6:旅立ちの日に
翌日。
俺たちは手直しも終え必要な荷物を積み込んだ馬車と供に街の出入り口まで来ていた。
出入り口付近にいるのは、俺とアルマ、アルマの両親であるハインズさんとリーラさん、俺の両親と祖父母、そして門番のおっちゃんだ。
「カナメ君、娘の事、よろしく頼むよ」
ハインズさんにそう声を掛けられる。
ハインズさん自身が元冒険者とは言え……いや?だからか?一人娘が冒険に出ることに寛容的ではあったが、やはり心配なのだろう。
「お土産は孫の顔で良いからね!」
違った。
これ俺の知ってるよろしく頼むと違う。
いや、知ってるけど、知ってるけど違う。
「えっと、ノーコメントで」
「成程成程、ここで敢えてそんな気はないぜという素振りを見せておきながらもその実悪い気はしてなくて此処に帰ってくる際には孫の顔を見せてくれるというわけだね。わかるとも」
そんな妄言をしたり顔でぶちまけるハインズさん。
なんだそのサプライズ。
ただ、悪い気はしていないっていう部分がちょっと当たってんだよな。
そりゃ俺も男だし、アルマからの好意は嬉しいよ。嬉しいけどさ、嬉しいんだけどもさ、嬉しいからこそさ、もうちょっと全体的なアピールを抑えて欲しいんですよね。
家族でグイグイ来るから。
今リーラさんとアルマの会話がちらっと聞こえたけど、こっち見ながら「旅の間に仕留めるのよ」とか言ってるし。
仕留めるっておかしくないか?人に対して使う表現じゃないぞ。
ん?ちょっと待って?これ、もしかしてアルマを冒険に出す事に寛容的だったのってこれが理由??
まさかとは思いながらも、ふとそんな考えに行き着いた俺は改めてハインズさんの顔を見てみる。
するとハインズさんは一瞬首を傾げたかと思うと、すぐに「わかってますよ」とでも言いたげなしたり顔に戻った。
あ、これ何も考えてないな。俺の勘違いだわ。
まぁ、流石にそれは考えすぎか。アルマが最初に言い出したのは十年以上は前だし。
ダメだったら当時反対されてるハズだよな。
「カナメ、ハインズの発言は本気にしなくていいぞ」
俺が勝手に考え込んで勝手に納得していると、お土産は孫の顔発言に悩んでいたと思われたのか、父さんが俺の肩をポンポンしながらそう言ってくれた。
ありがとう父さん。悩んでいたのはそれとはちょっと違った事だったんだけど。
「ハインズよぉ、冒険に出る前の子供に何て話をしてんだおめぇはよ」
溜息を吐きながら呆れた様子で発言をしたのはこの街の衛兵をしてるおっちゃんだ。
名前をエルドさんと言い、ハインズさんの元冒険者仲間だ。
エルドさんはとにかく魔物に対しての知識が豊富で、一度相対した魔物の特徴、耐性、弱点、習性なんかが全部頭に入っているとか。
それもそのハズで、エルドさんの固有は支援発動型の【看破:対魔物】と言って、効果はズバリ認識している魔物の情報を知ることが出来る。というものだ。
このスキルのお蔭で初見の魔物であっても冷静な判断が出来て、結果パーティーの生存力を高めていたらしい。勿論コピーさせてもらいました。
で、そのスキルの知識を基に、冒険者を引退してからはこの街で衛兵をしつつ新人冒険者の育成をしてるって訳だ。
「もうちっと何かあんだろうが」
「一応娘の将来の心配をした発言だが?父親としては当然だろう?」
「物は言い様だな。ったく」
全く持って同意ですエルドさん。
「おぅ、カナ坊。おめぇに限って心配はねぇだろうがよ、お節介なオヤジからの助言だと思って聞いてくれ」
エルドさんは処置無しとばかりにハインズさんを見やった後、俺の方を向いてそう言った。
「新人冒険者の教育をしてる人の助言ですよ?お節介だなんて思いませんって」
これは社交辞令とかじゃなくて本心でそう思ってる。
エルドさんの教えのお蔭で助かったぜ!みたいな話はよく聞いてたしね。
そう伝えるとエルドさんは少し気恥ずかしそうに話を続けた。
