21:魔銃
店内に案内してもらった後、お互いに自己紹介を済ませる。
少年の名前はリクと言い、両親と三人でこの店を切り盛りしているそうだ。
父と母が工房、リクが店番と役割が決まっている。
「それでカナメさんはどんな武器を探しているんですか?」
「魔銃をね。使うのは俺じゃなくてアルマだけど」
「よろしくね。リク君」
「任せてください! と言っても魔銃はそんなに種類がある訳じゃないんですけど」
これまたバツが悪そうに笑うリク。
造花で客の眼を惹いて店内に案内したのはいいけど、種類が少ないとなればそりゃそうもなるか。
でもいいのよ。造花を見てこの店良さそうだなと思ったのはこっちだし。
「そんな気にしなくていいよ。魔銃自体そこまで人気のある武器じゃないんだろ?」
「はい。そうなんですよ」
これは武器屋のおっちゃん(リコッタの街)が言ってた事なんだけど。
魔銃は(種類にもよるけど)取り回しが効いて、力で威力が左右される事も無い、さらに魔法が効き辛い相手にも効果がある。と、これだけ聞くといい事尽くめな気がするけど、前衛が使うには威力不足、後衛で使うには魔力不足に陥りやすいと結構癖のある武器なんだと。
魔銃の威力は弾の種類以外にも撃ちだす際に込める魔力の量でも左右される。込めた魔力に弾と銃本体が耐えられるかって部分はあるんだけど、理論上はどこまでも込める事が出来るらしい。
ただ、前衛でそれをするならその魔力分をスキルに使って攻撃した方が威力は出しやすいし、後衛で使うと、サポートに回す魔力が心許無くなる。といった具合だ。
さらに、この魔銃の恐ろしい所は、トリガーハッピー状態になるというところ。
トリガーハッピーというのは魔銃を使ってる間に気分が高揚する状態異常の事なんだけど、何が問題かって、魔物に当たっていなくても、或いは既に息絶えていたとしても『撃つ』ことそのものに幸せを感じてしまい、魔力か弾が無くなるまで撃ち続けてしまう恐ろしい状態異常らしい。
しかもこれ、その戦闘が終わるまでは治療スキルでも治せない状態異常なんだって。怖いね。
まぁそんなところであまり人気のない武器だから扱っている武器屋もそんなに多く無い。
じゃあ何でアルマにお勧めなのかっていうと、実はアルマって人よりかなり魔力が多いんだよ。
魔力ってレベルアップや消費からの回復によってちょっとずつ増えていくんだけど、それが人より三倍くらい多く増えていくらしい。
レベルとか、正確な数値は王都の神官じゃないとわからないそうだけど、大体ならリアさんでも解るらしくて「カナメさんの三倍くらいはありますかね」って言ってたから。
それに回復薬ならいくらでも…は無理でも余る程創造出来るし。
なので魔力の消費に関しては問題無し。
トリガーハッピーの方も連射の効くフルオートタイプで陥る状態異常で、単発式や、回転式、自動式のタイプではならないのでこちらの対策も簡単。
という事でアルマにお勧めって訳です。
「ウチにある魔銃は二種類です。単発式と回転式が一種類ずつですね」
そう言ってリクは魔銃の置かれている場所から二種類の魔銃を持ってきてくれた。
「一つは単発式の【ホーネット】至近距離用の散弾銃タイプです。利点は細かな狙いを付ける必要が無く大体何処を狙っても高い威力が出しやすいというところです。欠点は距離による威力の減退が激しいところです。なので、ウチでは長所を伸ばすために加重の術式を組み込んでます」
【ホーネット】
工房作の単発式魔銃。
加重の術式が込められており長距離による威力がさらに低下しているが、その分適正距離での威力が増している。
装弾数は一発。
「そしてもう一つは回転式の【ウラエヌス】こっちは近距離から中距離用の魔銃です。利点としては小型で携帯しやすく取り回しが効く部分です。欠点としては装弾数が少ない事ですかね。こちらには加速の術式を組み込んでます」
【ウラエヌス】
工房作の回転式魔銃。
加速の術式が込められており、弾速と貫通力が増している。
装填数は六発。
「次にそれぞれの術式の説明をしますね」
リクの言う術式とは武器、或いは防具本来の性能とは別に追加効果を付与する技術の事だ。
例えば【毒】という術式を武器に組んだ場合、攻撃時に相手を毒状態に出来たりする。
この術式は武器一つに付き一種類という訳でもなく、何種類でも付与する事が出来るらしいんだけど、その分一種類あたりの効果は割り算式に下がっていく。
術式名人ともなれば何種類を組んでも効果が下がる事が無いんだとか。
