第二話 袖振り合うも多少の縁、弁当食い合うも多少の縁?
翌日、5月14日金曜日。天気は晴れ。朝5時だ。
「さて、と弁当を作るかな」
僕は既に起きて朝食と弁当の用意をしていた。シュレディンガーはまだ僕の布団で寝ている。とりあえず猫用のご飯は用意しているので起きてから食べるだろう。そのあとはまたどこかに行くのかもしれない。まあ、いつもいつか帰ってくるのでいいのだが。心配ではある。
「さて、弁当はこれくらいでいいかな」
弁当箱の中に半分くらいご飯をいれてあとはおかず。定番の鶏の唐揚げ、玉子焼き、豚肉のみず菜巻き、ほうれん草のソテーを入れる。
「こんなものかな」
うん、今日もいい感じだな。時間は6時だ。
「さて、いただきます」
弁当のあまり物だが朝食にはちょうどいい。テレビをつける。ちょうど天気予報があった。
『今日は全国的に晴れですが午後から天気が崩れる可能性もあるので折り畳み傘を持つとよいでしょう』
折り畳み傘か確かあったな。大きな事件もなくニュースを見終わり時間は7時ちょっと前。着替えて鞄を持つ。
「さて、行くかな」
『ニャ~』
「行ってくるよシュレディンガーいい子で留守番しいてくれよ」
『ニャッ』
任せろというようにシュレディンガーが一鳴きする。僕は家を出た。その直後どこかへ行くシュレディンガー。まったく留守番する気ゼロであった。
「まったく」
シュレディンガーめ。まったく留守番する気ゼロかよ。
「はあ~」
「なに溜息ついてるのよ」
「え?」
そこにはまったく予想外の人物が立っていた。
「佐藤なんでここにいる」
「別に。ここ通学路だから通るのは当たり前でしょ」
昨日はさっさとどこかに行ったくせになんでここにいるんだよ。
「あっそう」
それきり会話ゼロ。
「お~い、悠!」
「よう、三上」
「おはよう悠」
「栗原もいたか」
「まあね。それより珍しい人と登校してるね」
「知らん。僕的には一緒に登校してる気はないがな」
「それはお前だけだ、他から見ると一緒に登校している風に見えるんだよ英雄」
「英雄言うな三上」
「知らんお前など死んでしまえ」
「何でだよ!」
何でいきなり唐突に三上に死んでしまえといわれないといけないんだ。
「うるさい!! 美少女と一緒に登校というギャルゲでしかありえないようなシュチュエーションを体験しやがってうらやましいんだよこの野郎!!」
「知らねえよ!!」
「どの道この世界はギャルゲかもしれないしね」
「栗原は何を言ってるんだ」
「何もただひとつの可能性の話を」
「いや、そんな可能性は万に一つもない」
「残念だよ」
栗原は何を望んでるんだよ。とまあ、一番わからないのは佐藤が他の人間と登校しているということなのだが。そして高校に着き昇降口を上がるまで前を歩いていた佐藤は無言無表情。何か呟くとかしてもいいと思う。そうだ三上たちにシュレディンガーのこと話しといたほうがいいな。あいつらにも心配かけたし。
「そうそう、昨日さシュレディンガーが帰ってきたんだ」
「本当か!? よかったな」
「そうだね。もう少しで最長記録を更新するところだったんじゃない悠?」
「あああ、あと少しで一ヶ月越えるところだった。まあ、また朝どこかに行ってたんだけどな」
「ははっ、相変わらずだな~」
「まあ、またひょっこり帰ってくるだろ気にすんなよ悠」
「そうだな三上」
話しているうちに僕達の三階の2-2の教室に着いた。そのあとは読書などをしてすごした。なにやら佐藤がずっとこっちを見ていた気がするがそんなことあるわけないから気のせいだろう。
しばらくして予鈴がなり五分後担任が入ってきた。どこにでもいそうなひょろっとした幸の薄そうで気の弱い世界史教師(男)だ。
「え~。HRをはじめます」
『起立ー! 礼、着席』
「はい、それじゃあ読書を始めてください」
この学校は朝の十分間読書を薦めている。国語力がつくとかつかないとかでらしい。僕は別に読書が嫌いではなくどちらかといえば好きなのでいい。そのおかげか国語の点数は勉強しなくてもそれなりに高得点をキープしている。
