38:魔力媒体
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何故に契約という言葉が思い浮かばなかったのか……。
「使役」だと立場が一方的過ぎると思いましたので「契約」に変更致しました。
翌朝、余ったクリームシチューを朝食として食べ終わった頃、ゴッチさんが馬車を訪ねて来た。
最近料理が好きになってきたって言っても毎日朝食を作る程ではないのです。
「二人共、おはよう」
「「おはようございます」」
昨日と違って今日のゴッチさんはシャツにパンツと所謂村人そのものの様な恰好をしていた。
今日は仕事が休みだそうだ。
「今日はよろしくお願いします」
「と言っても特に見所は無いんだがね」
昨日の段階で色々と話は聞いてたし、ゴッチさんは苦笑いだけど、そもそもが知らない街な訳だから案内してもらえるのは素直に有難い。
「よし、じゃあ先ずは確認だな」
何の? とは言わない。
リコッタにもあるし、ウルスラでもやった。
スキル石での身元確認だ。
馬車を収納し、ゴッチさんに先導され門番のお兄さんの所まで歩いて行く。
身元確認って言っても石に魔力を流すだけだから簡単なもんだ。
収納系統のスキルがある以上馬車の積み荷確認とかも必要ないし。
「……はい。カナメさんとアルマさんですね。ようこそトルネの街へ」
魔力を流した事で証明も終わり、それを確認した衛兵のお兄さんが歓迎をしてくれる。
昨日の段階ではおっちゃんだったけど交代の時間がきたのか今の時間帯はお兄さんになってる。
そして確認はゴッチさんも例外じゃない。
いくらお兄さん本人が外出を確認しても、そして目と鼻の先でその人が居り返して帰ってきても必要な事だ。
「はい。ゴッチさんの確認も取れました。いえ、あの、これも仕事ですので」
「わかっている。手間を駆けさせてすまん。……まぁそうそうないだろうが」
「ですね」
そう言うと二人はお互いに笑いあった。
「それではごゆっくり」
会釈をするお兄さんに会釈を返し、トルネの街へと入っていく。
流石にゴーレムまでは確認のしようがないからクロエは免除だ。
「ふわぁ……」
「おぉ……」
トルネの街は召喚士の街。昨日の馬車でもアンジュさんがクロエに「きっとビックリするわよ」なんて、そう聞いていたから街中にはさぞかし召喚獣が溢れているんだろうなぁ。
って思ってたけど……いや、これは想像以上だわ。
街行く人の傍には狼っぽい召喚獣が付いて歩き、馬車を引く馬は六本脚、上を見上げればワイバーンっぽいものが悠々と空の散歩を楽しんでいる。
それだけならまだ想像出来る範囲ではあったけどさ、そこらへんで羽の生えた犬と猫が寝てたり、虎模様の熊が一人? でのっそのっそ歩いてたり、ベチャっと音がして下を見たらスライムっぽいゲル状の召喚獣を踏んづけてたり……。
何というか召喚獣たちが自由過ぎる。
ゲル状の召喚獣に至っては「やってやったぜ」みたいな感じで満足気に去って行ったぞ。
あれ絶対違うとこで同じ事やるよアイツ。
「ゴッチさんゴッチさん」
「どうした?」
「ここいる動物って皆召喚獣なんですよね?」
皆種族名から召喚主の名前までばっちり分かるんだけど、あまりにも自由が過ぎる気がして一応確認。
だからどうしたという訳でも無いけどさ。
「普通の猫やら犬やらも居るには居るが、目に見えている人以外は全部そうだと思ってくれて大丈夫だ」
「何というか、自由ですよね」
あ、さっきのゲル状また踏まれてる。
楽しそうだなアイツ。
「人よりも召喚獣が多い街だからな。人が一に対して召喚獣は四。そりゃ自然と召喚獣が中心の街になっていくさ」
つまり人の四倍召喚獣がいると。
「ふわぁ……」
人と召喚獣との比率を聞き、本日二度目のふわぁなアルマ。
気持ちはわかる。
……。
「ゴッチさんゴッチさん」
「どうした?」
「召喚獣って食事はしないんですよね?」
