24:ダンジョンのアレコレ
一夜を明かして第七階層。
殆どの階層が森と平原のフィールドって事で、ここも例外なく。
違うのは鉱物系統の階層と、虫系統の階層だったっけ。
「何と言うか今更だけど、ダンジョンって感じしないよなぁ」
そりゃそういうもんだって聞いてたけどさ、実際に自分で体験してみるのとじゃやっぱ違うよね。
「風が気持ちいい」
牧歌的な平原で、心地よい風が吹いてて、陽は無いのにダンジョンの魔力のお蔭か昼夜もあって、水場だってあった。
地上と何ら変わらない。むしろ地上より過ごしやすい気さえしてくるな。ダンジョンなのに。
《マスター。それには理由があります》
俺のふとした呟きにクロエが説明を挟んでくれた。
《ダンジョンが意思を持つ魔物であるという事はご承知の通り、魔物も生き物である以上、生きていく上での栄養補給は欠かせません》
そりゃそうだ。
生きてりゃお腹はすくし、喉だって乾く。飢えを満たす為に食べ、乾きを潤す為に飲む。
それは人間だけじゃなくて魔物も一緒だわな。
《ダンジョンの魔物はダンジョンの魔力から産まれていますので、地上の生き物と違い、血肉は必要としていません。彼らに必要なのは魔力です》
曰く俺達の様な冒険者、冒険者で無くてもダンジョンに入ってくる人間を襲うのは魔力補充の為だと。
《ダンジョンの魔物が摂取した魔力はそのままダンジョンの栄養となります。残滓魔力からも補給が出来るみたいですが、ダンジョン内部で補給した方が効率が良いそうですよ》
それも何となく理解できる。
アルマもスナックポーションイチゴ味を頬張りながらウンウンと頷いている。絶賛栄養補給中だ。
《ですので、その為に地上とあまり変わらない穏やかなフィールドを用意して、訪れやすく、活動しやすくしているという訳ですね》
ともすれば地上よりも快適だと思う感覚はその為だと。
襲ってくるのは魔力補充の為、敵わないと逃げるのは倒されて魔力が消費するのを恐れた為か。
表現の仕方が違うだけで本質は一緒だな。
《だから私達は文字通り餌なのです》
「地上でもその在り方は変わらんだろうけれど、改めて口に出されると何かモヤモヤするわ」
魔物の肉を食べてるからお互い様っちゃお互い様なんだろうけど。
「ねぇクロエ。ダンジョンに人が来なくなったらダンジョンはどうなるの?」
スナックポーションで栄養補給をしていたアルマがクロエにそんな質問をした。
クロエの話じゃ世界の残滓魔力からも魔力補充が出来るみたいだけど、それだけで魔物やアイテム分の魔力を賄えるとは思えなかったんだろう。
《アルマの言いたい事は解ります。ですが、過去にダンジョンが枯れたという記録はありません。維持するだけならば問題無しと言われていますが、ダンジョンは言ってしまえば宝の山、資源の宝庫ですので。冒険者は勿論、国の経済にすら多大な影響を及ぼすダンジョンを封鎖して実証してみるという事は出来ないのですよ》
「万が一無くなってしまったら、か」
《はい》
ウルスラで言えば百寿草なんかがそうかな?
ダンジョンツリーの中だと文字通り売る程生えてるけど、ウルスラに来るまでの道程じゃ見かけなかった。
自然界であんな目立つ色した葉っぱを見逃すとも思えないし、少なくともウルスラ近郊じゃ見掛けない植物なんだろうな。
で、その百寿草はポーションの基本材料となって、ウルスラはそのポーションで成り立ってる街と来た。
もし封鎖してダンジョンが無くなってしまったら?なんて考えるまでも無い。
そしてそんな街や国はここだけじゃないって事だ。
《他にも魔物の氾濫を防ぐため、とも言われています》
「え? でもダンジョンの魔物って外に出てこないんだよね?」
《ええ。ですが、結果的に起きていないだけ、と考えられているようです》
ダンジョンが出来る→資源を求めて人が入り込む→魔物の数が減る→氾濫が起きてない
って事よな?
