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伽藍堂の勇者  作者: 不落八十八
一章「三人の勇者達」
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「三人の勇者達」-4

 魔法都市アルカディアは四精霊を奉る神殿を中心に、兵舎、一般宿舎、庭園、訓練場、座学と魔法か剣術を習う学び舎の学院、広い潤沢な農地、そして勇者や他国の王族が離れて住む貴賓宿舎と勇者宿舎が存在する。医務室は兵舎と一般宿舎の間に存在し、水は裏山から流れる天然水があるため食事処は裏山の麓近くに設置されている。

 召喚の儀式の日から二日経った今も、未だ名も知らぬ勇者の少年が寝ているため、一向に進展が無い現状である。

 ノブナガ曰く、魔力枯渇に精神的疲労も重なり眠りが深いのだろうという事でウィンクルが張り切って色々な世話をしている。下の世話は少年が寝ていても矜恃があるのか未だ行われていないが、体を拭く際に色々あったため無駄な努力かも知れない。

 元々巫女は勇者への貢物として教育を受けているために、ウィンクルもあまり嫌そうにはしていない。ただ、体の至る処にある傷痕には少ししょんぼりとして、強靭な筋肉や男らしい匂いを感じた際には初々しい乙女のように恥じらっていた。

 流石に二日も事態の経過を見送るのは危険だと、魔法都市アルカディアの王女との会談が行われる事になった。

 事の発端は中庭でフレイルに酌をさせて昔話を肴にアーサーを弄るノブナガの姿を見ていた生き残った人々が不安を覚えたからだ。

 実際、襲撃しに来た魔王軍を蹴散らしたのは寝ている少年であるし、まだ彼らは何も成していない。ただでさえ国や家を失い気落ちしている彼らの前で、ドンチャン騒ぎのノブナガたちはよろしい存在とは思えない。

 ノブナガが辛気臭い雰囲気を吹っ飛ばそうと異世界風な画策をしていたのだが、未だに戦果を上げていないのが原因で信頼が得られない。拙いと感じたアーサーの進言により会談が決まったのだ。

 かといって、成果のある少年が目覚めたとしてもノブナガやアーサーのように協力的かも分からないのだ。

 名前すら分かっていないのに信頼が築ける訳も無く、少年への対応は後回しにし、ウィンクルに丸投げしたのだ。

 ウィンクルも初めの内はおどおどしていたが、今や慣れ始めたようで少年との会話役としての資質は十分だろう。それに、一瞬の会話ではあるがウィンクルに任せたと少年は彼女を信頼したのだ。

 ウィンクルが適役ではないとは誰も言えないだろう。

 今や対少年用説得要員兼従者として頑張るウィンクルを、少年に当てがった自室へ残して、フレイルとマリンスはノブナガとアーサーを王室へと案内をしていた。

 今は二人とも巫女服ではなく、学院の制服を着用している。儀式のために浄めるだけの巫女服なので、普段動き慣れている制服を着用している。

 二人は糊の効いた白シャツを紺のスカートとハイソックスを合わせた学院の女子制服スタイルに、ワインレッド色のローブとコバルトブルー色のローブで自らの所属属性を表す。ダイヤモンドイエロー色のローブを着る土属性の魔法使いに巫女は居ない。土精霊の柱は神殿を支える支柱であるため召喚により何かがあっては困るから、という表向きの理由がされている。

 学院では得意属性により色分けと所属決めがされているため、学院の生徒及び関係者は属性色のローブの着用が義務付けされている。

 上は紋章付きのシャツのみなので、たわわで豊かなラインやストンと落ちるスレンダーなラインは明白。ローブ越しに持ち上がるフレイルに対し、同年代の悩める少女たちは熱い視線や嫉妬の感想を抱く。マリアスもまた嫉妬する側であり、幼馴染というのを良い事にたまに二つのメロンを揉みしだく姿がよく見られる。そんな二人にニコニコ笑うウィンクルの隠れオレンジは良い感じに男子たちの視線から外れている。

