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伽藍堂の勇者  作者: 不落八十八
三章「勇者達の休息」
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「勇者達の休息」-13

 天幕の仮眠ベッドにウィンクルを寝かせたアサギは軍議の喧騒を聞きながら物思いに耽っていた。ウィンクルの状態は魔力切れの枯渇疲労による一時的な昏睡であると治療士から言われるまでアサギは戦々恐々していた。だが、例え植物状態であろうがアサギは十全を行う覚悟はあった。ドラゴンの心臓、神葉樹の葉、天使の祈祷、四属性の精霊神への契約……。様々な困難かつ不可能と呼ばれるそれらを一心不乱に行う覚悟があった。しかし、魔力を譲渡しながら一晩もあれば回復するというあっさりとした結果により安堵の息を吐き、ぼんやりと天幕の端から見える夜空を眺めている。勿論、星が綺麗だとかそんな事は考えてはいない。アサギが抱く物思いは“実力不足”という端から見れば仰天するものだった。


「魔力砲弾が効かない相手、か。魔法的アプローチのヴァリエーションが貧弱とは思っていたが、実際に目の当たりにすると応えるな……」


 アサギは量より質を取った魔法の考え方をしていたために、自分にとっても臨界点越え魔力砲弾の爆発力は最大級のものと思って高を括っていた。しかし、バリアの様な防御結界を使用せずにああも効果が無いのは流石にキツイ。ぼくがかんがえたさいきょうまほう、みたいな黒歴史を覗いた気分になっていたのだ。剣技はこれ以上上げるものは無いし、日々鍛錬する以外のアプローチは無い。しかし、魔法は別だ。別次元と言っても良い。幸いアサギは世界の性質的に膨大な魔力量がある。全力全壊の大規模放出という博打めいた事も出来るし、魔力砲弾を臨界点まで一瞬にして練り上げて炸裂砲弾と成す事も出来る。だが、それ以上の何かを求めなければあの堕天使には通用しないと自惚れを切り捨てる性質のアサギは考えていた。

 魔法という定義からすればアサギの在り方は掟破りの非常識なものだ。完全に枷が外れた場所でなら、という前提すらも意味を成さない強さを持っていた。火・水・風・土に掠りもしない純魔力に寄る魔法制御等と四属性神に喧嘩売っているに違いないアプローチをもってして初級な魔法を構築して現に成功してしまっている。魔法の基礎の基礎とも呼べる魔力弾生成は本来はその色を持ってして属性の得意不得意を見極める、言わば様式めいたものだ。使う事だなんて考えない程に低級なものなのだ。しかし、低級である筈の魔力弾生成に全力を傾けたのがアサギだ。戦いの申し子とも呼べるセンスから生み出された魔法が臨界点越え魔力砲弾。生成した魔力弾に魔力を更にぶち込み尚且つ圧縮してその質量を増やすという上級魔法真っ青な威力を誇る代わりに、上級魔法師でさえもコントロールすら真っ青なレベルな非常識極まりない魔力砲弾へと昇華、更にはそれを限界まで練り込んで自前の馬鹿力でぶん投げる速度も加わって正に戦車砲弾にしか見えない化け物魔法となったのだ。それもアサギの体質によりほぼ無制限に撃てるものだから撃たれる方は絶望的な表情を浮かべるのも無理が無い。けれど、その魔力砲弾をあの堕天使は素の魔力耐性により打ち勝ったのだ。速度と質量による衝撃で吹っ飛びはすれども顕著に残りそうな傷跡は存在せず、更には瞬時に攻撃へと移れる余裕さがあった。圧倒的爆発力を誇る魔力砲弾に打ち勝つ程の魔力耐性をどう撃ち抜くか。デウスエクスを使えば切り裂けるがそれでは意味が無い。牽制にすらならないのならそれはただの豆鉄砲でしかない、そうアサギは久しぶりに現れた強敵に不覚にも笑みを無意識に浮かべていた。己と同等の不死性を持ち、尚且つ自慢だった魔力砲弾を破った敵にして、ウィンクルに手をかけやがった怨敵。絶対に消滅させてやると意気込むのも無理も無い。圧倒的な強さを持つアサギからすれば、生涯の内苦戦した敵は魔王しか居なかったのだから。そして、それ以上の力を持つ堕天使が現れたのだから怒りに顰めながら口角を上げてしまうのも仕方が無い事だった。相手になるんじゃないかと思っているノブナガは一応味方であるし、取り敢えず魔王軍の壊滅を考えなくてはならない立場だ。


