第四十一話 黒江遊ぶ
8月5日、今日は私こと黒江莉子ちゃんが、主役だよー! わーい。っと、きちんとしないと悠に怒られるから、きちんとしないと。でも、昨日から一週間も悠には家に来るなって言われた。うぅ、あの時は仕方なくって思ったし、約束は破るためのものだから、破ればいいやって思ったのに、母さんまで、行くなって。だから、絶賛欲求不満なのです。昨日は疲れてて殆ど何もしてないし。誰かと遊ぼうにも木山さんはなんか用事あるって言ってたし、真希ちゃんはどっか行ってるみたいで連絡つかないし、悠もだけど。会長はなんか忙しいみたいだし。栗原と三上は論外だし。
というわけで、少しでも気を紛らわせようと、私は外に出ました。何がというわけかはわけわかんないけど。悠の家の前で、少しくらいじっとしてたけど、それから、適当にぶらついてます。
「むう~、暇だ~」
どうしよう。外に出たのに、暇だ。どうしよう。本当にどうしよう。誰かに会わないかな? 会いたいな悠とか、悠とか、悠とか。うう、さびしい。泣きそう……。
「にゃー!!」
駄目駄目、そんなことじゃ駄目だ。うん、この一週間で悠もたじたじになるほどの女に成長してやる。そうすれば、大丈夫なはず! う~んでも何をすればいいんだろう? 誰かに聞くにしてもな~。う~ん、あ、そうだ。小雪ちゃんにでも会いに行ってみようかな。最後に会ったのどれくらい前か忘れたし。あ、でも無理か。会えるの今親戚だけだっけ? ん~、振り出しに戻った。どうしよう。
とか、やってたら、三上と栗原にあった。
「げ」
「何なんだよその露骨に嫌そうな顔は」
「まあまあ、三上。彼女なりの愛情表現だよ」
「違うわよ。露骨に嫌なのよ」
何で、休みの日にこいつらと会わないといけないだろ、悠には会えてないのに。むう、悠に会えないからイライラするー!! あー、もう、いやだー!
「今日は一段とイライラしてるね黒江さん。悠に会えないから?」
「そうよ~、悠はどこなのよー!」
こんな可愛い幼馴染を置いて悠はどこに行ったのよー!!
「それは僕も知らないな三上は?」
「俺が知ってるわけないだろ」
「それもそうだね。じゃあ、僕たちは行くよ。黒江さんはどうるす?」
「私はぶらぶらする」
「そっか、じゃあね」
栗原と三上がどこかへ行った。あの二人なんか、あの旅行以来仲がいい気がする。はっ! もしかして、あの二人って、そのあれ? もしかしてアレなの? 確かに、そういう雰囲気はある、気がする。この莉子ちゃんレーダーが反応している……気がする。ちょっと、待てよ~。あの二人だとそうね。三上が受けで、栗原が攻めね多分。
「アハッ、ちょっと興奮してきたかも」
でも、あの二人の絡みなんて想像してもな~。前に悠の部屋に隠してた奴は全部発見されて捨てられちゃったし。う~ん、まだ、新刊は出てないんだよな。本屋に行っても意味ないし。へ? 勉強? どうして夏休みに勉強しなくちゃいけないの? 夏休みは遊ぶためのものでしょ。宿題は前日にやればいいのよ。
適当に歩いていると、いつの間にか公園に来ていた。小さいように見えて結構広い公園。
「あ、ここ昔悠と遊んだところだ」
懐かしい。昔はここに来るといつも悠がいたし、来てくれた。何かあったときはここに逃げ込んでたから、覚えてたのかな? それにても変わっていない。少し、この町を離れてるだけだったけど、一年もこなかったら、かなり変わってて驚いたもん。けど、変わらないものもあるんだね。
「あ、黒江だ!」
「む、誰、私を呼ぶ捨てにするのは!」
「俺だよ俺」
そこにいたのはサッカーボールを持った子供。ん~? こんな知り合いいたっけな。
「はあ、その顔は覚えてないな」
むう、何だその上から目線は。私のが年上だぞ、年上。
「ケンちゃんだよ。ケンちゃん」
ケンちゃん? う~ん、ケンちゃん、ケンちゃん……な~んか、いたようないなかったような~? ん~?
