40:イノセント
「ほぉ。また随分と珍しいのが召喚されたもんだねぇ」
「これ、イノセントグリフォンだよな?」
「……間違いないですね」
ゴッチさんが確かめるように召喚獣の名を口にすると、ウノさんは珍しいものを見たといった様子でそれを肯定した。
そんな驚いている二人とは裏腹にアルマとミーナはその小ささに惹かれたのか、しきりに「可愛い」「可愛いのです」と連呼していて、アンジュさんはそんな自分の妹とアルマを微笑ましそうに見つめている。
アルマ達程じゃないけど、確かにこの小ささは保護欲を刺激する可愛らしさなのは間違いない。
手乗りサイズ。って言うのは流石に言い過ぎだとしても、両手で抱えるのには問題無いサイズ感。一般的な猫くらいだな。
「……ん? おぉ、そうかい。ちょっと待ってな」
ヒルデさんは急に独り言を言ったかと思ったら突然家の中に戻って行ってしまった。
「もしかして」
「そうだろうな」
俺の言わんとしている事を理解したゴッチさんが頷いて同意をしてくれる。
それは契約する条件を満たす何かを取りに行ったって事。
周りに居る俺達に何も聞こえなかったって事はヒルデさんの頭の中になんとなく情報が流れたんだろう。
「皆さんの反応から結構高位な召喚獣だと思ったんですけど。戦闘じゃ無かったんですね」
「確かに珍しくはあるが……高位かと言われるとそういう訳でもないな」
当のイノセントグリフォンは待っている間どうするんだろうと思えば、まだ契約もしていないのに、アルマ達と一緒に随分とご機嫌に走り回っている。
うん。確かに高位召喚獣って感じはしないわ。
「待たせたねぇ」
そうこうしている内にミカンを手にしたヒルデさんが戻ってくる。
「ミカン?」
「ミカンだな」
「ミカンですね」
「ミカンなのです」
「ミカンかぁ」
アルマ、ゴッチさん、ウノさん、ミーナ、アンジュさんがそれぞれ思い思いにミカンの名前を口に出す。
どう見たって只のミカン。真実の眼もそうだと言っているし、もうホントにただのミカン。
「ほらよ」
イノセントグリフォンは差し出されたミカンを前の両足で受け取ると、小さくとも立派な翼をはためかせ浮き上がり、そのまま器用に皮を向いて食べ始めた。
白い筋は取る派らしい。
ほんと器用だな。
そしてそのままミカンを食べ終えると「くぁ」と一鳴きして、ヒルデさんの頭の上でくぅくぅと寝始めてしまった。
「きちんと契約できたみたいだねぇ」
「あー、やっぱりそれが条件だったんですか」
「簡単で助かったよ。もし契約できなかったら恰好が付かないからねぇ」
ヒルデさんは頭の上のイノセントグリフォンを撫でながらカラカラと笑った。
「これが召喚スキルだ。契約内容については個体によってバラつきがあるがねぇ。ここまでで何か質問はあるかい?」
「はい!」
「はいお嬢ちゃん!」
「その子って珍しい召喚獣なんですか?」
ビシッと手を挙げそのまま首を傾げて質問をするアルマ。
「珍しいよ。この種族は臆病でねぇ、契約の場にも中々現れてくれないんだ。もしかしたらお嬢ちゃん達に引っ張られてきたのかもねぇ」
「それはどういう意味ですか?」
しかし続くアルマの質問を掌で制するヒルデさん。
「これから先は長くなりそうだし、とりあえず場所を移して座学といこうかねぇ」
座学の時間と言うのでまたも室内に場所を移動。
その段階でゴッチさんとウノさんは各々家に帰っていった。
元々何が召喚されるのか気になっていたので、イノセントグリフォンが召喚されるところを見れて満足だった様だ。
それと、「座学にまで付き合うと夜が明けてしまう」だってさ。
アンジュさんはウノさんに付いて出かけていき、座学の授業に参加しているのは俺とアルマとミーナ。それとちょっと無理をしてクロエだ。
「さて、それじゃ始めるよ」
それまでヒルデさんの頭にいたイノセントグリフォンは柔らかい布が敷かれた籠の中でスヤスヤと寝息をたてている。
かわいい。
「まずはさっきの質問からだねぇ」
「私達の存在に引っ張られてきたってやつですね」
「そうさ。召喚獣ってのはこっち側が見えていると言われていてねぇ。で、イノセントグリフォンは純粋な存在を好む召喚獣。だからお嬢ちゃん達の存在が気になって出てきたのかもって訳さ」