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十分後。
「やめ。ではHRに入ります。特に連絡はありません。この頃服装違反が目立ってきているので直してください。以上、授業の用意をしておくこと」
『起立、礼』
『ありがとうございました』
今日のHRは別に何もなかったので早く終わった。
「さ~て、一時間目はなんだったかな」
英語。いきなり僕の嫌いな教科だ。そもそも何で日本人が英語を学ばなくちゃいけないんだ。僕は一生鎖国すると誓ったんだ。だが、授業はそんなこと知らずに進む。はあ~嫌だ嫌だ。何せ英語が嫌だからって僕理系を選んだからな。あと、そっちのほうが性にあうからだ。
「はあ~。朝から嫌な気分だ」
そんなわけで担当の教師が来て授業が始まった。
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四時間の授業が終わり学生にとって一番幸せな時間である昼休みがやって来た。
「お~い悠昼飯食おうぜ~」
三上と栗原が机をくっつける。僕はそこに弁当を持っていく。
「さて、悠。お前には特別任務を授ける」
「なんだ三上 いきなり?」
「佐藤を……誘って来い!!! あいつをクラスに溶け込ませるのがお前の使命だ!! これはその第一歩なのだ」
三上が熱く言う。絶対こんなこと考えてないだろこいつ。
「………………本音は?」
「美少女と一緒に弁当食いたいんじゃボケー!!!!」
やっぱりか。
「三上は欲望に忠実なんだよ。でも、いい機会だからね誘ってきなよ」
完全に押し付けられた気がする。
「ほら行け、さっさと行け、すぐに行け!! 美少女連れて来い!!」
押す三上。
「わかったわかった、行けばいいんだろ行けば」
はあ~。諦めて一人教室の端で弁当を広げる佐藤の所に行く。
「な、なあ、佐藤俺たちと弁当食わないか?」
三上たちを指しながら言った。
「……」
佐藤が三上たちを一瞥して言った。
「いや」
「……そうか」
僕が戻ろうとすると。
「アンタとなら別にいいわよ」
佐藤がそういった。
「…………」
これは喜ぶべきなのだろうか。どうやらなぜだか知らないが僕は佐藤に気に入られたらしい。そんなわけで三上と緊急アイコンタクト会議。
「(……というわけなんだが)」
「(何ー!? うらやましいんだよこの野郎!!)」
「(どうすればいいと思う?)」
「(勝手にしやがれこの裏切り者!!)」
アイコンタクト会議終了。一方的になじられた。仕方ないいまさら戻るに戻れないので佐藤の前に机を隔てて座る。
「…………」
「………………」
沈黙。正直言ってこういうことは初めてだ。何をしゃべっていいのかわからん。佐藤が何を考えているのかすらわからない。ひとまず佐藤を観察する。黙々と弁当を食べている。可愛らしい女の子らしい弁当だ。おそらく手作りと思われる。……よしこれだ!! これでこの沈黙からも脱出できるかもしれない。
「その弁当お前の手作りか?」
「違うわよ」
「……では誰の?」
「近所のおばさん。なんか渡してきたのよね」
「……へ、へえ~」
「で、それがなに?」
「い、いや、うまそうだなって」
「そう、あげないわよ」
「いやわかってるよ」
「そう」
「……」
「…………」
再び沈黙。まさか、近所のおばさんの手作りだとは思わなかった。てか、誰も思わないよ。なんで近所のおばさんが佐藤のために弁当作ってんだよ。わけわからん。……なにか事情があるのかもしれないが僕にはこの空気を何とかして欲しかった。頼む誰でもいい変えてくれ。この流れを。それは唐突に訪れた。
「ねえ」
「な、何?」
佐藤の方から話しかけてきた。
「それアンタが作ったの?」
「へ?」
「それよそれ」
佐藤が指差してるのは僕の弁当。
「あ、ああ。そうだよ」
「おいしそうね」
「……食べてみるか?」
「あなたがどうしてもっているならもらってあげないこともないわ」
「…………はい」
玉子焼きを渡してみる。
「へ~」
なにやら感心してみている。
パクッ
「…………」
「どうだ?」
