第八話 父
世界には雨振る時期がある。この日本では梅雨、雨が良く降る時期だ。しとしととあまり雨足の強くない雨が長く降り続く時期である。それはまるでこの世界が涙を流しているようだ。そんな時期には悲劇が転がっている。世界の悲しみに引かれて悲しみがやってくる。世界はそんなもののために雨を流すのだろうか…………。
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6月4日、金曜日。天気は雨。梅雨に入り雨が降り続いている。この季節を嫌いな奴も多いと思うが僕は結構好きだ。確かに洗濯物が乾かなくてたいへんだがそれを抜きにしたら合法的(?)に家の中で本を読めるので結構好きだ。こらそこインドアとか言うな。引きこもりとか言うな。いいだろう趣味は人それぞれだ。気にしない気にしない。
そして莉子が来て二週間以上が経ったのだった。莉子の両親にもばれることなく父さんにもばれることなくやって来た。まあ、莉子が一歩も外に出てないのもあるのだがな。
「さて、起きるか」
今日もいつものように起きる。
キンコーン
「誰だこんな朝早くに?」
玄関を開けると。
「父さん!!」
「ただいま悠」
「帰るなら帰るって電話くればよかったのに」
「遅かったからな」
「まあ、いいや、入ってよ」
「ああ」
そこでふと莉子のことを思い出す。まあ、今なら起きることはないだろうから大丈夫だろう。
「あれ~悠?」
タイムングよく莉子登場。
「…………」
「あれ、莉子ちゃん帰ってたんだ」
「あ、悠のお父さん!!」
「やあ、久しぶりだね」
「ど、どうも、お久しぶりです」
莉子は笑顔だが顔が引きつっている。うちの父さんと莉子の両親は仲いいからな。
「終わったな」
これで莉子の居候も終わるだろう。
「それにしても莉子ちゃんも学校があるよね。なんでここにいるんだい?」
「そ……それは」
莉子が目で僕に助けてくれと言ってくるが僕はあえて無視した。そこは自分で説明してもらわないと。
「えっと」
莉子がいつまでも口ごもっていると――。
「まあ、いいよ、何か事情があるんだろうし」
と父さんが言った。
「あの、ありがとうございます」
「お礼なら悠にいいなよ」
「はい、ありがとう悠」
「いいよ別に」
「さてと悠、学校だろ?」
「ああ、まだ時間はあるよ。弁当も作ったし。朝食も出来てるから、ちょっと待っててくれれば父さんのも作るけど」
「そうか、頼む」
「ああ」
急いでキッチンに行き父さんの分の朝食を作る。
この日は久しぶりに父さんも交えての朝食となった。
「お、またうまくなったな」
作った朝食を食べた父さんが言った。
「まあね、いつもやってればね」
「それはすまないと思っている」
「いいよ、父さんも忙しいんだし」
「そう言ってくれると助かる」
「そうですよ、悠は優しいですし」
「余計なことを言うなよ」
三人で食事か、まるで母さんがいるみたいだな。それが莉子なのが納得いかないが。そのことをいう気はない。莉子が調子に乗るからな。
「しかし、こうしてご飯を食べてるとまるで母さんと三人で食べてるみたいだね」
父さんが言ってしまった。
「そ、そうですか?」
「うん、莉子ちゃんがなんか母さんみたいだよ」
「そんな、えへ、えへへへ」
「調子に乗るなよ」
「乗ってないもん」
「それならその顔のにやけをどうにかしてから言うんだな」
莉子が慌てて顔を触る。
「あははは」
それを見て笑う父さん。まったく一人増えただけでこれだけにぎやかになるのか。家族……か。
「さて、じゃあ、僕は行くよ」
「ああ、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃ~い」
父さんと莉子の見送りを受けて学校へ。今日も雨が降っている。
傘を差して道路に出ると電柱のところに佐藤が居た。
「なんにやってるんだ?」
「ベ、別に待ってた訳じゃないんだからね!!」
「あ、いや」
「ちょっと落し物を探してただけよ」
「そ、そう」
なんだ?
