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伽藍堂の勇者  作者: 不落八十八
一章「三人の勇者達」
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「三人の勇者達」-2

 東の大陸の魔法都市アルカディアを殲滅せんと西の地から出撃した魔王軍の先行部隊は、下級魔族を中心に進軍していた。焼き払い蹂躙した大地を踏み潰しながら、ミノタウロスとオーガの混合城壁破壊軍は、地鳴りを鳴らしながら闊歩して行く。

 知能の低い下級魔族であれど人間を殺せば力を得られるとは本能的に分かっていたために、ミノタウロスナイトとオーガロードに進化した中級魔族が率いて来たのだ。

 ミノタウロスは人型化に伴い筋骨隆々の逞しい筋肉で体を支えて二足歩行する黒毛の牛の姿をしており、野生の牛が魔力により変化した下級種族だ。隣のオーガは赤黒い肌をした角を生やした人間のような体躯をしており、元は人間だったが悪しき心故に魔に堕ちた下級種族である。


「我が同胞よ、聞け! 人間を蹂躙せよ! 我ら魔王軍に楯突く人間共を根絶やしにするのだ!」

「我らの力で砕けぬ人間は居らぬ! 四肢を捥ぎ、頭を砕き、心臓を抉れ!」


 混合城壁破壊軍は獣の雄叫びを上げて此れから成す蹂躙のために歩みを進めた。

 魔法都市アルカディアの最終防衛ラインである森林の砦が見え始め、蹂躙に本能を昂らせる同胞を見て先頭のミノタウロスナイトとオーガロードはお互いの顔を見やり、笑みを浮かべた。

 上級以下の魔族は出世する気はサラサラ無い。魔族とは強さを美徳とする生物群であるために、強くなるために戦うのが普通なのだ。

 しかしながら、上級と中級の差は鋼の剣と木剣並みの大きな差がある。そのため、中級魔族となった者は同じ同胞を中級魔族へ導く事で喜びを見出す。

 弱肉強食にして正々堂々の魔族の心意気というものだ。


「人間を滅ぼしたら我らは魔族の同胞との争いが始まると思うと感慨深いものだ」

「まぁ、仕方あるまい。我ら魔族は弱肉強食を資本とする。同胞を糧にすると思えば良いだろう」

「それもそうーー全軍止まれッ!!」


 突然のミノタウロスナイトの号令に全軍の行進が止まる。魔法都市アルカディアから強烈な魔力の波動を感じたためだ。

 一度、二度、……そして、三度目の奔流は森林の砦を堅く閉じる門の前に出現した。

 聖なる風の魔力が黒く染まる魔力に侵食され、それにより生じた余波が空気を絶叫させた。彼らはまるで上級魔族に出会ったかのような戦慄を覚え、知能ある故に戦慄した。

 全身を赤黒く返り血で染めた、善にして悪にすらも至る少年が両膝をついた状態で魔法陣から現れた。

 先頭の二匹はそのゆっくりと上がる顔を見ないようにしたいのだが、恐怖と本能から目を逸らす事が出来ない。

 外した瞬間に殺されるかもしれない、そう本能が警鐘を鳴らすのだ。蹂躙する側の筈の魔族たちは、目の前に現れた人間の少年に恐怖した。


「ぁあぁああアァアアァアアアッ!!」


 行き場の無い全身を回る怒りを、魔力と共に咆哮で吐き出した少年の声は悲痛に感じた。

 その咆哮により魔王城壁破壊軍の足が竦んで、低級の者は尻餅を着いてしまう。普段ならそれを笑う下級魔族たちだが、そんな隙を目の前の少年には見せれないと、本能で臨戦体勢に移行して行く。