「………………おいしいわね」
「そうか。それはよかった」
「………………」
「お~い、何黙ってんだ?」
「…………」
また沈黙。この沈黙は昼休みが終わるまで続いた。一体何を思っていたのだろうか。
「さてと、五時間目ってなんだっけ? ああ、化学ね」
化学は得意教科だ。面白いよねアレ。担当教師が入ってきて授業が始まる。
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そして授業も全て終わり至福の放課後だ。
「さて、帰るか」
明日は土曜日ゆっくり休めるな。
「じゃあな、三上、栗原」
「ああ、またな」
「またね」
三上と栗原に言ってから教室を出る。ふと廊下の窓から校庭を見ると学校の塀の上を歩く黒猫が見えた。
「シュレディンガー?」
赤い首輪をしている。間違いないシュレディンガーだ。こんなとこにきて何をしてるんだ? とりあえず追い返される前に確保しないと。昇降口に急いで行き靴を履き変えてシュレディンガーを見た場所に走る。
「えっと確かこの辺だったはずだが」
校庭端の誰も来ない場所だ。
「いたいた」
シュレディンガーを発見した。だが他にも客がいるようだった。
「何やってるんだ佐藤?」
「ああ、アンタ。何しにきたの」
パンをあげようとしている佐藤がいた。
「うちの猫を確保しに来たんだ」
「この黒猫アンタん家の?」
「そうだ、名前はシュレディンガー」
「…………アンタ、もしかして動物虐待とかしてないわよね」
「してねえよ!!」
なんだその疑うような目は。いや、まあ、この名前なら疑われても仕方ないか。
「じゃあ何でこんな名前付けてるの」
「いや、母さんが猫ならシュレディンガーがいいって言ってさ」
「変なお母さんね」
「そうらしいな」
「?」
「いや、何でもない。それより猫好きなのか?」
「別に」
その割にはシュレディンガーがなついてるんだよな。アイツ猫が嫌いな奴にはとことん懐かないからな。それに佐藤、シュレディンガーを物凄く抱きたい顔してる。
「そうか好きなのか」
「アンタちゃんと聞いてたの?」
「ちゃんと聞いてたけど」
「ならなんで私が猫好きに見えるのよ」
「いや、そんな顔してたらさ」
「どんな顔よ」
だからそんな顔だって。
「帰る」
パンを仕舞い立ち上がる佐藤。怒ったか?
「パンやらないのか?」
「やらない」
あらら。あ~あ、シュレディンガーが「ちょくれないんですかちょっ!」って顔してるよ。かわいそうに、まあ、これで家に帰って来る気になったのならそれでいいんだがな。さてと俺も帰るか。シュレディンガーが悲惨な顔になっているが気にせず佐藤のあとに帰ることとする。
「ついて来ないでよ」
「いやだから僕の家もこっちだし」
「…………」
さっきからかったからか物凄い不機嫌オーラを感じる。これは下手に刺激しないほうがいいな。ってシュレディンガーついてきてるし。佐藤の後ろを歩いている。いつの間に。まさかさっきのパンまだ諦めてなかったのかよ。
そのあとも会話などなく。僕は佐藤の不機嫌オーラを受けながら帰宅したのだった。
「無駄に疲れた~」
帰ってすぐベッドに倒れこむ。あの不機嫌オーラに耐えた僕をほめてもらいたい。
「っと着替えないと」
制服から私服に着替える。
「さて、夕食の準備でもするかな」
キッチンに行き冷蔵庫をあける。金曜日なのでそれほど入っていない。うちはいつも土曜の安い日に買う。ちょうど明日が安い日だ。
「明日買えるだけ買っておこう。安いし。確か広告があったはず」
明日買うものを書き出しておいておき。残っている材料で夕食を作り食べた。シュレディンガーはご飯を食べたあとソファーで丸くなって寝ている。
「ふう」
ようやく一週間が終わった。最後の二日はいつもと違い長く感じなかった。
「ああ、そうか」
佐藤に話しかけたからか。いつもと違うことしたからなんだな。
「そうか、こんなことで日常って変わるんだな」
『ニャ~』
それを肯定するようにシュレディンガーが鳴いた。
「おきてたのかよ」
『ニャア~』
「いや寝言か?」
まったく。