「あぁ。基本的にはな」
召喚獣は魔力を糧に存在しているからその為の食事は必要としていない。それは聞いた。
でも必要がないだけで娯楽として楽しむ個体もいる。それも聞いた。
だからって露店でお金を支払って焼き鳥を頬張る熊。それは違うだろ。
「この街では普通なんですよね」
「よく見るな」
「頭、良いんですね」
「普通の動物じゃないからな」
思って食事と違う。。
想像以上に多くて自由している召喚獣たちに呆気に取られながらも辿り着いたのは街の冒険者ギルド。
特にこれといって買い取ってもらいたい素材は無かったんだけど、それとは別にちょっと調べてもらいたい事が出来たから案内してもらった。
実は昨日の夜の段階で宝千花に種が成りまして。
種が成ったっていう表現もどうかと思うんだけど……とにかく、寝る前に見たら根元に親指大の宝石みたいなのが転がってたのさ。
調べてみたら【宝千種】って名前で、優秀な魔力媒体との説明だった。
花からしてすごかったからどうせコレも凄いんだろうなあって思いまして。
で、売る気はないけど値段が付くとしたらどれくらいかってのが気になったから、それをギルドで調べてもらおうって訳だ。
正直期待はしていないんだけど。
「おはようございます」
視線を落とし作業をしているギルド職員に声を掛けるゴッチさん。
「おや? ゴッチではないですか、珍しい恰好をしていますね」
「今日は休みなんですよ」
「休みなのに冒険者ギルドへ?」
「あー……用事があるのは俺じゃなくてですね」
そう言うと少し脇に避け、後ろに付いて回っていた俺を職員に紹介してくれた。
「昨日遺跡で出遭いまして。この街を案内しているんです」
「カナメです」
軽く会釈をする。
例によって例の如くアルマとクロエはギルドの外。
つーか何故だか待ち構えてたアンジュさんとウノさんとミーナによって連れていかれた。
「私は冒険者ギルド職員のベタンと申します。よろしくお願いしますねカナメ君」
「よろしくお願いします」
名乗ってくれたベタンさんはカイゼル髭がよく似合っている初老の男性だ。
髭と同じ色をした白髪をオールバックにしておりかなり落ち着いた雰囲気の人だけど、雰囲気とは裏腹に眼光がかなり鋭い。
ギルドマスターって言われても納得できるくらいの迫力がある。
「それで、どのようなご用件でしょうか?」
「ギルドで調べて欲しいアイテムがありまして」
「買い取り、ではなくてですか?」
「はい」
仮に値段が付いたとしても売る気はないんです。
「大きさはどの程度でしょう?」
「親指大の宝石です」
正確には植物の種。
だけど宝石って言った方が通りが良いと思いました。
「畏まりました。査定も買取カウンターで行っておりますのでご案内致します」
ベタンさんは隣の職員に声を掛けると俺達を別のカウンターまで案内してくれた。
買取カウンターは裏手の倉庫に直結もしており、結構大きめの造りをしている。
常駐している職員の数もクエストカウンターより多いのは業務内容の違いだろうな。
時間もかかるし頻度も多い、そんな事をクエストカウンターで行われたら邪魔で仕方がない。
「それでは査定をさせていただきますね」
買取査定の人はどんな人かなぁって思ってたら意外にもベタンさんがそのまま査定をしてくれるらしい。
白い手袋をキュッとはめるその姿は本当に様になっている。
「えっと、これなんですけど」
俺は宝物の園から宝千種を取り出しすと、ベタンが用意してくれた柔らかい布の上に置いた。
「……さて」
ベタンさんはルーペを取り出すとあらゆる角度から検分を始めた。
「……凄いですね。傷一つ付いていないですし、大きさも輝きもカットもそのどれもが最高級のダイヤモンドに匹敵するかそれ以上だと思いますよ。少なくとも私はこれ以上の物をみた事はありません」
相変わらず眼光は鋭いけれどその顔はどこか喜色を含んでいる様子だった。
