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異なるスキルの使い方  作者: 黒服
39/47

39:召喚獣

 そういうものだと言われてしまえばしょうがない。

 それに五十年前、今の街長がタイラントベヒーモスっていう明らかにヤバい奴を召喚した時も街長をボコボコにしただけで戻って行ったそうだ。

 

 まぁ、じゃあ、安心なんだろう。

 ベタンさんもそう言ってるし、当時の街長もそんな事してるし。


 因みに当時の街長はタイラントベヒーモスと契約こそ敵わなかったけど、そこまでの魔力媒体で召喚出来たって事で箔がついて街長の地位になったんだってさ。


 へぇ。


「まぁそうらしいです」

「アンタそんなえげつない物持ってたのね」


 ところ変わって今はアンジュさん、とミーナの家。

 実は姉妹だったこの二人。お祖母さんがお師匠さんということで召喚スキルについて教えてもらおうと訪れている。

 とても似ていないと思うのは失礼だろうか?


「でも個人的にすごく興味あります」

「すっごい綺麗なのです」


 テーブルの上に取り出した宝千種を興味深そうに眺めているウノさんとミーナ。

 どんな召喚獣が呼び出されるのかかなり気になっている様子だ。

 

「そういえばエリックさんは居ないんですか?」


 ゴッチさんと一緒に来たからゴッチさんはいるんだけどエリックさんの姿が見えない。


「別にパーティを組んでいる訳でも無いし、四六時中一緒には居ないわよ」

「でもエリックさんのお家はここのお隣さんなのです」

「アンタ達と同じ幼馴染ってやつね」


 俺とアルマは幼馴染だ。

 家こそお隣って訳じゃないけど物心付いた時から行動を一緒にする事が多かった。

 アンジュさんとエリックさんも同じ様なもので、小さい頃から一緒に悪戯をしては両親にしょっちゅう怒られて、それに懲りずにまた悪戯をして怒られる。


 小さい頃はどこも同じようなものだけど、俺とアルマはそこから冒険者としても一緒に行動をしていて、アンジュさん達は別にそういう訳ではない。

 昨日一緒だったのは自警団としての仕事だった為だ。


「だから仕事でも同じ組み分けにされちゃって嫌なのよね、そりゃ気を遣わなくていいのは楽だけどそれ以上に鬱陶しいって言うか……大体アイツは――」


 俺とアルマは互いに顔を見合わせた。

 俺はアルマとずっと一緒に居るのが当たり前だと思っているし、アルマも同じ気持ちだと思う。

 だから一緒に居て嫌だと思った事は一度も無い。

 いや、もしかしたら小さい頃は思春期からそう思ってた時期もあったかもしれないけど今はそんなこと無い。

 それにアンジュさんはそんな事言ってるけど多分あれは照れ隠しの一種だ。俺にはわかる。


 何故ならばエリックさんの事を喋っているアンジュさんは嬉しそうだし、ゴッチさんとウノさんがとても優しい眼差しをしているから。

 多分自警団の人達も気付いてる。その上で同じ組み分けというアシストをしている違いない。


「……ま、まぁアイツの事なんて今はどうでもいいわ。それよりも召喚スキルの事よね!」


 周りのニヤニヤした空気に気付いたのかふいっと顔を背けながら話題を変えるアンジュさん。


「ごちそうさまです」

「どういう意味よっ!?」






 愚痴(という名の惚気話)を聞いた後、アンジュさんに家の裏庭へと案内してもらう。

 昨日の内にお祖母さんに俺達の事を話してくれていて、ミーナの報告のついでに召喚を見せてくれるとの事だ。


 頼んだのはこっちだし教えてもらう立場なんだけど、そんな簡単に他人に教えてもいいものなんだろうか。まぁどうであれ俺はコピーしてしまうんだけど。

 そう思ってアンジュさんに訊ねてみたら「別に隠す様な事じゃ無いし」と言われてしまった。


 むしろこの街の誇りだから、〝召喚スキルを教える〟という事が街人にとっても嬉しい事だと教えてもらった。

 実におおらか。

 それで覚えられるかどうかはまた別の話だけど。アルマなら多分大丈夫だと思う。


 一旦表へ出てクロエと合流、家の周りを回って裏庭へと出る。

 するとそこには真っ黒いローブに身をつつみ、角の生えた頭蓋骨があしらわれた杖を持っている身長二メートル程の女性が待っていた。


 え?


「アンタ達かい? ワシに召喚スキルを教わりたいって冒険者は?」


 今にも杖で殴りかかってきそうな迫力を持つその女性は俺とアルマにその鋭い眼光を向るととんでもない事を口にした。

 俺達はこの後アンジュさん達のお祖母さんに召喚スキルを教えてもらう事になっている。

 そして目の前のこの人物は「ワシに召喚スキルを教わりたい」と言った。


 それはつまり……。


「アンジュさんの……お祖母さんですか?」

「ああ。そうさ。で、アンタ達かい?」

「あ、ハイ」


 やはりこの人はお祖母さんだった様だ。

 