「運命の女神よ! 貴様は俺に何を願う! 伽藍堂な俺に何を! また世界を救えと宣うのか! 良いだろう! 再び俺は三千世界の魔を殺す勇者を名乗ろうではないか!!」


 黒く染まった鞘から剣が引き抜かれ、その禍々しい魔力が空気を唸らせる。

 呪詛と怨嗟を剣身の切っ先から柄尻まで捻じ込まれた、かつて聖剣と讃えられし魔剣の剣身は炯々と輝く。

 復讐と殲滅の刃と成した少年は、標的(エネミー)を見定めた。

 列を成すミノタウロスとオーガの混合部隊の行き先は一つか、と少年は魔剣を構え、先頭の二匹を睨み付ける。


「俺は勇者だ。たったそれだけで俺は貴様らを殲滅する。理由としては十分だろ」


 明らかに異常な様子で魔王軍を笑い、勇者らしい高らかな口上をせず、少年はふっと息を吐き、体の気を練り混み地面を蹴って足下を爆ぜさせた。


「ぜ、全軍てったーー」


 雪の上を駆けるかの如く地面を穿ちながら、少年は魔剣で指揮官であるミノタウロスナイトの喉を斬り裂く。それにより生じた斬撃が隣のオーガロードの頭を真っ二つに両断した。返しの一手によりミノタウロスナイトの胸を袈裟斬りする。

 中級魔族に成り立ての二匹は断面をズラしながら倒れ込み、赤黒い血溜まりを地面に作り出す。同胞を殺された激昂から血が頭に上がる低脳な下級魔族たちは、群がるように棍棒や槍を青年へ向けて突進し始めた。

 少年は迎え討つのではなく、殲滅するため死の波を駆ける。黒い魔剣の軌跡が宙に僅かに残り、刹那の後に崩れ落ちる者たちに少年は見向きもせず、迸る怒りをぶつけるように切り進む。

 津波のように押し寄せるミノタウロスとオーガを数分渡り斬り裂き続けた少年は、三分の二を屠って直接切って相手する事を止める。込み上げる感情を吐き出したかったからであり、まともな思考をしていなかった。


「絶技ーー」


 魔剣に魔力を注ぎ込む少年の姿は悪鬼羅刹の化物であり、周辺に迸る黒い魔力の余波が近くのオーガを縦に断裂させる。

 魔剣を上段斜めに構え、怒りのままに魔剣に注ぎ込んだ魔力を解放し、敵に対し一閃する。


「ーー塵閃(ジンセン)」

 

 範囲内の魔力を消滅させる凶悪な魔力刃を放ち、ミノタウロスやオーガごと範囲内にあった全てを滅ぼした。

 敵のみを滅ぼす絶技である筈なのだが、余剰に魔力を込めてしまった少年は、反動で少しだけ理性が戻り顔を顰めた。

 魔力をスッカラカンになる程込めてしまったのだと理解するのに時間は要らなかった。

 この過剰殺傷(オーバーキル)な成果は少年としては不本意であり、失言ならぬ失撃である。

 焼けた草や荒れ果てた畑だった場所には何も残っていないが、散った魔族の塵により土地が回復し数年もすれば良い土壌となるだろう。

 規模のでかい焼畑、と少年は折り合いを付けて無かったことにした。

 軽く血払いして魔剣を鞘に収めた少年はミノタウロスたちが向かっていた方角へと足を向けた。

 そこに行けば人が居る。

 少年も裏切った者たちに対しての怒りはあるが、流石に別世界の住人にまで手をかけるような性格はしていない。

 ただし、運命の女神だけは殺す事は確定事項だが。

 

「……噎せ返る臭さだ。水浴びがしたい……」


 魔力と未だ残る怒りをミノタウロスたちに八つ当たり気味に過剰の威力で叩き付けたので、ややスッキリした気分の少年は戻ってきた門に寄っ掛かる。水浴びに行きたいが自分を召喚した者に会わねばならない。先程の魔力で位置は特定できるだろう、と少年は鞘の留め具を外して抱き込み、四十八時間振りに休息を取ろうと瞼を閉じた。


「あー……、ちょいとすまんな若者よ」


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