「さっさと行くわよ」
「ああ」
一言も話さず歩き出す。雨音が響く。
「なあ、佐藤?」
「なに」
「家族ってさいいよな」
「いきなりなに言ってんの?」
「いやさ、今日父さんが帰ってきたんだ」
「あの出張ばかりの?」
「ああ、まあ、それでさいろいろ実感したんだよ。家族って不思議だなって」
「…………」
佐藤は黙って聞いたのか聞いていないのかわからない。そしていつもの場所で――。
「お~い、悠!!」
「おはよう悠、佐藤さん」
三上と栗原が合流。今日は木山は居ないようだ。
「よう、三上、栗原。そうそう、今日の朝な父さんが帰ってきたんだ」
「お、帰ってきたのか。もう少しかかるって言ってなかったか?」
よくおぼえてたな三上。
「ああ、早く終わったみたいだな。そんなに聞く暇なかったから聞いてないけど」
「シュレディンガーがどっか行った後にはお父さんが帰ってきたんだ。つくづくタイミングがいいよね」
確かにシュレディンガーと父さんが一緒に居るところはほとんど見たことがない。
「偶然だろ」
「まあ、そうだろうね。今頃彼はどこにいるんだろうね」
「さあ、それはわからない」
さあ、いろいろあるだろう。
「ほら、そこのバカトリオさっさと行くわよ」
「はいはい」
そんなわけで教室へ。
「木山秋子入るか?」
「ああ、それならそこに居ますよ」
「そうか」
中宮会長が入ってきた。
「ようやくですね」
木山が行く。
「ああ、遅くなって悪かったな。ほら」
中宮会長が書類を渡す。
「これで新聞部は正式な部活だ。きちんと活動してくれよ」
「はいですよ! 当たり前ですよ!! カルパッチョですよ!!!」
「ふっ、まあ、がんばれ。それじゃあな」
中宮会長は教室を出て行った。
「よかったな木山」
「はいですよ。まったく待ったかいがあったですよ。そうそう、今日お父上が帰ってきたようですが。久しぶりの再会はどうでした?」
「僕は何でお前がそんなことを知っているのかが不思議だ」
「私にわからないことはないんですよ~」
なんだよ。どこかに盗聴器かなんかしかけてないよな。
「そんなことはしないですよ」
「心を読むな」
「いえいえ、わかりやすいだけです」
僕ってそんなにわかりやすいかな。
「座れ~、HRはじめるぞ」
担任が入ってきてHRが始まった。
そしてHRも終わり一時間目の前。
「何か嫌な予感がする」
雨が心なしか強くなってる気がするし。
「何もなければいいけど」
なんだろうかこの胸騒ぎは。
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昼休みになっても胸騒ぎは消えることはなかった。
「アンタどうかしたの?」
「え?」
「アンタずっとおかしな顔してるわよ」
佐藤が言った。
「そうか?」
「そうよ。なにがあったのよさっさと話なさい」
「いや、何か胸騒ぎがするんだ」
「胸騒ぎ?」
「ああ」
「悠がこういうときは大抵あたるんだよね」
栗原が言う。
「こんな感じだったのは確か四年前だよね」
「ああ」
あのときのあの事件か。
「そのときは……まあ、その話はまた今度ってことで」
「だが、何があるんだ?」
「あるとしたら黒江さんかな」
「莉子か」
莉子に何かあるって言うのか。だとしたらなんだ。なにがある。…………いや、考えうる可能性としたら見つかることだが。
「だが、それはないだろう」
「確かにあの、お父さんが言うとは思えないし」
「だが、人間ってのはわからないぜ」
「なに言ってんだ三上」
「何をやるのかわからないのが人間だ」
何格好よさそうな台詞言ってんだよ。
「なんだろうな」
この胸騒ぎは。何も起こらないでくれよ。
雨はさらに強くなり窓に打ちつけ雷がなる。
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放課後。