 二人の絡みが男子学生たちの熱く滾る妄想力の糧であるのは言うまでも無い事だろう。

 そんな男子学生たちも今は兵舎に詰め寄っているため、些か王室までの道程は閑散としていた。

 王室は学院の近くの王宮にあるため、グラウンドや窓から聞こえる生徒たちの声が王室まで届く。だからこそ、その声が聞こえない今は寂しく感じてしまう雰囲気が漂う。

 ノブナガは王宮の外装や内装を一瞥するだけで特に反応せず、アーサーは王宮なのに質素な作りだと感心していた。煌びやかにゴテゴテな飾り付けをする成金王族を数多く見てきたために、こうした質素な王族は一握りしか居ない事を実感したのだ。


「失礼致します。火の巫女、水の巫女が勇者様をお連れしました」


 先頭のフレイルの声に内側から返事が聞こえ、豪華絢爛に宝石を散りばめたような扉では無く、実用性と質素ながら丈夫に作られた王室の扉をお付きのメイドが開いた。

 事務室のような王室で飾り気の少ない白いドレスを着た妙齢の女性が中央に立っており、ノブナガたちへ美しく洗練された一礼をし、敵意は無いと微笑む。

 魔法都市アルカディアの王女エーテル・アルカディアの佇まいは、匠により彫られた氷細工のように美しいものだった。


「ようこそ、勇者様方。此度の召喚に応じて頂き、心から感謝致します。わたくしはエーテル・アルカディア。この国を統べる王女でございます。どうかよろしくお願い致します」


 そう再び深く頭を下げたエーテルにアーサーは、慌てて顔を上げるように言った。天界の勇者と言えども、庶民派なアーサーにはエーテルの行動は身に余るものだ。

 もっとも、普通にタメ口で話すノブナガは天界の最高権力者である。敵対した出会いからの腐れ縁であるため、つい忘れてしまっているが、天界の女神の直属の配下であろうとも頭を地面に擦り付けて許しを乞うレヴェルの相手である。まぁ、アーサーらしくない、とノブナガはすぐにやめさせるだろうが。

 慌てるアーサーをやや軽めに横尻を蹴って無理矢理ソファに座らせたノブナガは、詫びを入れる事なくその隣にどかっと座り込む。


「何をするかっ!?」

「こちとら客人だぞ? あれくらい然るべき事よ。それに、天魔王たる我(わし)が格が数倍上なのだから当然の行動ぞ。お前が可笑しいだけだ」

「ぐっ……、そういえばそうだったな……」

「ちったぁ外交も慣れろ脳筋天使。この世界じゃお前や我(わし)の肩書きはお品書き程度にしか過ぎぬ。戦場で暴れるまで我(わし)らは異世界からの客将に過ぎぬ事を忘れるな」


 まるで孫娘を叱る祖父のような貫禄を醸し出すノブナガに、アーサーは図星と正論で頭が上がらなくなる。昔のように「勇者アーサー、○○を倒しなさい」という女神の単純明快な指示は無いのだから、ノブナガに渋々ながらも従うしかアーサーはできない。

 偉く真っ直ぐな癖にやや夢見がちな乙女思考をしているアーサーは、勇者という自分の役割を愛している。

 誰かのためになれるなんて喜ばしい事だ、と心から信じて止まない。それがアーサーという勇者の誇りだ。

 だが、勇者とは言えども異世界故にノブナガ以外の後ろ盾は居ない。そうなると庶民派な気持ちに戻るのも仕方が無い事だろう。

 アーサーがむくれる姿を見てエーテルは微笑む。良い心の持ち主たちを勇者として召喚できて良かった、と。


「いえ、そう畏まらなくて問題ありません。我が国は古の規律により、勇者様方を親愛し敬う事を教育により学んでおります。最高位の貴賓として扱わせていただきます」

「ほぅ? 何やら徹底した教育内容だのぅ」

「ええ。太古にこの地に存在した国は“決して勇者を敵に回してはならない”という記録を残して滅亡したそうです。黄昏の碑文と呼ばれる遺跡から出土したその碑文を、アルカディアは代々絶対規律として崇め奉り、今日の日まで信仰してきました。考古学者の研究によるとその国を滅ぼした勇者は、“ガーランドの勇者”と呼ばれる人物だそうです。ガーランドという地から来たのか、ガーランドという名前なのか。未だに研究は続いていますが分からずのまま、というのが現状です」