 そしてお祖母さんはこちらに向かって……あの……杖の頭蓋骨の部分を手のひらでパシンパシンしながらこっち来るのやめてもらっていいですか。

 そしてそのまま無言で周りをグルグルするのも勘弁して下さい。

 思わず異世界憧憬を全力で使用してしまったのに圧が凄いんですけど。


 おかしい。召喚スキルを教える事は街人からしても嬉しい事だって聞いてたのに……これ客観的に見ても主観的に見ても因縁つけられてるようにしか見えない。


 その圧に耐える事数十秒。

 俺達の様子を見終わったのか、お祖母さんが、その大きな体に合わせて作られたであろうこれまた大きな椅子に腰かけると、それまで纏わりついていた圧が嘘の様に散っていった。


 そして。


「うむうむ。数ある召喚士の中でもワシの下に来てくれた事を感謝だねぇ!」


 とっても素敵な笑顔で感謝されました。


「……えっと、アンジュさん?」


 きょろきょろと困った様子でアンジュさんに説明を求めるアルマ。

 俺も同じ気持ちなので視線で訴える。


「あはははは。ごめんなさいね。お祖母ちゃんっていつもこうなのよ」

「お祖母ちゃんは照れ屋さんなのです」


 今までのあれに照れ屋の要素がありましたかね!?


「なんかね。弟子が出来るのはすっごく嬉しいらしいんだけど、最初からニヤニヤしてて変に思われるのが恥ずかしいから、それを我慢してたらあんな感じになっちゃったんだって」


 また難儀な……。


「すっごく優しいお祖母ちゃんなのですよ?」


 自分のお祖母ちゃんが勘違いされる事を恐れたのか、ミーナがフォローをいれてきた。


「大丈夫」


 わかってるとばかりに頷いて返事をするアルマ。

 俺もアルマも別に怖かった訳じゃない。ただ気圧されてただけだ。

 そしてその後のギャップに心が追い付いていないだけだ。


「ワシはヒルデ。そこにいるアンジュとミーナの祖母だよ」


 いまだに心が追い付いていないけど、いつまでも呆けてもいられない。

 一度息を吐き出し自らも名乗る。


「カナメです。アンジュさん達とはレンブラント遺跡で出会いました」

「アルマです。よ、よろしくお願いします」

《クロエと申します》

「ゴーレムのお嬢ちゃんもご丁寧にどうも。さて。もったいぶるものでも無いし早速召喚といこうかねぇ」


 どうやらすぐにでも召喚をみせてくれるらしい。


「あれ? ミーナの報告があってその後だって聞いていたんですけど……」


 するとヒルデさんはキョトンとした様子で、次の瞬間、豪快に笑い声を上げた。


「ガハハハハ! そんなものは昨日の内にとっくに終わっているよ。それに報告も何も、あんなもん遺跡に行って帰ってくるだけなんだからねぇ」


 懐から何かの牙を取り出し学術研究をあんなもんと言い張ったヒルデさん。

 師匠がそんな事でいいのかとも思うけど、師匠からしてもあれは見学ツアーという認識なのか……。

 

「アンジュ達から聞いているかも知れないけど、今更あそこで学べる事なんざ何一つ残って無いさ」


 魔力媒体であろう牙を(もてあそ)びながら話を続けるヒルデさん。


「いや、もしかしたらまだ何かあるのかもしれないけれど、少なくともここ二百年ばかりは新しい発見はないねぇ」


 俺も一応かくれんぼを使用して辺りを警戒して見てたけど、それでも隠し扉とかの類は何一つ無かった。

 であればあそこには本当に何もないと思う。


「まぁそういう座学はまた後だ。先ず実践だねぇ」


 そう言うと、ヒルデさんは裏庭の真ん中辺りまで行き、地面に手を当て召喚陣を描いていく。

 描いている。と言ってもインクを使っている訳でも土を削ってる訳でも無くて、魔力で描いている。


 召喚陣ってチョークで地面に描くイメージだったんだけど、この描き方が普通なんだってさ。

 砂地とか、草原だと無理だもんね。

 んで、この描き方は例によって純粋な技術。だからコピーキャットでもコピーは出来ていない。

 頭の中で思い浮かべた召喚陣を魔力で転写してるらしい。


 あっという間に召喚陣を描き終えるとその中心に魔力媒体となる牙を置き、目線はそのままで此方へと声を掛けるヒルデさん。


「よく見ておくんだよ。これがこの街の誇り、【召喚】さ」


 ヒルデさんが魔力媒体となる牙に自身の魔力を注いだ。

 その時点でコピーキャットは発動したけどまだ終わりじゃない。


 描かれた召喚陣が光を放つと、魔力媒体となった牙に収束されていき、それまで地面に描かれていた召喚陣が今度は牙に描かれていく。

 そのまま宙に浮きあがると、牙を中心として魔力が渦を巻き始めた。


「今渦巻いてる魔力が召喚獣の身体を形成してくれるんだよ」


 ヒルデさんのその言葉通り、段々と召喚獣の姿が露わになってきた。


 四足歩行の獣だ。

 獅子の頭に二本の立派な牙を持ち、所々が鱗に覆われた強靭な体躯にはドラゴンを思わせる翼まである。

 そしてその身体からスラッと伸びているしなやかな尻尾の先では、一際眼を惹く深紅の炎が揺らめいていた。

 だが、それよりも何よりも目に付くであろう最大の特徴がある。

 それは――


「か、かわいい」


 すっげぇ小さい。

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