34:レベルアップ
「お、コピーキャットのレベル上がった」
リコッタを出発して大体一ヶ月。
漸くと言っていいのか早くもと言っていいのかわからんけど。
「おー、おめでと」
《おめでとうございます》
「ありがとさん」
さてさて、普通ならレベルアップで威力が上がったり消費魔力が減ったりするもんだけど……固有スキルだからな。斜め上の成長をしてても可笑しくはないハズ。
「……うん。そうだよね」
そんな訳でちょっとした期待を込めてどんなもんかと確認してみたけど、スキル発動時に必要な魔力が五割から四割に減ってただけだった。
特に捻った効果も追加されず、誰もが予想し得る結果に落ち着いた感が……いや、いいけどさ。いいんだけどさ。
「ん? 微妙そう?」
「予想通りというか、期待外れというか」
《消費魔力は減ったけど、追加効果は無かった、といった具合でしょうか?》
「そうね」
ま、確かに若干期待外れ感はあるけど、こっちが勝手に期待してただけだし。
コピーキャットからしたらそんなん知るかよって話で……それにそうは言っても一割は結構大きい。
異世界憧憬の効果はそれだけでも結構上がるだろうし、併用できるスキルの幅も増えたんじゃないかな?
結界張ったら色々試してみよう。
「レベルアップって言えばアルマの魔銃捌きも中々様になってきたんじゃない?」
「そうかな? だったら嬉しいな」
ウルスラを出てから今日で五日目。
アホみたいな数のロックシードの魔弾を創造したから弾切れになる心配はないんだけど、魔銃の練度を上げるために魔物を探して結構蛇行しながら進んでるからな。
だからまぁ、ここまで結構の数の魔物が物理的にハートを撃ち抜かれてる訳だ。
「でもまだ馬上だと上手く狙いが付けられないんだよね」
《申し訳ないですアルマ。もう少し動きを抑えてみます》
「あっ……ううん、そういうことじゃなくて――」
アルマ的には軽やかに戦場を駆けるクロエの上からバシッと決めたいらしい。
クロエの上からじゃ碌に命中もさせられない俺からすれば今のままでも十分な感じなんだけど、その成長しようとする姿勢を見習わないといかん。
最近異世界憧憬に頼りすぎて戦闘が雑になってるような気もするんだよな。
祖父ちゃんも「慣れた頃が一番危ない」って言ってたし、本人が気づかない内に油断やら慢心ってのが生まれてる可能性も無くはない。
「……なぁクロエ」
《どうされました?》
「率直な意見を聞きたいんだけどさ、今の俺の戦闘の仕方ってどう思う?」
《マスターの戦闘、ですか?》
こういう時はクロエに聞くのが一番だ。
「油断してる、とか慢心してる、とか。そういうの無いかなぁってさ」
《そうですね。見た限りではその様な状態では無いかと。マスターがそう思われているのはアルマに対して張っていた気を解いたからでは、と考えます》
「と、言いますと?」
《今まではサポートメインだったアルマも、セリオンを手にしたことで攻撃役としても活躍できる機会が増えました》
ふむふむ。
《それこそ私が居なくとも自分の力のみで魔物に対処出来るのは実証済みですし》
「クロエが傍にいるっていう安心感があるからなんだけど」
《ありがとうございますアルマ。……マスターもそれを理解したからこそ心に余裕が産まれた。その余裕を油断と考えているのでしょう》
「そうなん? クロエが傍にいるから気を張ってたつもりはないんだけどな」
《そういうものは得てして無意識で行われますからね》
そうか、そういうものか。
《それにマスター自身がそう思われているのであれば心配は無用です。とは言えそれが本当に油断や慢心にならないように気を付ける必要はありますよ》
「成程ね。ありがとうクロエ。気を付けるよ」
「大丈夫。私が助ける」
《それは私も同じ気持ちです》
頼もしい限りだわ。
「そんじゃそろそろ野営の準備でもしますかねっと」
まだ陽は高いけど、この先は結構深い森が続くって話だし、念の為に。
俺の言葉を聞いてアルマが精霊杭を地面へと打ち込む。
地脈の流れを当てないと上手く発動しないこの精霊杭も、俺は勿論だけど幸運が重ね掛けされてるアルマの手に掛かっても物の一発で引き当てちゃうんだよ。
幸運補正って見た目には分からないけどいい仕事するわ。
結界を張り終えた後はテーブルと椅子を取り出し、最近のお気に入りであるモンシロ茶と晩御飯であるカレーを用意。
二日続けて同じ晩御飯だけど、多分カレーってそういう食べ物。
だから俺もアルマも気にしない。
何だったら三日目もカレーでいいくらい。
「この先の森を抜けたらトルネの街がすぐなんだっけ?」
《はい。森を抜けて半日ほど移動すれば見えてくるハズです》
「召喚士の街なんだよね? 楽しみだな」
アルマの言った通り、トルネの街は召喚士が多く住んでいるらしい。
つっても職業として存在してる訳じゃなくて、召喚スキルを覚えている人の事を指すんだけど……兎に角住人の半分以上が召喚スキルを覚えてて、おはようからおやすみまでを召喚獣と共にして過ごしているという、動物好きなアルマからすればまさしく夢の様な街だろう。
場所的にはウルスラからほぼ真西に近い方角ではあるんだけど、次はどこ目指すかって話になった時にアルマが「是非に!」と言うもんだからね。
急ぐ旅でも無いし、召喚は俺も興味あるから「んじゃ行ってみますか」って話に纏まった。
「召喚獣ってどんなのがいるかな?」
「犬とか猫とか? 後は、鳥とか?」
《基本的には動物を基にした召喚獣が多いですよ。中には液体金属で出来たスライムの召喚獣だったり、霧状の召喚獣だったりも存在していますが》
「一見して魔物と勘違いされそうだよな」
《先人達が通った道みたいですね》
だよな。
身も蓋もない言い方すれば魔物を召喚してるようなもんだし。
今でこそ「召喚獣です!」って言えば「何だ召喚獣か」ってなるだろうけどさ……そういう意味じゃクロエみたいなゴーレムも理解を得られるのに苦労したんだろうか。
《どうかされましたかマスター?》
「何事も先人達に感謝よなぁって思って」
「うん。カレー作った人って天才だと思う」
「そうじゃなくてね。それもそうなんだけど、違くてね」
確かにそれには全面的に同意だけれども。
「ゴーレムだって最初作り上げた人は苦労したんだろうな、って話」
「そっか。てっきりカレーの話かと……でもそうだよね。そのお蔭で今こうやってクロエと一緒に居ることが出来てるんだもんね。確かに感謝だね」
《私も感謝しなければなりませんね。素敵なマスター達と出会う事が出来たのですから》
「高評価していただけて何よりですよ」
でもそういう事をサラッと言うの禁止な。
恥ずかしいから。
こうして図らずもお互いの親睦がさらに深まった所で明日に備えて早めに寝る事にした。
いつもなら馬車のベッドで寝るんだけど、この日はクロエに寄りそう形で三人揃って星空の下。
たまにはこういうのもいいもんだ。