「ガーランドねぇ……、聞いた事が無い名だのぅ。少なくとも我(わし)らの世界の人物ではないぞ」

「そうでしたか……」


 長年探し求めた解が得られるかもしれないと少なからず期待していたエーテルは、ノブナガの言葉に少し残念そうに返したが、すぐに表情を戻した。

 東の最終防衛ラインを司る魔法都市アルカディアの王女として真剣さを帯びた熟練された佇まいで、エーテルは本題を切り出した。


「それでは、現在わたくしたちの置かれている状況をお話しさせていただきます。このアルカディアは東の大陸の端に存在します。西の大陸に現れた魔王の影響により魔族と魔物が力を得て、西から南と北と東の最果てを目指し進行が始まったのが三年前。勇者召喚の儀式には多量の魔力を必要とするため、完全な準備に二年かかりました。その間に東の大陸の大国はアルカディアを除いて全滅。数少ない兵士や民、王族がこの地へ退却し、他の大陸との通信も通じないのが現状です」

「この世界の魔王はどう生まれるのですか?」

「魔王は絶大的な力を持つ魔族を統べる王とされています。その類稀な強さ故に、魔王は数百年に一度という不確定な頻度で出現すると言われております。そのため、年月と共にアルカディアの姉妹国たる北と南の魔法都市以外の勇者召喚の術は衰退し、今では三国しか勇者召喚を行う力がありません。三国の中でも勇者信仰の深いアルカディアは研究を重ね、召喚と送還の儀式を完成させ、こうして勇者様方をお招き致しました」

「ふむ、我(わし)らの世界の魔王とは扱いが違うようだな。魔王は魔界に住む生物の頂点、戦乱を征した者を魔王と呼ぶ。そのため、争いが絶えぬ世であったわ。此方の世界では、魔王は特異点的な存在のようだな」

「そうですね。人類と魔族の均衡を零へ戻す者ではないか、という見解もあります。また、人類への神々からの試練だという見解も。わたくし共も魔王についての詳細は多くありません。記録に残る魔王の数が少ないという事と、その間隔が不定期であり法則性を見出す事ができないという点から魔王の研究は三世代は進んでおりません」

「つまり、ぶっつけ本番の戦争というのが現状なのか。こりゃ大変なもんに巻き込まれたもんだなアーサー」


 ノブナガの困り気な雰囲気にエーテルも顔を伏せる。その沈黙を勢いよく立ち上がり破ったのは自信満々の顔のアーサーだ。守護天使の最上級職として勇者をしているアーサーは防衛が主な仕事であり、つまりは部下の手には余る侵入者を追い返すのが仕事だ。そのため、物語の勇者のような扱いに少々不謹慎ながらも心を踊らせているのだろう。


「御安心くださいエーテル様。この清錬の勇者アーサー・ペンドラゴンが必ずや魔王を討ち倒しましょう。やる事は決まっているのだノブナガ。燻り傍観する性格ではあるまい」

「呵々々々々ッ!! 抜かしよる小娘。天魔を統べるノブナガぞ? こんな愉快な機会を逃す訳なかろうが」


 力強い二人の表情と言葉にエーテルは感涙しながら優雅に一礼した。王女らしからぬ顔を勇者たちに見せぬように深々と。


「ノブナガ様、アーサー様。どうか我らをお救いください。平和へと導いてくださいませ」


 エーテルの震える声を聞いたアーサーは力強く返答し、ノブナガはそんなアーサーを見て呵々と笑いながら是とした。

 

「まぁ、あの小僧がどうするかは知らんがの」


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