27:手の抜き方
――ゴロゴロゴロゴロゴロ――
と、音を立てていた存在が目視で確認出来た。
直径三m程の球状そのものの見た目で転がっているソレの名前はガンロック。
圧縮された岩石で出来たゴーレムで、かなりの防御力を持っているそうだ。
そしてデカい。
「これ、落とし穴無駄だったね」
うん。明らかにアルマが設置した落とし穴より大きいよなアレ。
でも完全に落とすのは無理でも、少しくらいならハマってくれないかな?
そんな事を思いながらも攻撃軸から距離を取ったその時、それまで直線運動を続けていたガンロックが落とし穴前で跳ね上がり、そのまま空中でガチャガチャと音を立て球状の体を変形させていく。
「マジか」
スキルから得た情報で変形はするんだろうなぁとは思ってたけど、あの状態で飛び上がるのかよ。
これじゃ落とし穴の大きさ以前の問題じゃねぇか。
こちらの目論見を完全回避したガンロックは、球状だった身体を完全に人型へと変化し、ズドンッ!!と重い音を立て着地。
組み砕かれた地面が砂埃となって舞い上がり、その中でゆらりと立ち上がるのが垣間見える。
普通なら咆哮の一つでもあげそうなシチュエーションではあるけど、ガンロックにそういう生体機能は無い様で叫ぶ事無くその全容が明らかになっていく。
人型になった事で高さが増し、その全長は六m程。
岩で構成されている体躯は全体的にほっそりとしていて、太さのバランスは人間に近い感じだけど、胴と両腕が長い。腕は直立の状態でも地面すれすれくらいのリーチがある。
それとは対照的に足が短い。元がデカいからそれでも一mくらいは有るんだけど、いわゆる胴長短足体系だ。
そして頭の部分に、視覚器官でもあり弱点でもある赤い宝石が一つ、ギラリと光っている。
その宝石でこちらを捉えたガンロックが攻撃態勢に入り、叩き潰そうと右腕を振り上げた。
だけども細い見た目とは裏腹にその動きは鈍重で、こちらはスキルの効果も有るので避けるのはそう難しくはない。
クロエは騎乗しているアルマと共にガンロックの脇を抜け反対側に……今更だけどアルマは騎乗スキル覚えてた。
俺はバックステップで振り下ろしを回避する。
振り下ろされた右腕は対象を撃ち抜く事無く、これまたズドンッと重い音を立てて地面へとめり込む。
そうしてまた舞い上がる砂埃。
……ちょっと厄介だな。
いくら異世界憧憬使ってるって言っても眼に異物が入ると不快な気持ちになるし。
だからって目を閉じて闘うのはいくら何でもソレは無いでしょ。
さてどうしたものか?などと考えていたら突如ガンロック後方から微風が発生し、舞い上がった砂埃の全てをエリアの隅へと追いやっていき、視界をクリアにしていく。
こんな所で自然に風が発生する訳も無く、ちらりと後ろを見やれば得意げな顔のアルマがガッツポーズをしていた。
地味と思われるかも知れんけどナイス過ぎる。
すかさずと、未だ振り下ろした状態の右腕に駆け寄り、二割ほどの力を込めたつるはしを打ち付ける。
ガギィンと硬質的な音がエリアに響く。
右腕目掛けて打ち付けたつるはしは、魔力で出来ている為か欠ける事こそ無かったが、ガンロックを傷つけるまでにも至らなかった。
つるはしを握った両手にちょっぴりの痺れを覚えながらすぐさまに距離をとる。
手加減って思ったより難しいな。
確かに守りは堅いって説明だったけど、コランダムクラブを基準に考えたら丁度良いかなって思ったのに。
水でもぶっ掛けてやれば柔らかくなるんだろか?