「加重の術式は撃ちだされる弾を重くする術式で、これで近距離での威力を上げています。加速の術式は弾速を早くする術式なので、威力も上がっているんですけどメインは貫通力の向上ですね。」
因みにこの術式だけど俺は使えない。
何故ならこれは『スキル』では無く、純粋な『技術』だから。
スキルを発動する時に魔力の出発地点があって、道を通って目的地に着いた時に発動する。っていうのがスキルらしいんだけど、その道ってのが術式の部分で、ここが違うと全く違う目的地、つまりは違うスキルになる。
スキルを作っているって言っても過言ではないんだけど、その道の作り方っていうのが俺にはまぁよくわからんでな。
魔力の構成がどうとか、融和性がどうとか…
造形スキルはアレ、そのものを作り出すスキルでも無いしな。
まぁ、とにかく俺にはその技術は無いって事だ。
ついでに言うと同じような理由で俺は料理が出来ない。あれも技術だからな。
うん。どうでもいいね。
「ありがとう。リク」
「どういたしましてです」
うーん。実家が店だからか?同年代の子供より随分しっかりとした受け答えをするな。
「それで、アルマはどっちにする?」
「ウラエヌス」
「だろうな」
二丁拳銃したいって言ってたのに、ホーネットだと両手使うから二丁拳銃が出来ないしな。
「という訳でリク君、ウラエヌスを二丁下さい」
「えっと……すいません。魔銃は一丁しか置いてないんです……」
何とまぁタイミングの悪い事。
いや、タイミングの問題じゃないか。あの言い方は元々一丁しか置いてなかったって事だ。
自分で言っててなんだけどホントに人気ないのな。
「うー……」
「こればっかりは仕方なくないか?」
「すいません。魔銃は人気が無くて……」
と、その時。
「何か困りごとかな?」
「お父さん」
工房で作業をしていたリクの父親が顔を出し、リクにそう尋ねた。
リクの父親は何と言うか『らしくない人』だなぁ。というのが第一印象だった。
そう思ったのは、何でか武器屋の店主って筋骨隆々の厳ついオッサンか、目つきが鋭い老練なお爺さんってイメージが強いんだよ。
でもリクのお父さんに老練さはまだ感じられないし、線が細い。
鎚よりも薬研が似合いそうな、知的な壮年といった佇まいだ。
そんな失礼極まりない事を考えてる間にリクが事の顛末を(と言うほどでは無いけど)説明をしていた。
そして説明を聞き終えたリクの父親は今度はこちらに向き直し頭を下げた。
「いらっしゃいませ。そして初めまして。私はここの店主をやっております。ヤゲンと言います」
名前がもう完全にソレなんですが。っとそんな事はどうでもいいか。
「カナメです」
「アルマです」
俺達も軽く会釈をする。
クロエは空気を読んでいるのか言葉を発しない。
一番最初、暁に説明する際に『ちょっと説明が面倒だな』と思ってしまった俺に気を使っているんだと思う。
街中では他人の会話を意識して聞いてる人が殆ど居ないだろうからと普通に喋るんだけどね。
ウルスラを出てからにはなると思うけど、後で気にしなくていいからってちゃんと伝えよう。
「ウラエヌスを二丁ご希望だというお話ですが、申し訳ない。ウチは小さな工房で今は余剰の素材も無くて、新しく作るという事も出来ないのですよ。」
植物系統の魔物がメインに出てくるダンジョンツリーでは、そもそも魔銃の効果が薄く、ただでさえ不人気なのにさらに拍車が掛かっている状態だという。
魔銃は他の武器に比べて使う素材が少なくて済むそうだけど、それなら普通に剣や斧を作った方が売り上げになるから。と、懇切丁寧に説明をしてくれた。
ホーネットとウラエヌスが置いてあるのは、一応魔銃もありますよ。というアピールの意味合いが強いらしい。
そんな物を二丁欲しいと言われれば、そりゃ困りもするか。
だがしかし、ウチのアルマは諦めていない様で。
「その素材って特殊な物なんですか?」
そんな事をヤゲンさんに聞いている。
これはつまり、そんなでもなければ私(達)が調達するのでそれで新しくウラエヌスを作って下さい。という事なんだろう。
「いえ、そのウラエヌスに使っているのは鉄鉱石と、魔核だけです」
「それを持ってきたらウラエヌスを作ってもらえますか?」
「それは勿論。オーダーメイドもやっておりますので」
「カナ」
そして俺の意思とかそういうのはまるっと無視で無事に話が纏まったようだ。
いいんだけどね別に。それが出来るなら俺もそのつもりだったし。
そんな訳で魔銃用の素材を探しに再びダンジョンツリーへと赴くのであった。




