてリビングの出入り口に向かった。そして言った。
「…………なら好きにしろ」
そう言ってリビングを出て家を出て行った。
「素直じゃないんだから。じゃあね、悠君。ありがとう」
文子さんも夫を追うように外へ出て行った。
「よくやったな悠。じゃあ、あちらさんと少し話をしてくるから莉子ちゃんをよろしく」
父さんも文子さんたちを追って外に出て行った。
「はふ~~」
へなへなと莉子が床に座り込む。
「大丈夫か?」
「怖かった。また、殴られるかと思った」
「それなら来るなよ」
「だって、悠にだけ任せられないよ。これは私の問題なんだし………………それに悠が私のために怒ってくれたから…………その、私もがんばらなくちゃって思って」
最後の方は顔を真っ赤にしながら言った莉子。ってコイツ、もしかしてアレを聞いてたのか? うわ、恥ずかしい。たぶん僕の顔も真っ赤になっているだろう。
二人して顔を真っ赤にしていると莉子が言った。
「その…………ありがとう悠」
そう言った莉子の顔は今まで見たことがないような一番いい笑顔だった。思わず見蕩れてしまうほどの…………。
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今回のオチというか後日談。
莉子はあのあともう一度きちんと両親と話し合いをしたらしい。その結果高校に戻ったようだ。きちんと納得してのことのようだ。それ以来電話というか連絡はないので無事にやったいるのだろう。おかげで家の中が静かになった。
父さんもまた仕事で家を出た。相変わらず忙しそうだ。シュレディンガーも帰ってこない。また、いつものような静かな日常に戻ったのだった。
「さて、行ってきます」
いつものように登校する。教室で自分の席に着くと。
「なあ、知ってるか?」
三上が言ってきた。
「何が?」
「今日転校生が来るってはなしだ」
「ふ~ん」
「なんだよふ~んって。興味なにのかよ。木山の情報だから確かだぞ」
「興味ないな」
「女子だぞ!! 女子なんだぞ!!!」
「はいはい、わかったわかった」
まったく、高校生になってまで転校生ごときで騒ぐわけないだろう。話し続ける三上を無視して外を見ていると担任が入ってきてHRが始まった。
「今日は転校生がうちのクラスに来てます。だから自己紹介をしてもらいましょう」
僕はその時窓の外を見ていた。
「じゃあ、入れ」
ガラガラガラ
教室のドアがある音がして転校生が入ってきた。
「な!?」
その姿を見て驚く。黒板に名前が書かれソイツは言った。
「黒江莉子です。よろしくお願いします♪」
莉子が僕のクラスに転校してきたのだった。
これから騒がしい毎日になりそうだ。
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夏の前に、梅雨になり世界が涙を流すのはきっと夏に精一杯笑うためなんだろうとそう思った。
こんなのでいいのか不安です。ほとんど勢いで書きました。
評価、感想よろしくお願いします。