「僕は悪いけど帰る」
木山が放課後は新聞部の活動だといっていたがなんか胸騒ぎを無視できない。
「わかったです。今日はお休みでいいです。そのかわりこんど埋め合わせはしてくださいよ」
「悪いこの埋め合わせは必ずやる」
廊下を駆け出す。
昇降口にでると校門のところに立ち尽くす人影があった。
「莉子!!」
その人影は莉子だった。傘も差さずいつから立っていたのかずぶ濡れだ。
傘も鞄も放り投げ莉子の元に走る。
「莉子!!」
「あ、悠」
いつもの元気がない。確実に何かあった。
「何があった」
「なにもないよ」
バカ野郎そんな顔で言っても、そんな泣きはらした顔で言ってもまったく説得力がねえよ。
「嘘だ、なにがあった」
「なにもないよ。ただ散歩してたら学校についたから待ってただけ」
「嘘だ」
「嘘じゃないよ」
「嘘だ!!!」
声を上げる。莉子の体がピクッと震える。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!、嘘だ!!! 僕はお前とどれだけ一緒にいたと思ってるんだ! どれだけお前を見てきたと思っているんだ!! どれだけどれだけお前を助けたいと思っていたと思っている!!!」
莉子を引き寄せる。氷のように冷たい、どれだけここにいたと言うんだ。顔にはまったく生気が感じられない。莉子をそっと抱きとめる。
「僕はお前の味方だ。どんなときもどんな状況でもお前の味方だ。何があってもだ。だから話せ」
「で、でも、め、めいわ」
「いいから話せ。幼馴染の話が迷惑なわけないだろうが!!」
有無を言わせぬ口調で言う。
「うん」
ポツリポツリと莉子は話し始めた。ついに莉子の両親に莉子が家にいることがばれてしまったようだ。なんと莉子の父親が家に乗り込んできたらしい。どれだけ探しても見つからないのなら家がかくまっていると思っていたらしい。そして今日ついに見つかってしまった。
「それで、ね……うぐ」
泣きながら莉子は言った。
父親は今すぐもどれと言ったそうだ。そして莉子のことを罵った。それだけならよかっただけど僕のことも罵ったらしい。それにキレた莉子が父親に殴りかかった。それに激怒した莉子の父親はお前など生まれてこなければよかったと言ったらしい。
「それで、それで」
「もういい、わかった。僕のために怒ってくれたんだな。ありがとう。もう、我慢しなくていい。我慢せず思いっきり泣け」
「うう、うわあああああああああああん」
僕の胸で莉子は泣きつかれて眠るまで泣き続けた。痛々しいほどだった。その間も雨は降り続けている。
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僕は莉子を背負って帰っていた。眠っている莉子をそのままにはしておけなかったから。もちろん傘は差している。もう、濡れているので意味はないが莉子をこれ以上濡らしたくはなかった。
「さて、これからどうしようか」
もう既に莉子が戻って解決するとは思えない。父親が出てきたのだ。僕の父さんも反対したはず。なのにこんなことになった。つまりはもう、戻れない。
「僕がなんとかしないとな」
これ以上莉子が悲しんでいるのを見たくはない。莉子だけでなく誰かが悲しんでいる姿を僕は絶対に見たくない。
雨はさらに強くなり、雷が鳴り響いている。まるで世界が泣いているようだ。大声を上げて。大粒の雨を流していた。まるで莉子と同じだ。
「そうだな。やるしかない。どんな手を使ってでも」
それが莉子に出来る僕の精一杯のことだ。
「ああ、まったく手のかかることだ」
だけど、それでもやろう。僕にとってはまったく損にしかならない。だけど、泣いてる女の子をほっとけるほど僕は悪党でもない。
「ああ、やってやる。やってやるよ莉子」
決意を胸に僕は家の前に立った。