《その辺りと言いますか、始まりのダンジョンの時に研究が行われておりまして》
始まりのダンジョンとされる【プロト】
ユーミール王国の王都均衡に突如として現れた大規模ダンジョン。
ダンジョンなんて存在が確認されていた訳でも無いから当時でこそ大穴倉なんて呼ばれていたらしいけど。
それがダンジョンだろうがデッカイ穴倉だろうが、国としてそんな存在を放っておける訳も無く、直ぐ様に兵を派遣して一般人の立ち入り封鎖、内部の調査をさせたそうだ。
最初はただのデカい洞窟だと思っていたんだけど、倒した魔物の死体が残らず、魔力の粒子となって消えた事に不安を抱いた事から穴倉の研究が行われたみたい。
《その時にダンジョンの魔物を捕獲して外に連れ出す実験が行われたのですが、何事も無く連れ出す事が出来たそうです》
「「え?」」
それって駄目なのでは?
《増えすぎたモノが溢れるのは常ですので、それが魔物であれその時は重要視はされなかったみたいですね。国の兵士で充分間引けていたようですし。ですが、いくら進めど果てぬ階層、深くなるにつれて魔物は強大となり、それに伴って兵士や騎士にも死者が増え始めました。何年も掛けて培った技術も死ぬときは一瞬です。その内に兵の数が足らなくなり、困った王様は一般人から今でいう冒険者を募りました》
「へー」
「固有スキルによっちゃ兵士を圧倒出来る一般人ってのも居ただろうしな」
中には父さんみたいな人だって居たかもしれない。
《そこで誕生したのが冒険者ギルドの祖ですね。たとえ炎で灰にしようが剣で切り刻もうが、得られる素材に傷は無く、一定の状態でドロップされますので、国はこれらを定められた額で買い取る事を条件としました》
地上の魔物は倒し方を考えないと折角の素材がパーだし、倒した後でも解体の手際が悪ければ買取価格は下がるからな。
それらに関係なく決まった値段で買い取ってくれるとあればやる気も違ってくるだろう。
《とは言え、如何に強大なスキルを持っていても戦闘経験が無い人もいますので、そういった人達には国が然るべき教育を施し、ダンジョンの魔物からドロップした素材で武器や防具、アイテムを作り、またダンジョンへと潜っていく。そうして噂が噂を呼び、世界各国から商人や、冒険者が集まり、ユーミールは経済大国へと大きく成長したという訳です》
「おぉー」
パチパチパチとアルマが拍手をしている。
クロエも何処となく得意気だ。
その後の詳しい記憶は持っていないそうだが、各国にもダンジョンが出現し始め、第一人者であるユーミール王国の協力の元、冒険者ギルドを設営、ダンジョンの攻略と相成って現在に至る。という事らしい。
《氾濫に関してはマスターの推察通りです。当時連れ出した魔物がダンジョンの外でも死体が残らなかったことで、今日に至るまでそういう魔物が討伐されたという記録が無い事から氾濫は無いモノという意見と、それはそもそも冒険者たちが魔物を倒しているからでは? という2つの意見がぶつかり合っている様ですが……ギルド全体としては冒険者たちが倒しているから氾濫が起きていないといった方針です。ダンジョンの魔物が外に出る事は無い、と断言しているのは、冒険者たちの力を信じての事なのでしょう》
「お金の為っていうのがイマイチ締まりきらんな」
《身も蓋もない言い方をすればそうなりますね》
途端に俗っぽく聞こえる不思議。
まぁ真理なんだけど。
《長々と記憶を掘り起こしてみましたが、如何でしたか?》
「うん。楽しかった」
「裏の事情を知ったみたいで面白かったよ。有難うクロエ」
《恐れ入ります》




