7:アルマの固有
ペットに話しかけるって人っているよね?
俺もそのつもりだったんだよ。これから一緒に旅をするわけだし、馬車を引っ張ってもらうわけだし、そのつもりで言葉をかけたんだよ。
そしたらまぁ予想外に返事がきまして。
《グランドマスターであるミオ様より心核を頂きました》
何故クロエが喋れるのか。
クロエが言うにはそういう事らしい。
知らない単語なんだけど、シンカクって何?
《心核とは心の核と言って、生物で言うところの心や自我に相当するパーツとなります。その心核にどの様な心を宿すのか、それをイメージしながら魔力で心を形成していくのです。そうして出来上がった心核をゴーレムに取り付ければ、私のような存在が出来上がる。という訳です。ミオ様はアニメのキャラクターをベースに形成されたみたいですね》
ちょっと待った。
心核の事はわかった。
わかったけど、説明の最後にこの世界じゃ聞かない言葉が混ざってなかったか?
最後なんて言った?
「……アニメ?」
《ハイ》
「えっと、クロエは地球を知ってるの?」
《ハイ》
「何故?」
《心核形成時にミオ様ご自身の知識も一緒に形成されましたので》
「そんな事出来るの?」
《ハイ。心核形成時のゴーレムの知識は魔力の主に準拠されますから。ミオ様は異世界である地球の出身者と言うことで私にも地球の知識が有る。という事です》
……成程。
祖父ちゃんの知識がベースになってるから地球の事も知ってるって訳ね。
そして、心核。
クロエの説明を聞くにこれ、ひょっとして凄く希少アイテムなんじゃないの?
ゴーレムに意思を持たせるアイテムなんて聞いたことないし、そうじゃなければもっと流通してるハズだよな。
目立つかしら?あ、それこそスキルですって言っとけばいいか。などと考えていたら馬車の中からアルマがひょこっと顔を出して来た。
丁度呼ぼうと思ってたところだったのでナイスタイミングだ。
「カナ?何かあった?誰かと喋ってるみたいだったけど」
「うん、ちょっとね。クロエと喋ってた」
「あぁ、クロエと……クロエと!?」
「お、おう。何でもしんか」
「どういうことなの!?」
もう、想像以上の喰い付きっぷりだわ。
アルマはそのまま御者台の方に出てきて俺の隣に座る。
「どういうことなの!?」
大事な事だから二回言いますよってヤツか?
説明するからまず落ち着きなさいな。
「えっと、俺も今知ったんだけど、クロエに意思と心を持たせる心核ってパーツが組み込まれてるらしくて、それで会話が可能なんだって」
「ほ、ほんとに?」
アルマの疑問も当然よね。何せアルマの固有じゃ会話できなかったんだから。
「ほんとに。挨拶してみたら?」
俺がそういうとアルマは少しばかり考えを巡らせた後、意を決したかのように口を開いた。
「こ、こんにちわ」
《はい。こんにちはアルマ様》
「!?」
《ご存知かとは思いますが、この度お二方に同行させていただきます。クロエと申します。よろしくお願いいたします》
「よ、よろしくお願いします」
「な?」
「うん……。でも、なんで?」
さっきの説明だけじゃ不十分だよな。
なのでクロエに説明してもらった事をそのままアルマにも伝える。
「そんな事が」
「そうなんだよ。俺も知らなった」
《グランドマスターから街を出るまで会話は禁止と言われておりましたので。申し訳ございません》
申し訳ございません。か。
最初の装甲馬車が出来てから手直しが終わる一週間の間、アルマが毎日工房に顔を出していた理由を知ってるからかね。
でもそれ杞憂だと思うよ。
「え?どうして謝るの?」
アルマも何故クロエが謝るのかわからないといった様子だ。
《その、アルマ様の固有の事で、落胆させてしまったのではと》
やっぱりソレを気にしてたのか。
アルマが毎日工房に顔を出してた理由ってさ、実はクロエがいたからなんだよね。
アルマって昔から動物が好きでさ、ゴーレムだけど見た目ユニコーンなクロエが琴線に触れたんだろう。
で、そんな動物好きが基になったアルマの固有スキルが【同調会話】っていって、言葉を交わせない存在と意識での会話が可能っていうテレパシーのような効果なんだよ。個体によって精度の差はあるみたいだけど。
動物好きがそんなスキルを持ってたらそりゃ当然クロエに対して使用してみるよね?
でも何の反応も無かったんだよ。
精度の差があるっていっても全く無反応だったのは初めてだったみたいでちょっと落ち込んでたんだよね。
クロエはそれを気にしてるんだろう。
でも当事者であるアルマは。
「あ。その事?全然気にしていないよ」
《え?》
「だって、それはクロエが喋れるからって事だよね?」
言葉を交わせる存在にスキルの効果は適用されない。つまりはそういう事になる。
「つまり、同調会話が無くても普通に会話が出来るって事でしょ?だとしたらこんなに嬉しい事は無いよ」
アルマにしてみたらスキルの効果が無かった事より、スキルを使わなくても会話が出来るって気持ちの方が強いんだよな。
こんな感じでご満悦だ。
「ま、アルマってこういう子なのよ。だからクロエもそんな気にする必要ないからね」
《マスターはアルマ様の事をよくご存じなのですね》
クロエは関心したような声で俺に尋ねてくる。或いは独り言だったのかもしれないけど。
「幼馴染ですから」
幼馴染という単語に反応したのかアルマが何かを期待するような眼差しでこちらを見てきた。
ガッツポーズはしませんよ?
「クロエもこれから知っていけばいいよ。何せお互い喋れるんだし」
《そう……ですね。マスターの仰る通りです》
緊張が解けたのだろう。クロエの雰囲気に穏やかさが戻っている。
ていうかそんな微妙な変化さえも齎す心核さん凄まじいな。
「じゃあクロエ。これから私の事はアルマって呼んで。様付けはちょっと恥ずかしいし、仲良くなりたいから」
アハハと苦笑しながらもクロエにそう呼んでほしいと頼むアルマ。
《よろしいのでしょうか? マスターとアルマ様はご主人様ですから、そう呼ぶようにとグランドマスターから言われているのですが》
「よろしいのですよ。本人がそう望んでるんだし」
《畏まりました。――アルマ。よろしくお願いしますね》
「うん。バッチリだよ。よろしくね」
「俺の事は呼びたいように呼んでもらっていいから」
俺がそう言うとクロエは少し考えた後。
《では、アルマから取った『様』をマスターにお付けして、マスター様と呼ぶのはどうでしょうかマスター様?》
ごめん、俺の言い方が悪かったね。




