23:物の価値って人によって変わるよね
「ドロップアイテムは甲殻と、これは、肉か?」
ご丁寧に笹の葉にくるまれてドロップするのか。
何と言う気遣い上手。
「落とし穴も役に立つもんだね」
「な。上手い事いってよかった」
アルマと作戦の成功について話していたら、先ほどタトゥ・ベアーが転がって行った方向から何匹かの魔物がこちらへと向かって来ているのが見えた。
《どうやら他の魔物が集まって来たようですね。今の戦闘に釣られたのでしょうか?》
「そんなに大げさな戦闘じゃなかったと思うんだけど……」
そうだとしても魔物でも普通逃げるよな。
結界の森で出会ったコランダムクラブだって逃げたんだから。
《客観的に見ますと人間が二人にユニコーンが一体。魔物からすれば丁度良い餌に見えるハズです》
「さいですか……いいけどね別に」
俺はこちらに向かって来ている魔物達にスキルを発動させる。
「シャギーラビット、ソーンウルフ、ホーンボア…がそれぞれ一匹ずつか。」
これが地上だったらソーンウルフとホーンボアがシャギーラビットを巡って争ってるだろうに、それをしないって事は、同じ魔力から産まれた者同士、仲間意識でもあるのかね?
「敏捷強化――はまだ掛けなおす必要は無いな」
魔力はさっきのファイヤーボールで殆ど残ってないけどこっちも問題無し。
異世界憧憬を調整し、魔物へと一歩を踏み込み加速!
敏捷強化も相まって、ものの数秒で魔物の群れに肉薄した俺は、勢いそのままに先頭を走っていたホーンボアに掌底を放つ。
何か硬いモノを砕いた様な感触が伝わった後、ホーンボアは追従していたソーンウルフを巻き込みながら後方へと吹き飛んでいった。
真後ろを走っていて巻き込まれたソーンウルフは運が無かったなと一瞬思ったけど、そうでなくても寿命が何秒か伸びた程度だろうからあんまり変わらないか。
これで残るはシャギーラビット一体だ。
お互いすれ違った形になったが、シャギーラビットはすぐさま反転、俺目掛けて体当たりをして来た。
反応が早い!流石動物!
攻撃後の姿勢を正すより早くに迫られた俺は咄嗟に腕を前に持ってきてガードする。
体当たりの衝撃で多少吹っ飛ばされはしたもののスキルのお蔭かダメージは無い。
「痛くは無いんだけど、気分の良いモンじゃないよな」
何事も無く立ち上がり服に着いた汚れを落とす俺を見て、シャギーラビットが一歩、二歩と後ずさり…一目散に逃げて行った。
お?敵わないことを悟ったか。
でもそっちはマズいぞ?
◆◆◆◆◆
「一匹こっちに来てるね」
《マスターから逃げてきたようです》
さっきカナが物凄い速さで魔物の群れに激突しに行ったんだけど、その生き残りがこっちに逃げてきているらしい。
でもこっちに逃げてくるなんて、私達ならどうにかなるとでも思ってるのかな?
それとも何も考えてない?
どっちでもいっか。
《アルマ、ここは私にお任せを》
「うん。お願い」
いつもは私と一緒にカナのサポートに回るクロエだけど、こういう場合はカナの代わりに前衛担当になる。
私?私はいつでも後衛担当だよ。戦闘力無いし。
自慢出来るとすれば人より多い魔力に、同年代よりちょっと得意な風魔法を覚えているくらい?