ヤゲンさんもそうだったけど良い物を見たり直に触れたりして嬉しいのは職人の性なんだろうね。
「それに、この中心の魔力体。専用の設備を使わなくとも、これがとんでもない魔力媒体であることを窺わせますよ」
それ専用の設備とかあるのか。すげぇな。
「ぬぅ」
そして検分が終わると腕を組んで唸ってしまった。
「……成程、カナメ君が買取では無く調べて欲しいと言っていた理由がよくわかります。確かに宝石の様ですが、宝石であって宝石で無い。……ハッキリと申し上げますとお手上げです」
組んでいた腕を解くとそのままお手上げをするベタンさん。
そういうユーモアもあるんだな。
眼光は鋭いままだけど。
「ベタンさんでもわからない物があるんですね」
俺と一緒に査定を待っていたゴッチさんが驚いたといったばかりにベタンさんを見る。
「全知ではありませんからね。これがとんでもなく優秀な魔力媒体と言う事はわかりましたが、値段をつけるのは憚られます。そういう類の物ではないでしょう」
そしてベタンさんは「ふぅ」と一息つくと、「ありがとうございました」と言うお礼の言葉と共に宝千種をこちらに差し出して来たので俺はそれを受け取り収納する。
「もし召喚スキルの為にこの街へ訪れたのであればそれは今後も手放さずに持っておいた方がよろしいかと」
「ええ。そのつもりです」
召喚をするには召喚陣とスキルと魔力媒体が必要。
聞けば召喚陣は学べば誰でも描けるものらしいし、肝心のスキルだって誰かが使えば一発でコピーが出来る。
そうなると後は魔力媒体だけだった。
で、何か適当な魔物の素材を創造してそれを媒体にしようかと思ってたところにコレだ。
やったぜ幸運補正。
と、素直に喜べない理由があったりするんだけど。
「その際はくれぐれもお気を付けください。それほどの品を媒体として使用すればかなり高位の召喚獣が呼び出されるはずです」
「契約するには召喚獣を満足させなければ駄目。なんですよね?」
「ええ」
そう。
召喚すれば無条件で契約出来る訳じゃない。
果たしてこの人物は主人としてふさわしいのか。それを試される。
勿論内容は個によってバラバラで、頭を撫でたらそれで満足ってのもあるし、戦闘で勝利したらってのもある。
喋る召喚獣も結構いるらしいから内容は召喚獣から直接伝えられたり、そうでない場合は頭に何となく情報が流れてくるそうだ。
ってアンジュさんが言ってた。
「俺の場合は食べ物だった。しかも干し肉。何というか、それでいいのかって思った」
「私の場合は特に何もありませんでしたね」
ベタンさんの様に何も無い場合も稀によくあるとウノさんが言っていた。
稀によくあるって何だ。
「ですが最も多いのは戦闘で力を示すパターンです。そして力のある高位の召喚獣ほどその傾向が高いと統計も出ています」
そういう事だ。
つまり宝千種を使って召喚獣を呼び出せばほぼ確実に戦闘になるって事でして――そう言えば節約上手のお蔭で消費魔力が半分になってた事を思い出した。
コピーキャットはともかく異世界憧憬も消費が半分になったとして、どれくらい乗算効果があるかだな。
……とにかくだ。
心情的には是非とも使ってみたい。でもいざ戦闘になったとして勝てるだろうか。
そんな葛藤もあって素直に喜べてないんだよな。
で、そこでふと思った。
「契約出来なかった場合ってどうなるんですか?」
と。
俺だけなら最悪どうにかなるとしても、もし居残ってそのまま暴れられたりするんならそれは俺だけの問題じゃない。
これは使わん方がいいだろう。
「特に何も」
そう心に決めようとしたのにベタンさんから帰ってきた内容は実に呆気なかった。
「……何も?」
「はい。そのまま異界へと戻っていきます」
「……それだけ?」
「ええ」
「……そのまま街とか人を襲ったりとかは?」
「あり得ません」
「なんで?」
「そういうものだからです」
そうですか。