だとしてもあの規模にってなると俺じゃ魔力が足らんし、アルマは水魔法スキル覚えて無いし、どっちみち無理か。
ガンロックは振り下ろしたままの右腕を、地面を滑らせるように後方へと振り返り、その勢いで後方に居たアルマ達を薙ぎ払おうとしたけど、残念。既にそこには誰も居なかったりする。
そっちの動き始めとほぼ同時にこっちに戻ってきたからね。
「手加減って難しいのな」
「今でどれくらい?」
「大体二割」
《それで傷一つ無しですか》
目標を見失ったガンロックはキョロキョロと周囲を確認している。
「手加減してるこっちが馬鹿に思えるほどどんくさいんですけど」
何でダンジョン相手に接待だ畜生。
「まぁそう言わずに」
「アルマがそれ言う?」
とは言えだ、アルマの装備に関わってくる事だし、ここは頑張るしか無いかね。
ガンロックがこちら側を捉え、体勢を向けなおす。
それよりも早く俺はつるはしを構え直し、再度駆け寄る。
先ほど狙った右腕は体勢を立て直した事によってちょっと距離が離れたけど、元からダメージを与えられていないんだ。問題は無い。
体勢を向け切ると同時、今度は三割程の力を込めたつるはしを左足の甲へと振り下ろす。
ガギィンと相も変わらず硬質的な音がエリアに響く。
けど、手応えは有った。
「っと」
つるはしから手を放し、咄嗟にその場から離れる。
次の瞬間、直前まで俺がいた場所を握りしめるかの様にガンロックの左腕が現れる。
いくら動きが鈍重だって言っても、直ぐ傍に左腕があれば、そりゃこんくらいの事はやってくるか。
「反応自体は悪くないのな」
それでも拳を開いて手の中に納まってるのがつるはしだけだと分かると、また俺を探してキョロキョロする様はやっぱりどんくさい事この上ないけど。
そしてつるはしは頑丈ですね。
もう少し距離を取り攻撃の成果を確認してみると、やはり手応え有りで、つるはしを突き立てた箇所を中心に結構なヒビが入っていた。
「うん。良い感じ」
「今のは?」
「三割」
《成程、把握しました》
今の一撃で力配分を把握したらしいクロエは、風の様な動きで即座にガンロックへと迫ると、蹴り立ち、追い打ちの如く全体重を掛けたであろうストンピングを繰り出した。
バキャッと、何かが割れるような、砕けるような音が聞こえた後、跳ねる様にその場を離れるクロエ。
さっきの俺とは違い、音からして明らかに効果のあったクロエの攻撃は、見事に左足甲を踏み砕いていていて、それによりバランスを崩したガンロックがよろめくも、全長とほぼ同じ長さの腕が支えとなり、倒れる事は無かった。
素早くて攻撃が当てづらいと判断したのか、徐にこちらへと右腕を突き出したガンロックは、その掌から無数の岩石をさながら弾丸の如く撃ち放ってきた。
「だが残念」
本体のもっさりとした動きとは違って弾速は早いけど、その攻撃の情報は知ってたし、離れた位置から掌をこっちに向けてちゃソレをしますよって言ってるようなもんだ。
俺を狙った攻撃はそれでもやはり当たる事は無く、地面にいくつかの弾痕を残すだけに終わった。
「左腕狙おう! クロエはそっちからよろしく!」
《承知しました》
ガンロックを挟んで反対側に居るクロエに声を掛け、避けたその脚で零れ落ちていたつるはしを拾いに行き、先ほどと同じ要領で支えとなっている左腕にフルスイングで叩き込んだ。
それと殆ど同じタイミングで反対側からクロエがバックキックを放つ。
片や鉱石を掘る為のつるはし、片や鉱物系統に効果のある打撃攻撃。
つるはしが食い込んだ反対側から衝撃を加えられた左腕は、ビキビキと音を立て亀裂が走り、今にも崩れ落ちそうな状態となった。
これが人間だったらプルプルと小刻みに震えている感じだろうか。
ちょん。っと指で突っついてやれば瓦解しそうな、そんな状態。
「はい」
っと、そんなプルプル状態の左腕に文字通り止めを刺すアルマの一撃。
鉱石を掘る為にずっと持っていたつるはしを何だか嬉しそうに亀裂へと打ち込んだ。
アルマは身体強化も出来ないし、基の腕力だって平均的な女の子のソレだから、普段なら痛くも痒くもないだろうその一撃は、それでも十分な脅威となって襲い掛かり、ギリギリ踏ん張っていた左腕を肘の辺りまで粉々に砕く事に成功。
重心が寄った状態の支えを失った事で今度こそ完全にバランスを崩したガンロックは、無防備な状態で地面へと倒れこみ、その弱点をこちらの手の届く位置まで下げる事となった。
砂埃はドヤ顔たっぷりのアルマがエリアの隅にまとめてポイしてくれている。
「とりあえず一匹目はこんなんでいいだろ。」
倒れこんだガンロックの頭部へと立ち、握り拳大の宝石へと目掛けてつるはしを振り下ろす。
岩石で構成されていた身体と違って思った以上に柔らかかった宝石は、ビシッと全体に亀裂が入ったかと思うと、徐々にその光を失って行き、最後には只の岩と何ら変わらない物質へと変化していった。




