37:パーツ
急ぎの指示は出してなかったけど、そこそこの速度で半日とかからずトルネの街に到着。
それでも着いた時には陽も落ちようかという時間帯だったので、街の入り口で皆と一旦別れて翌日改めて合う事にした。
俺達は入り口から少し離れた所でこの馬車で寝起きします。
当然っちゃ当然だけど衛兵のおっちゃん達とゴッチさん達は知り合いだった。
だからと言って俺と衛兵のおっちゃん達は初めましてなので、こっちに向けられる怪訝そうな視線は仕方が無い。
知り合いの知り合いとかそれただの他人だし。
「今日の夕食なんか希望ある? 俺が作れる範囲で」
とりあえず夕食を準備するかと、宝千花に水を上げているアルマにリクエストを聞いてみた。
「んー、クリームシチュー」
「クリームシチューか……やってみよう」
レシピ本を手に、スキルを使って素材を創造していく。
こうやってスキルを使って素材を調達しているから立派な冷蔵庫はあまり機能していない。
中身は専らアイスと調味料、飲み物くらいだ。
「えーっと……」
素材と格闘する事約一時間。
初めてにしてはいい感じに出来たんじゃなかろうか?
「おー、美味しそう」
本を読んでいたアルマが鍋を覗くなり嬉しい事を言ってくれる。
「後はガーリックブレッド」
ニンニクバターは前に使ったヤツが冷蔵庫に入ってるし、それをパンに塗って焼くだけのお手軽調理。
「こんなもんかな」
「こっちの準備も出来たよ」
パンの焼きあがりを待つ間にアルマは外でテーブルと食器の用意をしてくれていた。
朝や昼はその限りでは無いけど、夜の食事はクロエと三人一緒で食べる為だ。
三人一緒って言ってもクロエが物を食べる事は実際には無いんだけど、まぁそこは気分の問題ですよ。
「クロエにも食べてもらいたいなぁ」
アルマに美味しいと言ってもらえることが嬉しくて、最近料理が好きになってきた単純な俺は、シチューをお皿によそいながらポロっとそんな独り言を零す。
《ありがたいお話ですが、この身体では無理ですね》
「だよね」
《ですが、人型のホムンクルスの身体さえあれば可能ですよ》
……ん? 今何と?
「どういうこと?」
アルマも気になったのか、きょとんと首を傾げてその疑問を口にした。
《私の本体はあくまで心核なのです。このユニコーンの身体も言ってしまえば装備と同じ様なもの》
「……つまり心核を移せば?」
《そういう事です》
そういう事か。
「いやいやいや、詳しい説明プリーズ」
そういう事か。じゃねぇよ俺。
理解はしたけれど。したけれども。
《畏まりました。心核が魔力で心を形成したパーツというのは以前にお話しさせていただきました通りです》
「うん。生物でいう自我で、それをミスリルゴーレムに取り付けたのがクロエよな」
《はい。そして特殊な製造技法の為、心核というのは純粋な物質では無く、魔力の集合体のようなものなのです――》
その後もクロエは詳しい説明をしてくれた。
心核は物質を透過出来る事。
心核そのものの魔力を使ってゴーレム体に定着させている事。
定着している魔力を解けば取り出せる事。
「え? でもそれなら誰にでも簡単に取り出せちゃうんじゃ……」
アルマの心配も尤もだ。
方法を知らなければ無理だろうけど、知ってしまえばたったそれだけで心を抜き取られてしまう。
そうなってしまえば……。
《それに関しては心配ありません》
でもそんな俺達の心配を他所に問題はないという。
《取り出すには私の意思も関係してきます。私の命そのものですからね》
「それはクロエが認めないと取り出せないって事?」
《その通りですアルマ》
「あー……成程」
そりゃそうか。
命を預ける訳だから信用の置ける人物じゃないと委ねる事はしないわな。
無理に取り出そうものなら抵抗しますわな。
そしてクロエの魔力は底知れず。
どこの誰が無理したって取り出せるとは思えない
《私の心核を取り出せるのはアルマとマスター、それからグランドマスターの三人だけですので安心して下さい》
「そっか。じゃあ大丈夫だね」
アルマも安心したようでギュッとクロエに抱き着いた。
勿論俺だって安心。
それにしても、だ。
心核って着脱可能だったのね。
いやさ、何て言うかさ、もうこのユニコーン姿でクロエって感じだからその発想には至らなかったのよ。
少し考えればわかった事だわな。
ゴーレムだもんな。
何で言ってくれなかったのよ。とか少し考えたけど敢えて言う必要も無い事だよな。
……あれ? って事は、ここで人型ホムンクルスの話が出たのは、それに気付いていなかった俺へのクロエの優しさ?
面と向かって言うと俺が恥をかくと思ったから私も食事は出来ますよと言う事で俺にさり気なく教えてくれる優しさ?
アルマも気付いてなかったっぽいけど恐らく彼女はそんな事は微塵も気にしていない。
だって今物凄く嬉しそうにしてるもの。
クロエに食べたいものがあるか今の内から訪ねてるもの。
……そう考えると、何か凄い恥ずかしくなってきた。
その恥ずかしさを紛らわせようとシチューを掬い、口に運ぼうとした時に気付く。
「……温めなおそう」
お皿によそったシチューが少し冷めちゃってる。
行儀は良くないけれどまだ手は付けて無いし、お鍋に戻して火にかけてこよう。
アルマとクロエに断りをいれて鍋を手に馬車の中へ。
ついでに忘れていた粉パセリも取り出す。
「アルマ嬉しそうだったな」
食事が出来ないクロエが可哀そう。なんて思った事は一度もないけど、知ってしまった以上今度はそれでアルマが悲しむ気もする。
とは言え、人型はおろかホムンクルスとか見たこと無いから創造出来んし、仮に見たことあったとしても重量制限に引っ掛かる。
スキルのレベルが上がって上限が増えたけど、それでも五十kg弱。
どうだろう?
もしホムンクルスが部位ごとに創造可能ならイケそうな気がしないでもないけど、そっから繋ぎ合わせる技術は無いし何よりグロい感じがしてあまり考えたくない。
そもそもホムンクルスの強度とかその辺りも気になる。
んん……。
まぁ、ホムンクルスの事はクロエが知ってるだろうし、追々でいいか。
俺は温めなおしたシチュー鍋を再度外へと持ち出し、改めてお皿へとシチューをよそっていく。
「今度は冷めないうちに食べようか」
「うん。いただきます」
「いただきます」
うん。美味い。
自画自賛だけどな。
これはやっぱりクロエにも食べて貰いたいわ。
そんな決意を胸にお代わりをする俺であった。
「うん。美味い」