「相変わらずバカだな」
問答無用で殴った。
「いで!!」
「馬鹿って言ったほうがバカなんだよ。バーカ」
「それなら、お前もバカじゃん」
アレ? この感じ、前にもあったような~? そうそう、確かこの公園で、前にもこんなやり取りをしたような気がする。子供と。う~ん? もう少しで思い出せそうだったんだけどな~誰だっけ? もう少し、もう少し。えっとなあ、なんだろうな~、あ。
「思い出した」
「やっとかよ」
「ケンちゃんだケンちゃん」
「だから、そう言っただろうが」
そうそう、ケンちゃんだよ。ケンちゃん。中学に入学したての頃に公園にいたから、遊んであげたんだったね。そうそう、それからよくサッカーとか一緒にやったんだっけ。そうそう、思い出した思い出した。
「おい、お前、適当な説明してんじゃねえぞ。間違ってるからな」
「へ? そうだっけ?」
「そうだ。お前、俺がここでサッカーしてたら、いきなりボール奪って、私の下僕になれって言っただろうが」
あるえ~? そうだったけ? う~ん、私の記憶では、違うんだけどな? うん? 悠に後で聞いてみよう。きっと、私の方が正しいって言ってくれるはず。うん、そうだそうだ。きっとけんちゃんがいじわるしてるんだよ。
「お前、適当なこと思ってるだろ」
「うん? 適当なこと?」
「まあ、いいか。なあ、暇なら、手伝ってくれよ。俺んとこ人数足りないんだよ」
「オーケー、いいよいいよ~」
やったね、暇つぶしの手段が出来た。本気でやるぞー!
というわけで、私はこの日、日が暮れるまでサッカーを楽しんだ。いや~、本気でスポーツするっていいよね。
でも、悠には会えなかった。どこいってるんだろ。どこかに出かけた様子もないし。あ、そうそう、なんと、この私あのシュレディンガーを確保したのだ!! えっへん、偉いでしょ、ほめてほめて~。というわけで、合法的に悠の家にいける理由が出来たのだ! やったね、明日は必ず悠の家に行くぞ!
ちゃんと、シュレディンガーが逃げ出さないようにケージに入れて、捕獲用の麻酔玉も投げ込んだ。逃げられる心配はない。そして、明日着ていく服。これも決まっている。いつもどおりの私が良いって悠は言ってくれるからね。いつもどおりのカジュアルな服。これで悩むことはない! お母さんにお菓子も作ってもらった。うん、おいしい。あ、つまみ食いは駄目だよね。でも、一個くらい。あ、お母さんが隙間から見てる。食べてない、食べてないよ。
準備万端。あ、きちんとアレも用意してないと。アレをすることになったら、必要だしね、アレ。既成事実作るにはいらないけど、私は悠の配慮が出来る良い女なのだ。だから、アレは必須だよね~。
「よし、寝よう!」
目覚ましを5時にセットしてっと。
おやすみ~!
sideシュレディンガー 猫語を日本語に変換してお送りします。
やれやれ、まったく、そろそろ帰るつもりだったのに、黒江の嬢ちゃんに捕まるとは、俺も焼きが回ったかねえ。しかし、俺を見つけた時のあの喜びよう、何かあったのか? まあ、黒江の嬢ちゃんの思考はわかりきっているからな。どうせ、我がご主人のことでも考えていたのだろう。今のニヤニヤしながら寝ている。
ご主人には平穏に暮らしてほしいのだが、まったく、そうも行かないらしいな。父上もまだ帰らぬようだし。うむ、こんなことを考えている場合ではないな。とにかく、このケージとやらからは出れぬし、今は寝るとしよう。まったく、我が家が恋しい。
そうだな、帰ったら学校の方にも行って見るか。あの佐藤って言う嬢ちゃんは俺にパンくれたからな。無事なのを見せにいかねえと。まあ、我がご主人の学友というのだから、心配はしていないだろう。
しかし、ああいう女性がご主人と恋仲になると良いのだが、どうにもご主人はその手の話題に疎い。というか、別のあの高慢ちきのメスのご主人なんぞに現を抜かし負ってからに。いや、これはご主人の勝手だな。しかし、俺は納得できん。まったく。
うむ、寝よう。このままでは眠れなくなる。
おやすみだ。