だけどその風魔法もさっきの敏捷強化みたいにサポートをメインに使ってるから攻撃はあまり得意じゃないよ。
だから大人しくクロエに任る。
私達と違ってスキルは使えないけど、あの大きい装甲馬車を何でもないように牽引する脚力から放たれるキックはそれ以上だと思う。
今も蹴られたシャギーラビットが見事に宙を舞ってるし、正しく一蹴だよね。
《終わりました》
「ありがとうクロエ」
そしていつもの様に終了の報告をするクロエの頭を撫でてあげる。
頭を撫でてあげると喜ぶし、私も触っていて気持ちいい。
クロエって何故だかほんのりあったかい上に、ミスリルで出来ているとは思えない程に柔らかな感触だからね。何回かクロエに乗ったまま寝ちゃった事があるくらい。
恐るべしミオさんのスキル。と何処かの技術。
◆◆◆◆◆
まぁそうなるな。
シャギーラビットは逃げたつもりなんだろうけど、俺にやられるかクロエにやられるかの違いでしかなかった訳だ。
来世があるならそこで頑張ってくれ。
何を?とは聞かないでね。適当に思っただけなんだから。
しかしクロエの蹴りは強烈だな。正しく一蹴ってヤツか?
あの規格外の装甲馬車を引いてるんだからその破壊力は推して知るべしだけど、あれならコランダムクラブも一撃で粉砕してしまいそうだ。
……あれ?クロエって俺より強くね?
空から落ちてきたシャギーラビットのドロップ品を収納しながらふとそんな事を思ってしまった。
「……ただいま」
「おかえり」
《お帰りなさいませ。表情が優れませんが、何かありましたか?》
「いや、ちょっと」
ちょっとね。男の子の矜持がね。
◆◆◆◆◆
その後も数回の戦闘を繰り返し、七階層入り口付近までやってきた。
思ってたより戦闘が少なかったのは、最初のアイツ等こそ俺達を餌だと思って襲い掛かって来たけど、ダンジョンにそういう危機察知警報みたいなのがあるのか動物の本能なのか、俺達に気付くなり逃げだす魔物が増えだしたからだ。
状況にも寄るけど、何もない今のこの状況でわざわざ追いかけて倒す理由も無いし。
なんでドロップ品は多く無い。
でもその変わりという訳じゃないけど森の中でちょっと珍しい物を見つけた。
万寿草って言う、百寿草の親玉みたいなヤツだ。
百寿層と違って根の色は赤いんだけど葉っぱは同じように白いから全く見分けが付かなかったコイツをどの様に発見したかと言うと、見た目でわかる百寿草に態々真実の眼を使う訳も無く(そもそも万寿草なんて知らなかったし)傍に合った野草を調べてるときに何となく意識を向けたらそれが万寿草だったって言う全くの偶然だったりする。
お調子者は今日も絶好調の様だ。
因みに探してみたけど千寿草は無かった。
存在するかどうかは知らんけどな。
でだ、この万寿草、実は[煎じて飲めば万年を生きると言われている霊草]で、霊薬の素材の一つらしい。
霊薬はケガや病気は勿論、高位の治療魔法でしか治せないような呪いや瘴気なんかもたちどころに治してしまう凄まじい薬なんだけど、その素材と知っても俺達は「へぇー」くらいにしか思わなかった。
それは別に理解が追い付かないで呆けている訳でも、凄すぎてピンと来ない訳でもなく。
「創れるからなぁ。霊薬」
「私達、というよりカナからすれば有難みゼロだよね」
そう。創れるんだよ。霊薬。
なぜなら我が家にあるから。そしてそれを基に俺が創造したヤツがお互いの宝物の園に沢山収納されてるから。
今までは俺がコピーした治療魔法もあるし、日常的に必要な物でも無いから創造して無かったけど、無限収納出来る様になったのと、自分たちで使う分には自重しない事にしたから、霊薬だけじゃなくて創れる物はガンガン創ってここぞとばかりに宝物の園に突っ込んでんだよ。
そんな訳で俺達にしたら日用品の一部程度の認識しかなかったって訳。
「そうは言っても高く売れそうではあるよな」
野営の準備をしながら取り出した万寿草を見てそう呟く。
素材の価値とか分からないし、貼りだされてた訳でも無いけどさ。
霊薬の素材の意地をみせて是非ともオーダーメイドへの糧となってくれ。