「しかし……、どう手を加えるかね? 前のは戦車を意識して作ったしまたモチーフにしてみるか」


 アサギの魔法は詠唱要らずの初級魔法の改竄による改良である。そのため、元にする魔力弾を伸ばした人差し指に浮かせて、もう片手で魔法のステータスを見る魔法陣を隣に浮かばせた。先ずは臨界点超え魔力砲弾の基礎となる魔力砲弾状態へと魔力弾を移行する。すると、円状の魔法陣の簡易な紋様が複雑に入り乱れて常人が絶句する様な高度な魔法陣に変わる。しかし、魔法のレヴェルを構築する外円が四属性を取り入れない初級魔法という魔法学会的に暴挙な光景がそこにある。すいっと紋様を弄りながらアサギは基礎魔法抵抗力について考える。基礎魔法抵抗力とはこのアルカナの世界にて生物に分類される全てに等しく存在する精霊との親和性の事を指す。精霊により譲渡される魔力の量による瞬間的な遮断効果は精霊との親和性、言うなれば相性により決定する。そのため、四属性神に嫌われているアサギは人一倍魔法による被害がでかいし、風の精霊に愛されるウィンクルならば風属性の魔法はほぼ遮断されるという具合になる。そして、ここで堕天使が如何に魔法抵抗力に優れているかを示すためには魔法の成り立ちが必要になる。魔法は精霊を介して魔力を支払う力の事だ。そして、その魔力はアサギの用いた臨界点越え魔力砲弾に使われた純粋な魔力の恩恵が前提なのだ。すなわち、純魔力により構築されたアサギの魔力砲弾を魔法抵抗力により無効化したという事は四属性どころか魔法ダメージの無効化と言っても過言では無いのだ。つまり、魔法全般が意味を成さない。例外は魔法抵抗力以上の純魔力ダメージかデウスエクスの様な所謂神力と呼ばれる別ベクトルな抵抗力を介さないダメージだろう。そして、今回アサギはそれを何となく理解しつつも、魔力と神力の配合とも呼べる魔法陣を構築しようとしていた。この場にノブナガが居たら顔を真っ青にして止めに入っただろう。ノブナガは戦術に長ける軍師でありながら武器防具開発のスペシャリストだ。アーサーの持つ神力と自身の持つ魔力の差異について研究もしている。その結果、過去と未来の関係の如くこの二つは相容れないものであると結論が出ている。某魔法漫画の如く魔力と気を合体だなんて事をしたら街一つ吹っ飛ばすくらいの災害事故が起きるという結論が、だ。それを知らず勘と概念魔法の基礎式をぶっこんだアサギのとんでもない強運により新魔法を完成させてしまうとは誰も思うまい。魔力の外装コーティングをしたデウスエクスを経由して抽出している神力を圧縮した二重炸裂魔力榴弾。外装で魔力抵抗力の遮断部位を相殺し、内装の神力砲弾による貫通及び炸裂作用を実装した馬鹿げた威力の魔力榴弾である。臨界点越え魔力砲弾十発分の溜めを要するが、その威力は押して図るべしなとんでも魔法の出来上がりである。勿論アサギも出来上がってしまったそれのステータスにより眉を顰めたため、試射は無い。当たり前だが誤射をやれば本気で人がジュッと死ねるレヴェルだ。対人には絶対使えないその魔法陣を暗記しつつ、アサギは二炸裂魔力榴弾を手元から消して体内に魔力と神力を取り込む。久し振りに頭をフル回転した疲れから溜息を吐いて再びウィンクルに魔力を送るため手を重ねてパスを作る。日々一緒に寝ているため無意識レヴェルで把握しているウィンクルの魔力に適度に魔力を流し込み始める。この機会にウィンクルの貯蔵魔力量を増やしてみるかと思案しつつ、アサギは小さな手の温もりに安堵する気分になる。

 

「……しっかし分からんな。アレが例えウィンクルの内部に隠れ潜んでいたとしても魔力だけを喰らって出現したとして、ウィンクルの異常に俺が気付かない筈が無いんだがな……」


 だが、アサギは気になっている事がある。それは、ウィンクルが魔王と出会ったという言葉だ。しかし、それは在り得ない。同じ場所に居るのに関わらず肉体的に接触する機会は無かった筈だ。つまり、精神的に接触されたという事になる。そして、アサギの半身は魔王だ、とウィンクルは言っていた。と、なれば接触した魔王は限定的に左腕に宿る先代魔王に他ならない。そこでアサギはピンと来る当たりを感じた。夢渡りだ。神々との接触に使われていたそれを左腕に宿っている魔王の意識が夢渡りを用いて接触したとしたら。


「そう言えば運命の女神が魔王って言って……ッ!?」


 ガチンッとアサギの脳裏で歯車に何かが引っかかったかの様な違和感を覚えた。まるで、止まっていた歯車が動き出した事でその異物に気付けた様な、そんな違和感だった。ウィンクルに魔力を送るのを止めて、慎重にアサギはその違和感へとアクセスを試みる。深層心理にダイブする様に体内の魔力を変換して手探りを進めて、それに触れた。その瞬間ブレーカーが落ちるかの様にアサギの意識は断絶し、ウィンクルを護るかの様に手を伸ばして――床に崩れ落ちた。その後、軍議に加わる様に訪れたウィンディにより倒れたアサギを発見しされ一騒動が起きたが、アサギとウィンクルはその騒ぎで目を覚ます事は無かった。

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