25:続・ダンジョンのアレコレ
「で、まぁアレだ。六階層で魔物との戦闘が少ない理由ってやっぱり避けられてたって事なんかな」
「クロエの話の間も全然寄ってこなかったもんね」
そうなんだよ。無警戒だった訳じゃ無いけど、雑談に興じてて魔物の目から見ても割と襲いやすい状況だったと思うんだよ。
そんな状態だったにも関わらず一匹も襲ってこなかったどころか姿さえ見せやがらねぇ。
《この程度の強さの魔物ならいくら倒しても問題無いかと思っていたのですが、こちら側の強さにダンジョンが畏怖してしまったのでしょう。恐らく低ランクが出てくる階層では警戒が解かれる事はないかと》
「そんなに? そこまで畏怖される様な事した?」
しかもダンジョンに?
《グランドマスターによる持論ではありますが、ダンジョンの魔物の行動はある程度ダンジョンの思考が反映しているのでは? との事です。と言っても『戦え』『逃げろ』といった程度の物みたいですが》
「んー、でもそれくらいなら地上の魔物も本能で起こす行動だし、祖父ちゃんは何でそう思ったんだ?」
《ゼン様のお話によりますとダンジョンで遭遇したドラゴンが逃げたそうです》
「ドラゴンが?」
ドラゴンは間違いなく世界で最強の種族。一匹で国を滅ぼせる力を持っていて、自分たちが最強だという誇りも自信も持っている。
故に戦闘で逃げる事は絶対に無い。
と言われている。
それまでは単にドラゴンを脅かす存在が居ないだけでは?と言われていたけど、それも父さんの存在で覆った。
世界最強の種族であるドラゴンをただの一人で圧倒してみせたらしい。
それまでは自分と対峙出来る、ましてや圧倒できる存在など信じていなかっただろうドラゴンは、だけどもその背を見せる事無く己が矜持を真っ当。
結果だけ見れば父さんに破れこそしたが、父さんと言う強者相手に戦い抜いた事でその高潔さをより高める事となった――
んだけど、どうもその時対峙したドラゴンは逃げるどころかむしろ喜々として父さんに戦闘を挑んでいた節があったらしくて「ただのバトルジャンキーでは?」と、知っている人たちの間ではドラゴンの評価はそう落ち着いたとか何とか。
まぁそんな事もあってドラゴンが逃げるなんてあり得ないよね?と、なって、ダンジョンが生き物って事、魔物が魔力から生まれてるって事から、ダンジョンと魔物は魔力で繋がっていて、ダンジョンの思考が魔物にも伝わっている。という結論に至ったんだとか。
単純な思考が伝わるだけで細かな命令が下せないと判断したのは、それが出来るならダンジョン内での死亡者数が跳ね上がるからだそうだ。
それを聞くと、あぁ成程なと思う。
「うん。何故ダンジョンにっていうのはわかった。ありがとう。でね、今の話を聞いて改めて思ったんだけどそこまでの事をした覚えが無いんですよ」
そりゃドラゴンが逃げるくらいなら警戒されて当たり前と思うけどさ。
我々はそうじゃなかったじゃない。
《そうですね。まずタトゥ・ベアーとの戦闘ですが、その時のマスターは牽制用のファイヤーボールを二発と、トドメのファイヤーボールを一発撃ちました。トドメのファイヤーボールこそ高火力ではありましたが、それでもまだ警戒される程の威力ではありません》
でしょう?
牽制用には最低限の魔力しか込めてないファイヤーボールだったからな。
回転に巻き込まれる形になって、見事に効き目がなかった。
止めを刺したアレも大きさを重視したから、見た目ほどの威力はなかったハズだし。
《そこでダンジョンはマスターの事を「魔法はそこそこだけど防御は薄い」と、その様に判断したのだと思います》
まぁ、防具とか付けてないし、ダンジョンを舐めてるとか慢心とか言われても何の反論も出来ない程度の普段着であるからして。
《ですがマスターはその魔法を使わずに、素手であっという間にホーンボアとソーンウルフを倒し、反撃を仕掛けたシャギーラビットの体当たりを喰らっても何事も無く平然と立ち上がりました。当然スキルを使用していた訳ですが、そこでダンジョンはマスターの評価を改めたハズです》
うーん。
魔法を警戒してたけどその実、物理もイケる口で、薄いと思っていた防御もそんな事はなかった。
避けられもする、のか?