それが本当だとすれば確かに分かるかも。
純粋って意味をどう捉えるかだけど、召喚スキルと召喚獣にかけるアルマの想いが純粋ってのは間違いないハズ。
で、その点で言えばきっと俺は駄目な方。
ヒルデさんは「お嬢ちゃん達」って言ってくれてるけど、俺は自分の事を純粋とは思えない。
いや不純でも無いと思うけど、召喚に対して真摯で無いのは確か。
だって見たらコピーしてそれで終わりとか、教えも何もあったもんじゃないし。
「こっち側というのは何ですか?」
「ワシ達の住む人間界の事だよ。勿論、地上世界、天上世界、海底世界もひっくるめた全てだねぇ。で、召喚獣はその何処でもない異界から来ていると言われているんだよ」
次いでのアルマの質問では、ちょっと馴染み深いというか、縁のある言葉が出てきた。
異界。
俺の祖父ちゃんはその異界から来た人間だし、創造:異の持ち主は祖父ちゃんだ。
当然異界の物だって創造されてるし、そんな中育った俺が創造出来る物にも異界の物は多い。
「そう言えば昔、異界から人間が召喚されたって話があったねぇ」
「……人間を召喚する事って可能なんですか?」
ちょっと気になったので質問。
「実際召喚されているから可能なんだろうさ。ま、後にも先にもその一回だけだから、王家が特別な何かをしたってのがワシらの通説だねぇ」
実はその辺の話知ってたりする。
聞いたのは随分前だけど……確か、祖父ちゃんを召喚したのはこの世界の神で、一旦神界ってところに召喚された後に、王宮へと転移させられたとか。
で、その時に王様に対して「その男をよろしく」みたいな感じで祖父ちゃんの事を伝えたらしい。
神様にそんな事言われたら、そりゃあ王様だって信じるよねって話で……祖父ちゃんが異世界人だって知れ渡ってる。っていうのも王様自らが嘘を見破る魔導具の前で王都中に宣言したから。
わざわざ宣言した理由は、この男には国という後ろ盾があるんだぞ。と、アピールする事で祖父ちゃんの安全を確保する為って聞いてたけど……祖父ちゃんは当時「余計なお世話」って思ってたらしい。
まぁ、今の今まで面倒事に巻き込まれていない上に、馬車まで売り付ける様な関係になってるんだから結果としては悪くはなかったんだろうな。
とにかく、異世界人が召喚されたって話が王都から国中へ広がり、世代を超えて今でも伝わってるって訳だ。
「他に質問が内容だったら先に進めるけどいいかい?」
「あ、もう一ついいですか?」
もう一個遺跡にいた時から気になってた事があった。
「ミーナの事なんですけど」
「私の事なのです?」
自分の名前が出るとは思っていなかったミーナはまさかの質問にきょとん顔だ。
「流石にプライベートな事は答えられないよ」
おっと、ちょっと勘違いされてる気もする。
いや違うから、アルマもこっちを見るんじゃないよ。違うから。
「えっと、ミーナ、というか新人召喚士の事です」
ミーナは固有スキルの節約上手を覚えていた。それはつまり十八歳以上って事。俺達みたいに何か別の手段で覚えていたら別だけど、真実の眼でも年齢の確認は出来る。きちんと十八歳だった。
それに召喚スキルを覚えているのは本人も言っていたし、そっちも確認済みだ。
いつ召喚スキルを覚えたのかまでは聞いていないけど、小さい頃からお祖母ちゃんに師事していて、覚えたのが遺跡に行く数日前とは考えにくい。
だったら何故あのタイミングでツアーを組む必要があったのか。
「ミーナって多分俺達と同い年くらいですよね?」
年齢の話はしていないのでその辺はぼかして訊く。
「あぁ。そういう事かい。単純な話さ。トルネの街の召喚士は固有スキルを覚える十八歳になった年にあの遺跡に行く事になってるんだ。それで始めて新人召喚士扱いされるって訳だねぇ」
あぁ……この街特有の成人の儀式みたいなもんか。
ヒルデさんも単純な話って言ってるし、
「ミーナは一ヶ月前に十八歳になったのです! これで召喚士を名乗れるのですよ!」
ミーナは誇らしげに無い胸を張った。
折角だから拍手をしてあげよう。
「えへへ、ありがとうなのです」
どういたしまして。