「新人には口うるさく何度も言ってる事なんだがな。まず、スキルの力を過信し過ぎるなよ? 特に固有はな。お前さんのスキルもそうだが固有には強力な効果が多い分、油断や慢心が産まれる。固定されたばかりなら尚更だ」
十五歳から登録出来る冒険者が十八歳になったとたんに死亡率が跳ね上がる理由がソレだ。
固有の力を過信してダンジョンの深層に潜り、そのまま死亡してしまう。
勿論何処のギルドでもエルドさんの様な人がしっかりと忠告してくれるハズなんだけど、それでもやはり忠告を守らない人が多いって事なんだろう。
「んで、ダンジョン攻略でまだ行けると思ったら、絶対に無理はせずに引き返せ。そう思うって事は何かが心許無くなっている証拠だからよ。そんな状態で進んでも碌な事になりゃしねぇ。ダンジョン以外でも深追いは禁物だ」
これも慢心や油断に繋がる事なんだけど、ダンジョン内ではこちらの想定を上回る事が起きても不思議ではないから、無理に進まずいくらかの余裕を持った状態で引き返す事が理想との事だ。
「小心者だ何だのと言われるかも知れねぇけどよ、死んじまったらそこで終いだからな」
そりゃそうだ。珍しい素材を入手出来ても、そこで死んでしまったら何の意味も無いもんな。
「ま、油断はすんな。命は大事にって事だ」
命は大事に。これ重要。
「ありがとうございます。俺はまだ死にたくないですからね、しっかり守りますよ」
「おう。そうしてくれや」
エルドさんの忠告を一緒になって聞いていたハインズさんが、エルドさんに話しかける。
「エルドは真面目だねぇ」
「おめぇがふざけてるだけだろうがよ」
「子供の周りが真面目な大人だけなんてつまんないだろう?真面目役は他の人に任せる」
「相変わらずよく回る口してやがるな」
「羨ましいかい?」
「全く思わねぇよ」
「君も少しくらいは冗談を覚えた方が良いと思うけどね」
「おめぇは少しくらい新人の為に成る事をしやがれ」
この二人、ほんと絶妙なバランスで成り立ってるよなぁ。
エルドさんの方もあぁは言ってるけど、本気で言ってるならハインズさんと今まで関係を続けてはこれなかっただろうし。
ハインズさんの方は、あの人はまぁ誰に対してもあんな感じか。祖父ちゃんがいつか言っていた憎めないキャラというヤツだ。
「さて、孫ちゃん。エルド君からありがたいお言葉を頂戴したこのタイミングでのワシだよ!」
「そんなに自己主張しなくてもいいから……」
「念の為に予備の車輪と車軸、それとクロエの替えのパーツも積み込んどいたから。何かあったらそれを使ってちょ」
「うん。ありがとう。助かるよ」
クロエとは、ミスリルゴーレムユニコーンの名前だ。
見た目は完全にユニコーンだし、折角だから名前を付けてあげた。それで一週間も一緒にいるんだから愛着沸くってもんでしょ?
名前の由来は、若々しく美しいという意味から。
ミスリルの輝きはとても綺麗だし、創造されたてで年も若い。何せ生後一週間とちょっとだ。ピッタリだと自負している。異論は認めない。
よし、じゃあそろそろ行くか。
「じゃあ、行ってくるよ。――アルマ」
「うん。じゃあお母さん、お父さん、行ってきます」
「「いってらっしゃいアルマ」」
両親に挨拶を済ませたアルマは馬車へと乗り込む。
俺も家族に挨拶を済ませて同じく馬車へと乗り込む。
馬車を引く馬がゴーレムだから御者は必要って訳ではないんだけど、一応馬車内部から行き来出来る御者台の様な場所があるのでそこに移動する。
特に命令を出したわけではないがクロエが動き始めそれにつられて馬車もゆっくりと動き出す。
街の出入り口である門を超え、手を振ってくれている家族を背に馬車は進む。
そうしてある程度進んだところで俺はクロエに語り掛けた。
「これからよろしく頼むな」
《畏まりました。マスター》
とても穏やかな女性の声でそう返事をしてくれたクロエ。
……なぁクロエ。
お前喋れたんだな。