「それでカナから逃げてコッチに来たんだね」
「そういえば、俺達が丁度良い餌に見えるって言ってたけどさ、クロエってゴーレムだろ? ゴーレムって理解されてたかはともかくとして、どうやって魔力を補給するつもりだったんだ?」
《ゴーレムは魔核を破壊されれば活動停止となり、そこに込められた魔力が大地へと還りますのでダンジョンそのものに吸収される形になりますね。ダンジョンが把握していたとは思えませんが私の心核に込められた魔力は相当な量ですし》
クロエが初めて喋ったあの日に心核の事は聞いていて、実はソレ永久機関らしい。と言っても俺が創造した精霊杭とはちょっと違うらしく、精霊杭の場合は込めた魔力をロスなく循環させているんだけど、心核の場合は魔力を消費した際に生まれる、スキルとは別のエネルギーで魔力を生み出しているんだとか。
当然ながら只の心核じゃそういう芸当は出来ないそうで、これは祖父ちゃんの創造:異があってこそだ。
そして一番最初こそ魔力を込める必要はあるけど、祖父ちゃんの事だから自重せずに大量の魔力を込めたんだろうな。
で、クロエはスキルは使えないけど、ゴーレムだもんで行動する毎に一定の魔力を消費している。その量は自分で調節可能で、スキルと同じように魔力を込めた分だけパフォーマンスも上がるらしい。
だからこそのあの脚力であのバックキックな訳だ。
クロエのちゃんとした戦闘は初めて見たし、あの一撃にどれほどの魔力を込めていたのかは知らんけど、実際に目の当たりにするとそりゃ自分より強いよなって思う――
「あ、それでクロエもダンジョンから警戒されたんだな」
《はい》
俺がヤバいからアルマ達の方に行ったのに、そこには俺よりヤバい奴がいたと。
「つまり?」
あいつら全員ヤバい
「だろうな」
「え? 私も? 何もしていないのに?」
「三人の内の二人がそう判断されたとすれば残る一人がどうだろうと関係ないんじゃないか? アイツもヤバいかもしれないってだけで充分だと思う」
《その結果が今の状況です》
折角生んだ魔物を無駄に消費させる訳にはいかないと、ダンジョンが本格的に警戒態勢に入ったんだろう。
それが魔物にも伝わったって事か。
「それでも何度か戦闘はあったよね? 最初の一回で諦めたんじゃないの?」
《先の戦闘で我々の魔力が大変魅力的に見えたハズです》
「あー……、ダンジョンも諦めきれなかったんだね」
まぁ無理だった訳だが。
《低ランクで敵わないと知った今、この後も全力で戦闘を回避されるでしょう。同じ轍を踏まないように目的地である十一階層からは手心を加える必要がありますね》
「十一階層に入ったら警戒は解かれる?」
《中ランクの魔物が出てきますから。ランクが変われば魔物の強さは文字通りに桁違いとなりますので、恐らくは》
「そんな中で手を抜けと仰るかね。」
《手を抜くのはあくまで攻撃の時だけで大丈夫です。ただ防御が厚いだけならむしろ襲い掛かってくる魔物は増えるでしょう》
クロエは持論って言ってたし、逃げたってドラゴンが『異なる生態』とすれば話はまた変わってくるんだろうけど、実際にここまで露骨に避けられてるんだからそれはもう間違いないんだろうな。
ドラゴンが逃げるような相手が父さんしかいないから持論の域を出ないだけで。
結局その後、十一階層まで戦闘が行われる事は無かった。




